符 明潮 日本海南総商会会長
中日関係発展の秘訣は「小異を捨てて大同に就く」こと

経済的にも文化的にも立ち後れた未開の島であった海南島は、1988年に省として独立し、改革開放の新星、中国最大の経済開発区、そして今日の「改革開放の新高地」たる自由貿易港として飛躍的発展を遂げてきた。日本に住む海南省出身の華僑華人も架け橋となって、外資を誘致し、故郷の発展に貢献すると同時に、当事者、経験者、証人として、故郷とともに成長の足跡を刻んできた。

中日国交正常化50周年、ボアオ・アジアフォーラム2022年年次総会開催に際し、われわれは日本海南総商会の符明潮会長と、海南の発展機会及び今後の中日関係について語り合った。

「中日平和友好条約」締結40周年を記念し横浜YACAで『中華之夜』を開催(2018年)

 

海南は海南人のみならず
中国ひいては世界の海南

日本海南総商会は2014年2月16日に東京で設立され、海南省出身の在日華人ビジネスマンたちは、ようやく心の拠り所を得た。日本海南総商会には主に3つの役割がある。1つ目に、海南省出身の在日華人ビジネスマンと連携し、彼らが情報や経験を交換するためのプラットフォームを構築する。2つ目に、海南省出身の留学生の結束を図り、社会を理解し実践を深めるための機会を提供し、就職情報及び相談窓口を設ける。3つ目に、海南省出身の研究者たちの協力を得て先進技術を導入し、海南省の発展に寄与する。さらに、海南省と日本の経済界及び東南アジア、北米との科学技術交流、経済交流を推進することも、日本海南総商会の重要な任務である。

2016年、符明潮は各省の商会会長に呼びかけて訪問団を組織し、海南省視察を行い、海南省政府及び関連部門の責任者から高い評価を得た。2018年3月には、日本海南総商会と来日した海南大学代表団との間で、日本の大学生の海南省留学に関する協定を締結した。

日本海南総商会は数年連続して『中華之夜』イベントを開催し、中日の文化交流の推進、相互信頼の強化、両国の友好関係発展に力を注いでいる。「中日平和友好条約」締結40周年を記念して開催された『中華之夜』は空前の盛況で、華人社会でも日本社会でも大きな反響を呼んだ。

日本海南総商会は、義捐活動にも熱心に取り組んできた。2014年に超大型の台風第9号が海南省文昌市に上陸し、甚大な被害を与えた。日本海南総商会は義援金と物資を贈った。2020年初頭には、いち早く多くの支援物資を募って海南省に送り、省政府の防疫活動を支援した。

2018年、党中央は島内全域を自由貿易試験区とする決定を下し、次いで、優遇政策が発表されると、符明潮は故郷の飛躍的発展の好機と見て、2019年に海南省で起業することを決めた。「海南は海南人だけのものではなく、中国の海南であり、世界の海南なのです!」。符明潮は自信に満ちて海南の未来を語る。

海南大学副学長と覚書を交わす

 

教育こそ「富民」の礎

符明潮は海南省文昌市昌洒鎮の生まれである。当地は国母とされる宋慶齢の故郷でもある。1971年、符明潮は米国・ポートランド大学に留学し、経営学の学士課程と修士課程に学んだ。1977年に香港に戻り、東方海外貨櫃航運公司に就職した。間もなく、財務、人事、経営管理を担当する上級管理職として日本に派遣され、41年間務めてきた。

符明潮は1958年初頭に両親と共に香港へ移住し、1990年に初めて故郷に戻った。ところが、村や町には何の変化も見られなかった。故郷の発展が符明潮の一大事となった。発展の基盤となるのは教育である。

香港や日本各地を転々としてきた母親は、故郷に帰ることを楽しみにしていた。2002年、符明潮が母を伴って故郷を訪れると、村の昌洒華僑小学校は老朽化が進み、閉鎖統合の危機に瀕していた。符明潮は居ても立ってもいられなくなり、香港に住む同郷の符明清に相談し、2人は資金をつくり小学校を再建することを決めた。2004年、符明潮の主導の下、昌洒華僑小学校理事会及び教育基金会が設立され、再建が始動した。昌洒華僑小学校は翌年には完成し、再び児童を迎えた。その後も2008年まで増築と拡張を続け、750haの敷地内に体育館、教室棟、図書館、寮、会議室等を備える近代的な公立学校へと発展した。

人材の育成は百年の大計である。符明潮は今日に至るまで、毎年数回にわたって学校の視察に赴き、教師の抱える問題や授業内容を掌握するとともに、優秀な児童に奨学金を給付している。再建以来、昌洒華僑小学校から150名以上の農家の子弟が、省・市の重点中学に進んでいる。

知識には運命を変える力がある。農村の子ども達に良好な学習環境を提供し、好スタートを切らせてあげたいというのが、符明潮の故郷の教育事業に寄せる当初からの願いであった。彼の長年にわたる奮闘は、国家と社会の認めるところとなり、2019年10月1日、符明潮は招待を受けて、北京での新中国建国70周年を記念する軍事パレードに出席した。「私の人生最大の光栄です!」。

老朽化した昌洒華僑小学校を再建

 

係争を棚上げすることが、
関係発展の秘訣

2022年は中日国交正常化50周年である。符明潮夫妻も2年後に金婚式を迎える。夫婦円満の秘訣について、お互いを理解することと寛容であることだと話す。「いさかいがあっても取り合わないことです。次の日には忘れてしまいます」。

「中日関係についても同じことが言えます。周恩来総理が1972年に『小異を捨てて大同に就く』と語っている通りです」。これこそが、夫婦が50年近く連れ添う秘訣であり、中日の国交正常化以来の50年の経験であり、中日が次の50年に向けて指針とすべき知恵であろう。

取材後記

取材の最後に、中日関係の次の50年に話が及ぶと、符明潮会長はユーモラスに語った。「夫婦の関係と同じです。中日間にも対立や衝突はつきものです。『小異を捨てて大同に就く』精神で、コミュニケーションを図っていくことで、中日関係もきっとうまくいくことでしょう」。