五輪開会式の映像革命 張芸謀監督、世界を驚かす

2022年2月から3月にかけて、中国の首都・北京で開催した北京冬季オリンピック大会に続き、パラリンピック大会も3月13日、成功裡に幕を閉じた。今回、私が最も感銘を受けたのは、北京冬季オリンピック(以下、北京冬季五輪)の開会式の素晴らしさであった。この開会式の見どころは、「雪の結晶(雪花)」の表現に加え、特に映像表現の技術である。これまでの夏季、冬季五輪の演出とは、明らかに違っていた。世界の人々の想像も及ばない映像効果がそこに現れており、国際的な大イベントの中でも、極めて優れた印象を残している。

この冬季の祭典の演出は、世界的に著名な映画監督の張芸謀(チャン・イーモウ)氏が務めていた。張氏は2022年の北京冬季五輪では、「一つの世界」のテーマを掲げ、世界と新しい五輪を共有したい、という氏の強い熱情が反映されていた。この開会式の演出の中でも2008年北京夏季五輪と同じ理念が引き継がれていたが、何よりも印象深かく、開会式の「芯」となったのが、フィールド上の雪の結晶シーンであった。

冬季五輪の「冬」の季節感を出す端的で分かりやすいものとし、世界の雪の共通点にある美しい雪の結晶をモチーフに用いていた。初めは小さな雪の結晶が集まり、キラキラと光輝く巨大な雪の結晶へと変化していく。そのバリエーションは実に豊かなものであった。

開会式の最高潮のシーンは、聖火リレーの最終ランナー男女二人が、聖火台の前に並び立つ場面であった。彼ら二人の目の前には圧倒的な存在感を示す巨大な雪の結晶が現れたのであった。その巨大な雪の結晶には、五輪出場の91カ国と地域の名が記されていた。世界各国の雪の結晶はどれも大小同じ、形や内容も同じに統一されており、同監督の平和の祭典に向けたテーマである「一つの世界」の表現そのものと言えよう。

いま現実の世界を見渡すと、大小、強弱さまざまな異なる国々が存在している。しかし巨大な雪の結晶の表現には、すべての国は平等であり、連帯し合い、世界平和や繁栄に繋げる五輪の理念や精神が込められていた。これこそが、張監督の崇高なメッセージと言えるのではないだろうか。

北京冬季五輪の開会式には、中国の歴史や伝統、そして現代の姿が美しく簡潔に表されていた。それらの技術革新による演出は見事という他はない。開会式の中で空中に表れる映像は幻想的であり、美しい色鮮やかな魅力に富んだものであった。また、大型のディスプレイを巧みに繋ぎ合わせ(高さ約60m、横幅20m)、LDやレーザー光線を駆使した、巨大な映像スクリーン。どれをとっても、想像に絶するほどの大がかりな舞台装置であった。

世界的に有名な日本の映画監督・北野武氏は、中国・台湾メディアの取材に対し、「北京冬季五輪の開会式は素晴らしかった」として、高い評価を与えていた。

人類の歴史上の表現技術には、さまざまな手法が用いられてきた。人間は原始時代から何等かの目的を持ち、人のイメージで対象を描いたり、絵を描いたりしている。近代に入って、写真・映像技法が急速に進んだ。映像をスクリーンに写し出すなどの表現方法が、今日まで人類史が歩いてきた道のりでもあった。

ところが、北京冬季五輪の開会式では、これまでの表現技術を遥かに超えた、立体的な映像がテレビの画面に映し出された。すなわち、今回の北京冬季五輪の開会式は、まったく新しい映像によって世界中の人々に訴えかけるものになっていた。人間の心に訴える映像表現技術の急速な進歩は、我々の想像を遥かに上回っており、これまでの五輪開会式の印象を大きく書き換えたものと言ってよい。近い将来、こうしたデジタルな映像技術が、我々の想像できない形で世界に広まり、人々に親しまれ、発展していくに違いない。

今回の北京冬季五輪の開会式では、張監督のアイデアと実践、新技術の融合が大変素晴らしく、「五輪映像革命」を起こしたものと言えよう。張監督の示した映像技術は間違いなく、今後の世界の五輪開会式、閉会式の演出に受け継がれていくはずだ。大きな影響を与え、さらなる発展と演出技術の向上に、開会式の演出がきっかけを作ったことになる。

世界の五輪だけでなく、アジア大会、ユニバーシアード大会(学生らの国際競技大会)など、国際的な大きなイベントに良い影響を与えることは確実である。未来の無限の可能性を秘めるデジタルの契機となったのが、今回の北京冬季五輪でもあり、世界における新しい映像技術の時代の幕開けを予感させた。その原点が、今回の北京冬季五輪の開会式の中に明らかに存在していた。


中国駐大阪総領事館広報アドバイザー・中国社会科学院文学博士 貫井 正