服部 良一 社会民主党幹事長
中国との友好を推進する 国民運動の流れをつくる

本年は中日国交正常化50周年にもかかわらず、両国の友好ムードはあまり高まっていない。そうした中の5月11日、岸田文雄政権が看板政策に掲げる経済安全保障推進法が参院本会議で可決、成立した。先ごろ、社会民主党の服部良一幹事長を訪ね、中国の経済発展をどう見るか、東アジアの国際秩序と経済安保法の考え方、今後の中日関係の在り方などについて伺った。

経済発展を遂げた中国は

世界をリードする大国

―― 21世紀に入り、中国は飛躍的な経済発展を遂げました。こうした中国の経済発展をどのように見ていますか。

服部 中国の経済発展は、世界のどの国も認める流れであります。GDPそのものが、早ければ2025年、遅くとも2028年には米国を追い越すとも言われていますし、購買力を加味した評価では、すでに世界一になっているという評価もあります。

そして、中国人は昔からの華僑の歴史を有しており、世界的なネットワークを構築しておられます。ですから、いろんな意味で、今後の世界経済に決定的な影響力を持ち、世界経済をリードしていくことは、世界の誰しもが認めるところではないかと思います。

昨年、中国共産党100周年の記念行事に参加させていただいたときに、中国全体が豊かになるには、内陸部との経済格差を克服していくという課題があることもお聞きしました。そういう点では、中国の経済発展はまだ完成形ではなく、その途上にあるのだと受け止めております。

また、一帯一路の政策が、安保政策に絡めて、否定的に受け取られる部分があるのですが、やはり世界をリードする大国として、経済発展によって世界がウインウインになるような展望をお持ちであるだろうと期待しています。

インバウンドの予防対策は

各国と協議して決めるべき

―― 新型コロナウイルスの感染拡大で、それまで1000万人におよぶ中国からの観光客は途絶えました。このことが日本の観光行政や地方財政にも影響を及ぼしていると言われています。アフターコロナに向け、インバウンドはどうあるべきだとお考えですか。

服部 世界中から観光客を呼び込もうというのが国の戦略です。乗り物に乗っても、日本語、英語、中国語、韓国語などで放送の案内があり、そうしたおもてなしが日本経済の活性化につながるという期待感がありました。

しかし、コロナ禍でそれがなくなり、ホテル業界や航空業界をはじめ観光業界全体が大打撃を受けています。ですから、一日も早く自由な往来が復活して、中国をはじめとした海外からの観光客が増えることが、国民的な期待だといっても間違いないと思います。

そのためにも、やはり日本と中国の友好関係を良好な関係にしないといけません。国と国があたかも戦争に向かっているような雰囲気をつくったり、そういうことを煽るような政策には反対をしていくのがわれわれの立場です。

―― 6月から日本への入国制限が緩和されますが、アフターコロナに向けての感染予防策が不透明です。

服部 中国と日本のコロナ対策は違います。日本も最初は中国と同様にゼロコロナ政策でスタートしたのですが、ここまで感染が拡大し、新しい変異株が出てきたりして、政策が追いついていないのが現状です。

また、日本はワクチン接種を前提にマスク着用を緩和していく方向ですが、海外との往来にどのような影響が出てくるのか、そして実際にコロナは収束していくのか、それとも新たな変異種のコロナの感染が広がっていくのか、まだまだ見通しがついていません。

そういう中でのインバウンド再開ともなれば、予防対策が非常に重要になってくるのですが、やはり一国だけでは決められないと思います。国によって予防対策も違いますので、例えば中国側の意見を聴くなどして、一緒にルールづくりをすべきではないでしょうか。

東アジアはウインウインの

安全保障に取り組むべき

―― 近年、中米対立が激化する中、中日関係や日米関係にも影響が出てきていますが、東アジアの国際秩序について、どのように考えていますか。

服部 社民党は、土井たか子党首の時代に、土井ドクトリンという構想を打ち出し、北東アジアの安全保障体制を関係国でつくっていくべきだとして、北東アジアの非核地帯構想を打ち出しました。

