林 立 日本浙江総商会会長
民間交流を一歩ずつ前へ

2022年は、中日両国にとって特別な年である。50年前、両国の多方面の努力によって中日国交正常化が実現し、半世紀の間、紆余曲折を経ながら中日関係は安定的に発展を遂げてきた。日本で奮闘する華僑団体は、間違いなく中日関係の発展に大きな役割を果たしてきた。本年の大型シリーズ企画として、「在日華僑団体トップが語る中日国交正常化50周年」をお届けする。

中国経済の発展にとって「浙商」は欠くことのできない存在である。「天下の先たることを恐れず、革新と起業の活力に満ちた」浙商精神は、浙江省出身の在日華僑同胞にも受け継がれている。

先ごろ、日本浙江総商会の林立会長が本誌編集部を訪れ、在日「浙商」から見た中日国交正常化50周年および、その影響と変化について語ってくれた。

民間の協力を強化し、堅実に物事に対処する 

2022年は中日国交正常化50周年であるとともに、浙江省と静岡県の友好提携40周年である。2013年、日本温州總商会を土台に日本浙江総商会は設立され、浙江省の企業と静岡県の企業の交流促進を重要な任務のひとつとしてきた。

「中日国交正常化からの50年、両国関係はジェットコースターのようでした。しかし、ハイレベルで如何なる変動が起きようとも、民間における協力・交流、共同発展という主旋律が揺らぐことはありませんでした」。この2年、コロナ禍によって国際交流は遮断され、浙江省と静岡県の代表団の相互派遣も中断を余儀なくされた。先に静岡県の民間友好団体がしびれを切らし、交流の停滞が両国の経済、文化、外交面に長期的な悪影響を及ぼすことを懸念し、静岡県に対して、早急に交流活動を回復させるための措置を講じるよう促した。

林立会長は想起する。「10年前の中日関係の低迷期に、川勝平太静岡県知事は、ためらうことなく、政財界の代表団を率いて浙江省を訪れ、実際の行動で、平和と発展こそが両国の民間の人びとの真実の願いであることを証明しました」。

静岡県と浙江省の政財界の協力・交流を推進

静岡県と浙江省の間で代表団の相互派遣を始めて40年になる。浙江省の急速な発展に伴い、交流の成果を上げるべく、如何に静岡県の経済活力を刺激し、より多くの中国投資家の関心を引き付けるかが、日本浙江総商会の関心事の一つとなっている。

中国がデジタル化へのプロセスで得た強みを活かして、日本浙江総商会はデータベースの構築に着手し、中国に関心をもち中国との取引を希望する日本企業の情報をできる限り多く収集し、両国の経営者のペアリングとプラットフォームの構築をサポートしている。また、ウェブサイト上に静岡県のリソースを紹介する窓口を開設し、対日投資・交渉を希望する中国企業の問い合わせに応じている。

2018年に浙江省外事僑務弁公室より「浙江省海外模範華僑団体」の称号を受ける

在日華人による完全なビジネス・エコシステムを形成

20年前、身近なリソースを元手に、林立は靴業界に参入した。当初は中間業者として、日本の顧客から注文を受け、中国企業に生産を委託していた。日本人は製品に対する要求度が高く、一つの製品に対して数回修正を加えるのが常であった。日本に住む林立には理解できるのだが、中国のメーカーに説明するのに骨が折れた。「いっそのこと、自分で工場を造ってしまおう!」。林立は、日本市場向けの高水準・高品質製品の生産を目指すことを決めた。ほどなくして、林立の評判は次第に高まり、顧客は卸売業者から大型百貨店チェーンへと移った。

「ここ数年は、当社の従業員も顧客もすべて日本人ですが、普段付き合っている友人は、ほぼ中国人です。10年前は日本料理を食べる機会が多かったのですが、今は中華料理をより多く食べます。かつては、日本語ができない状態で、日本で生活することなど考えられませんでしたが、今では、日本語ができない中国人も、日本で不便なく暮らせるようになりました」。林立会長は、中国経済と在日華人の影響力が次第に大きくなっていることを、巧みに表現する。「在日華人が形成した経済圏と文化圏によって、完全なビジネス・エコシステムが形成され、それは日本社会にも波及し、日本の若者たちの生活様式や消費傾向にも影響を及ぼしています」。

交流イベントで、在日同郷同胞の団結を図る

たゆまぬ努力を積み重ね、在日同胞の名声を得る

華僑団体の管理・運営には、熱意、愛情、ボランティア精神のみならず、気力、財力、求心力が求められる。現在、浙江省出身の在日華僑華人はおよそ2万人で、他の省と比較すると決して多いとは言えないが、日本浙江総商会は数多くの仕事を着実に遂行し、多くの在日同胞の間で名声を得ている。

日本浙江総商会は毎年10月に「浙江之夜」の集いを開催している。在日同郷同胞が一堂に会し、国慶節と中秋節を祝いながら、成果を総括し、経験を分かち合い、ビジョンを語り合う。長年の弛まぬ努力によって、この集いは日本では名高い華人の文化イベントとなった。

2020年に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生してより、中文学校を含む日本の大部分の学校で、オンライン授業が行われるようになった。日本浙江総商会の「浙江之夜」もオンラインで開催され、会員の寄付やチャリティオークションで資金を調達し、学校で交流がもてない児童・生徒のために、50人分の華字新聞の購読予約を手配した。チャリティオークションは今年も開催される予定で、今年は100人分を目標にしている。

日本浙江総商会によるイベント「浙江之夜」は名高い華人の文化イベントに

商会の資産を増強し、運営経費を賄うために、日本浙江総商会は様々な試みを行ってきた。商会の企業実体である日本浙商株式会社の設立、アセットライトプロジェクトの発掘、浙江省文化観光庁、経済情報庁、商務庁等との緊密な連携、ビジネス視察や訪日研修の受け入れ等である。その過程においては、手に負えないような困難にも遭遇したが、林立会長は努力を怠ることがなかった。

民間交流を一歩ずつ前へ

「日本は対中関係となると、話をとても複雑にします。日本とアメリカは同盟関係にありますが、距離的にも、市場の潜在力から考えても、中国は日本の重要なパートナーです。華僑団体である日本浙江総商会の使命は、先ず、浙江省の一地域にしっかり奉仕し、日本の都道府県との橋渡しをし、民間交流を一歩ずつ進めることです」。教養豊かで上品な「浙南漢子」は、口調は穏やかであるが、言葉には力強さがある。中日関係の次の50年について語るとき、林立会長の言葉には「浙商」の堅実さが現れていた。