庄 旭 日本吉林総商会会長
在日華僑は中日友好を担う自覚で

庄旭

2014年、前身である日本吉林同郷会を基盤として、中日でビジネスを展開する吉林省出身の在日の企業家40数名によって日本吉林総商会は設立され、庄旭氏が会長に選任された。日本吉林総商会はこの8年で、80数社の理事企業、800余名の一般会員を擁する華僑団体へと発展した。

4期連続して会長を務める庄旭氏が本誌編集部を訪れ、中日国交正常化からの50年を振り返り、華僑華人の中日経済文化交流に対する思いを語った。

全日本華僑華人社団連合会(全華連)所属の主要な省級商会と長春市が戦略合作協議を締結

 

知識が未来を開き、文化が友誼を盤石にする

1979年12月、時の大平正芳首相が訪中し、『日中文化交流協定』が調印され、日本側が教師及び資金を提供し、中国の日本語教師養成を支援するとの合意が成された。そして、1980年から5年をかけて、当時全国の大学で活躍中の日本語教師のレベルを上げるための訓練学校を設立、後に『大平学校』と呼ばれた。庄旭は『大平学校』の4期生である。

言語学者の金田一春彦氏らが直接中国に赴いて授業を担当し、全ての学生に専用の本棚が提供された。さらに、1カ月の日本研修では、松下幸之助、井上靖といったビジネス界や文学界の巨頭と直接触れ合う機会を得た。こうしたハード・ソフト両面にわたる恵まれた条件は、1980年代初頭の知識に飢えた若い中国人教師にとって、得難いものであった。『大平学校』の卒業生たちの多くが、今日、中日の経済、文化、科学研究分野の重要な立場で活躍している。

庄旭は、当時東北師範大学で教鞭を執っていた日本人教師のことを今も感慨深く思い起こすという。1980年代初頭の中国の大学では、外国人教師は稀少な人的資源であった。任期を終えて明治大学に戻ることになった彼は、妻に中国に残って学生たちに授業して欲しいと託したのだという。子どもたち二人も中国に残り、高校、大学を卒業した。現在、娘は日本屈指の同時通訳になり、今年の北京冬季オリンピックでNHKの同時通訳として活躍し、息子は日本の大手企業で中国事業の責任者を務めている。

近年の、中日間のお互いを排斥するような動きについて問うと、庄旭は短い言葉で急所を突いた。「根底に深い理解が欠けているのです!」。交流を深めることが、誤解を取り除くための最も有効な手段である。これまでがそうであったように、今後もそうあらねばならない。

日本吉林総商会の要請で程永華前駐日大使を名誉団長、厳浩日本中華総商会会長を団長とする代表団が吉林省を訪問

 

経済・文化交流の推進は不動の責務

日本吉林総商会は設立以来毎年、企業会員及び個人会員による吉林視察団を派遣するとともに、年に一度の『世界吉林商人大会』及び『長春市中日韓経済貿易交流会』、隔年開催の『中国・北東アジア博覧会』に出席している。

また、在日の中国各省の華僑団体に働きかけて代表団を組織し、吉林視察に赴いている。さらに、吉林省の各級指導者が率いる訪日視察の交渉や手配も請け負う。

吉林は中国屈指の農業省である。日本吉林総商会は、日本の農林業界の代表企業による吉林視察にも力を入れてきた。現地を視察することによって、中国に対して馴染みが薄く懐疑的であった日本企業が、次々と理解を深め、好意的になり、「隣人」から「友人」へと変わっていった。庄旭は感慨深く語る。「中国への理解を深めた日本の友人たちは、帰国後、歩く広告塔になってくれています」。

2018年、日本吉林総商会のチームは甘粛省に赴き、「在日華僑による貧困脱却難関攻略のための公益活動」を展開し、貧困家庭から技能実習生を日本へ派遣する事業を支援した。この活動には中国駐日本大使館も注目し、高く評価している。

『吉林文化ウイーク』は、吉林省が展開する伝統的な対外文化交流イベントである。2018年に日本で開催された際には、日本吉林総商会が運営に当たった。

吉林省・日本中国商会連盟が経済貿易合作懇談会を開催(2018年)

 

技能実習制度を活用し、新たな農村建設を支援 

大学入試復活後の第一期の大学生となった庄旭は、知識が人生を変えるという真理を、より強く実感していた。経済的に困難な農村の青年が技術を身に着け、貧困を抜け出して豊かになる手助けをしたいというのが、彼の長年の願いでもあった。

彼はこの30年ほどの間に、1万人以上の中国東北部の農村の青年たちを、技能実習生として日本に送った。研修を終えて帰国した青年たちは、物流サイトを立ち上げたり、農業体験・エコツアーの普及に取り組むなど、社会主義の新たな農村建設の模範を示している。2019年10月1日、庄旭は招待を受けて、北京での新中国建国70周年を記念する軍事パレードに出席した。

吉林省の貧しい県級市であった梅河口市は、日本への技能実習生派遣事業の重点地区であった。先ごろ、吉林省の一部地域で新型コロナウイルスの感染が拡大した際、地域で野菜や生鮮食品を一括買い付け・一括支給することになった。先進的農業技術によって生産された物資の多くが、かつての技能実習生の手によるものだと知り、庄旭は遠く離れた日本の地で胸を熱くした。

長年技能実習生の研修に携わってきた庄旭は、多くの日本企業と協力関係を築いてきた。これらの日本企業の責任者たちは、日本吉林総商会とともに中国に商談に赴くだけでなく、しばしば技能実習生の故郷へも足を運んだ。「私は観光に来たのではありません。親戚に会いに来たのです」。庄旭は、この言葉を幾度となく耳にした。

中国からの第1期貧困地区技能実習生を積極的に受け入れる(2019年3月10日)

 

取材後記

「中日両国は引越しのできない隣人ですから、友好交流の歩みを止めることはできませんし、止めてもなりません。そしてそれは世世代代に受け継がれていくべきです。中日両国の国情と文化に精通する在日華僑華人は、両国の友好を促進する潤滑剤としての覚悟を強くもつべきです」。中日両国の次の50年に話が及ぶと、庄旭会長は「世世代代」という明快な方向性を示し、在日華僑華人がそれぞれの立場で力を尽くし、共に調和のとれた明るい未来を建設していきたいと訴えた。