日本には核を持たない、持ち込ませない、使わないという非核三原則があります。核保有大国である中国、ロシア、米国は国際的な条約の下で責任を果たすべく、北東アジアに非核地帯をつくるべきだという考え方は今も変わっていません。

この数年、米朝会談、南北会談が開催され、非核化に向けたステップ・アンド・ステップという流れがあり、私は大きく期待していました。

ところが、それがなかなか進まない理由の一つとして、米国の政策に問題があると考えています。せっかく北朝鮮が一歩踏み込もうとしているように見えても、米国は経済制裁を解除せず、韓国との軍事演習を続けています。これでは非核化地域の実現について、本気で米国が取り組もうとしているのか疑問です。

最近では、台湾有事を想定し、世界を価値観で分断するような政策を急に打ち出しました。それに日本が迎合したり、あるいは日本国民が何となくそういうムードになっていくのが一番危険なことですし、それに便乗して防衛費を上げるなど、軍事と軍事の競争になるようなことをしてはいけないというのがわれわれの立場です。

ですから、まずは朝鮮戦争の実質的な終結を関係国で話し合って、いわゆる昔の冷戦構造を完全に終結させ、お互いがウインウインになるような東アジアの安全保障に取り組むべきです。

米国に従属して、一緒に戦争をしようというようなことになると、日本そのものが破綻していくことになりかねないのです。

経済安保法は

経済版中国包囲網

―― 日本は、安全保障では同盟国・米国を最重要視しつつ、最大の貿易相手国である中国との経済協力も重視してきました。そうした中、「経済安全保障」への関心が高まっています。「過剰に中国を意識しすぎると狭い価値観になる」との指摘もありますが、いわゆる「経済安保」について、どのようにお考えですか。

服部 私は経済安保法には反対です。極めて危険な法律だと考えています。これは、いわば経済版中国包囲網の法律です。

この法律は、高度な先端技術の海外流出を防ぎ、経済や生活に欠かせない物資を確実に確保することが狙いとされていますが、政府の企業への介入が自由な経済活動を萎縮させる懸念や、科学技術の軍事化がすすみ研究活動を制約するおそれがあります。

そして、この法律の制定には、米国の対中政策と連動し、中国封じ込めの一翼を担おうという意図が見え隠れしています。国家が経済活動と深く関わる中国の経済制度に対抗するために、政府が民間企業の活動を管理し、関与を強めようとするものだという危機感を強く抱いています。

中国との友好を推進する

国民運動の流れをつくる

―― 本年は中日国交正常化50周年にもかかわらず、両国の友好ムードはあまり高まっていません。今後の中日関係をどのように展望していますか。また、良好な関係構築のために何かご提案はございますか。

服部 日本と中国との関係は友好関係でなければなりません。そのためには両国の交流を絶やさないことです。意見の違いや考え方の違いは当然あっていいわけですが、お互いが率直に意見を言い合える関係を築くことが最も重要です。

今年は国交正常化50周年の節目ですから、両国間の交流を盛り上げていくべきだと思います。しかし、今の政治の雰囲気では、訪中団を派遣して、友好を確認するというムードではありません。

しかし、こういう時こそ両国は、政治家、企業家、文化芸術団体、青年などさまざまなレベルで交流すべきであり、まずはその先陣として、本年9月の記念のときに超党派の国会議員で訪中し、率直に意見交換すべきであると提案しています。

また、日中間で取り交わした四つの政治文書について、もう一度しっかり学び、過去にどのような経緯で両国が合意をしてきたのか、50周年を節目に確認をする作業が必要だと思っています。

そのうえで、決して政治家やマスコミが両国の対立を煽るのではなく、若い世代を含め、友好を推進していこうという流れが出来て、国民運動になればすばらしいことだと考えています。