呉 啓龍 日本福建経済文化促進会会長
経済・文化交流は中日関係の礎

海は人類に豊かな資源と富をもたらし、挑戦意欲を掻き立てる。夢をもち進取の精神に富む若者たちは、世界中に足跡を刻んできた。冒険精神に富む福建省出身の在日華僑華人も、海を渡ってそれぞれの分野を開拓してきた。

中日国交正常化50周年に際し、三福(福建省福州市福清)出身の日本福建経済文化促進会の呉啓龍会長が本誌編集部を訪れ、福建商人の眼から見た中日の経済・文化交流及び今後の中日関係について語ってくれた。

福建省代表団訪日(2019年11月)

経済交流で中日関係を構築

2011年6月、日本で一定の経済的・社会的影響力を確立した福建省出身の華僑華人たちによって、日本福建経済文化促進会が東京で設立された。設立当初の会員は100人ほどであったが、現在、東京本部を中心に、大阪、千葉、神奈川に分会を置き、1400余名の会員を有する華僑団体に発展している。

2017年7月、呉啓龍は日本福建経済促進会の第5代会長に就くと、その後も第6代、第7代と再任され同職に留まり、会長在任期間の半分をコロナ禍の中で務めている。文化

感染防止策として、各国が相次いで水際対策を強化したことで、国家・地域間の経済・文化交流活動に深刻な影響が及んだ。しかし、呉啓龍率いる日本福建経済文化促進会は、経済・技術交流の歩みを止めることはなかった。

合意していた協力計画を進め、日本企業側の懸念を払拭するために、呉啓龍は日本側代表団の福建視察の全行程に随行し、全てのプロセス、全ての疑問を精査して問題を解決し、地方自治体への優遇政策を取り付けた。

年間売上高が1000億円を超える4社の日本企業が、相次いで福建省に工場を建設し、海面養殖の分野で協力を進めている。さらに、コロナ禍収束後には、日本企業数社が直接福建省に赴き、緊密な協力を協議することになっている。

中国共産党代表団訪日(2019年9月)

文化で中日民間交流を促進

1654年、63歳の隠元禅師は福建省福清から日本に渡り、日本黄檗宗を開くとともに、建築、医薬、茶道等の文化や技術、豊かな物産を日本にもたらし、江戸時代の繁栄に大きく貢献した。

1673年、後水尾法皇から『大光普照国師』の号を下賜され、以降50年おきに当時の天皇から国師号・大師号を下賜されている。煎茶、インゲン豆、レンコン、タケノコ、スイカ等々、日本人の生活の至る所に隠元禅師がもたらした文化が根付いている。

ところが今日の日本社会では、隠元禅師や黄檗宗に対する認識は極めて薄い。本年は中日国交正常化50周年であり、隠元禅師の350年遠諱である。日本福建経済文化促進会は、日本社会に黄檗文化に代表される中国文化を再認識させることを重要な使命としている。

呉啓龍会長は明言する。「中日友好は、金銭や物資の寄付だけで成されるものではありません。文化には、人を知らず知らずのうちに感化する力があります。われわれ日本福建経済文化促進会は、日本における中国文化の普及と伝承を喫緊の課題として位置付けてきました」。

長崎孔子廟は、在日華僑華人の先達たちの手によって、およそ129年前に建てられたもので、日本社会に中国文化を伝えながら、在日華僑華人の団結の紐帯となってきた。コロナ禍によって観光客が大きく減少し、長崎孔子廟が経営難に陥っていることを知ると、呉啓龍と日本福建経済文化促進会は直ちに手を差し伸べ、義援金を贈った。

本年2月、日本福建経済文化促進会は文化活動の一環として、冬季オリンピックを記念する写真展「日本に居る福建人 冬オリンピック中の福建」を東京で開催した。コロナ禍に見舞われたこの2年半の間も、同会は同様の文化活動を絶やすことなく開催してきた。

福建省福清市党委書記率いる視察団訪日(2019年4月)

故郷は夢の起点であり心の拠りどころ

福清は華僑の故郷として名高い。福清人の遺伝子には敢闘精神が刻み込まれている。呉啓龍が来日するまで、華僑の多くはインドネシアに渡っていた。彼の祖父母もインドネシア華僑である。

呉啓龍は来日当初、わずか7畳の部屋に7人の留学生がひしめくように暮らしていた。彼も当時の多くの留学生と同様に苦学を強いられたが、思索を重ねながら行動を起こし、資金を蓄えて起業に乗り出した。

来日して9年が経過した頃、呉啓龍は初めて故郷に帰省した。当時の彼は、すでに数店舗を経営する実業家であった。十分な財力をもった彼は、長年、故郷の教育事業に関心を寄せ支援を行ってきた。故郷が自然災害に見舞われた際も、コロナ禍発生以降も、日本福建経済文化促進会といち早く物資を集めて故郷の救援に駆け付けた。

2019年秋、かつて朝鮮戦争で出兵した父・呉昌順は、中国共産党中央委員会、国務院、中央軍事委員会から授与された中華人民共和国建国70周年の記念章を身に着けて、新中国建国70周年の軍事パレードに出席し、北京から帰宅した息子の呉啓龍を迎えてくれた。その時、呉啓龍の胸には民族の誇りが激しく波打った。「どんな成功をおさめたとしても、祖国を忘れることはできない。故郷に戻り故郷の為に働きたい」と。呉啓龍の一番の願いは、故郷に戻り故郷に恩返しをすることである。

日本福建経済文化促進会6周年祝賀イベント(2017年12月)

取材後記

「現在、中日間には確かに様々な問題が存在しています。次の50年、両国の関係がどんなに悪化したとしても、それほど悪くはならないでしょう。人民の交流と経済協力がなくなることはありませんから」。取材を終えると、呉啓龍会長は堅実な福建商人らしく、揺らぐことのない自身の思いを吐露して、次の仕事場へと向かった。

日本福建経済文化促進会が第14回世界華商大会に参加(2017年9月、ミャンマー・ヤンゴン)