黄 曜東 日本中国白酒協会会長
中国の白酒文化を 中日交流の橋渡しに

「本年は中日国交正常化50周年です。その歴史を知る人びとの間では有名な話ですが、1972年9月、田中角栄首相が中国を訪れた際、周恩来総理は北京の人民大会堂で開かれた招宴の席で、茅台酒を振る舞いました。この50年、中日の政治、経済、文化交流の舞台では、しばしば茅台酒にまつわる美談が生まれました。茅台酒はすでに中日交流の橋渡し役を担っていると言えるでしょう」。6月1日、日本中国白酒協会の設立に当たり、初代の会長に就いた黄曜東氏は、われわれの取材に答えて率直な思いを語ってくれた。

「私が30数年前に来日した頃、日本では中国茶と言えばウーロン茶、中華料理と言えば麻婆豆腐とチンジャオロース、中国酒と言えば紹興酒とされ、中国の幅広く深淵な茶の文化、食文化、酒文化が日本では単一化されていることに不可解さを覚えました。これは両国の交流面における不十分さ、中国文化のプロモーション方法における問題、在日華僑華人が数的に弱小であることが要因ではないか、後にはそう考えるに至りました。そこで中国の酒文化、特に中国の茅台酒を広めたいとの思いから、日和商事株式会社を設立したのです」。

黄曜東会長は、中国の改革開放政策によって国の扉が開け放たれるや、繰り返し到来した「日本留学ブーム」をしみじみと思い起こす。

「当時、中日間には大きな経済格差があり、中国人留学生は苦学を強いられました。自身の学費と生活費を工面しながら、中国国内の親族の生活費の多くを負担するとともに、将来に備えて経済基盤も築かねばなりませんでした。当時、彼らの多くは毎日アルバイトを掛け持ちしていました。お金を貯めるためには、気ままに街へ出てお酒を飲んだり食事をしたりすることもできず、日本の友人と中華料理を食べに行ったとしても、それは『日本式』の中華料理で、日本人の食習慣に倣って『とりあえずビールで』ということになり、故郷の白酒とはほぼ無縁でした」。

黄曜東会長は感慨深げに話す。

「世の中は常に変化します。中国経済の発展、特に中国人の生活レベルが向上したことによって、在日華僑華人は百万人を超え、在留外国人の中では最多となり、彼らは懐かしい故郷の白酒を再び味わうことができるようになりました。さらに、多くの中国人留学生はアルバイトをする必要がなくなったばかりか、白酒の新たな消費者となったのです。3年前、茅台酒が協賛した中国の漫才師・郭徳綱の日本公演には、2日間で約1万人が来場しました」。

中国経済、華僑華人社会、中日交流における大きな変化は、中国の白酒文化の普及に新たなチャンスをもたらした。黄曜東会長は言う。

「近年、メーカーも日和商事も、日本市場での茅台酒と五糧液のプロモーション活動に力を入れています。例えば、新聞・雑誌に広告を掲載したり、池袋、新宿、秋葉原等、東京都内の主要駅付近に看板を設置したり、成田空港、羽田空港、北海道の空港の出発ロビーに広告を掲示したり、渋谷や目黒のドン・キホーテの外壁に大型の広告を掲げたり、日本のテレビ番組で茅台酒と五糧液の特集を組んだりしています。今年の北京冬季オリンピック期間中には、電通によるコマーシャルが、BSおよび地上波のテレビ局で31回放映されました。千葉・幕張で開催される『FOODEX JAPAN』には25年連続して出展しています。また、在日華人のコミュニティイベント等に協賛し、茅台酒、五糧液をはじめとする中国の白酒のために日本市場を開拓しています」。

黄曜東会長はさらに続けた。

「茅台酒も五糧液も健闘しています。2021年の世界時価総額ランキングにおいて、貴州茅台酒は16位、時価総額は3850億ドルでした。ディズニーは21位、トヨタ自動車は32位、コカコーラは38位、ソフトバンクは62位、マクドナルドは65位、宜賓五糧液は73位でした。2022年の『ブランドファイナンス Global 500』においては、茅台酒は32位にランクイン、ブランド価値評価額は492億ドルに達し、食品飲料業界で堂々の世界一に輝きました」。

黄曜東会長は今後の展望を語った。

「中国の茅台酒も五糧液も成長を続けており、日本における市場シェアも拡大しています。こうした背景のもと、日本人および華僑華人が白酒に対する理解をより一層深め、中国の白酒文化が大いに発揚されることを願って、われわれは『日本中国白酒協会』を設立することにしました。日本はアルコール大国であり、世界中のお酒を手に入れることができます。日本酒もジャパニーズウィスキーも、中国で大変人気があります。お酒に国境はありません。酒文化は異なる国家、民族間を結ぶ文化的紐帯と成り得るものです」。

黄曜東会長は自信満々に話す。

「中国の白酒メーカーは日本市場の開拓に期待しています。私もこの仕事を自身の使命と考えていますし、日本中国白酒協会を設立した目的もそこにあります。いつの日か、日本のお客様が中華レストランで『ハイボール』を注文するのと同じように、『バイボール』のボトルを注文する日が来ることを楽しみにしています」。

取材の最後に黄曜東会長はこう語った。

「50年前、茅台酒によって中日両国の新局面が開かれました。われわれは、茅台酒をはじめとする中国の白酒によって、中日関係の次の50年を開拓したいと願っています。今日、『国の交わりは民の親しきにあり』ということが言われますが、その過程において、白酒は必ずや特別な役割を果たすことができると信じています。そこには中国の歴史の重み、そしてまた文化の魅力があるのです」。