photo by S.Kida
県を跨ぐ移動が解禁した6月末、福井で越前織田焼椿窯の陶主五島哲氏を取材してきた。取材は極めて和やかな雰囲気で行われ、現地の友人達の同行もあったので、皆で冗談あり笑いありの取材だった。
五島哲氏は1941年福井市松ケ枝生まれ、20代の若き日に瀬戸に赴き加藤釥先生に師事し、焼き物の基本について修業をしてきた。厳しい加藤先生の元で焼き物の訓練を終えた彼は故郷の福井に戻ることになる。1970年、県の窯業試験研修生として韓国の梨花女子大学の黄鐘禮先生に師事することになる。同級生にはアメリカ人女子学生が一人だけいたという。若き日の写真を懐かしそうに見せていただき、冗談を交えて、当初は軍権政治の韓国で、とても厳しい管理下で大学に出入りしていたことや、若き留学時代の話で盛り上がった。偶然語学留学でソウルに詳しい二人はソウルの話でも盛り上がった。
アトリエ提供
韓国での勉強を経て、帰国した五島氏は越前織田焼椿窯を築くことになる。陶主の五島氏の経歴からもわかるように、椿窯のルーツは瀬戸と韓国にある。瀬戸で師事した加藤家は、瀬戸で最も歴史の長い伝統の家系であり、800年もの歴史がある。その伝統ある加藤家で、とても厳しい指導を受けたことは、氏に大きな影響を与えている。瀬戸と韓国の留学経験により、五島氏の椿窯は独特な特徴を帯びている。平成元年(1989)に日本伝統工芸士に認定され、二年後の平成3年には天皇陛下に釉彩花瓶をお買い上げされる。それに続き、靖国神社に青磁釉花瓶が奉納され、天皇陛下書院の間に飾られている。
photo by S.Kida
日本国内でのロイヤルファミリーとの陶器を通じた縁で、平成19年には継体天皇御即位1500年大祭に青磁皆具を奉納している。海外では、ブータン国王に越前丹生彩皆具と青磁釉茶盌が献上されている。
五島氏のアルバムを覗くと、陶芸家としての日韓文化交流に長い間活躍されたことが伺われる。韓国の茗園文化財団との交流などを活発に行ってきた。アルバムの中の写真の数々がそれを物語っている。
越前焼1の歴史を紐解くと、その誕生は今から約850年前の平安時代に遡る。越前焼は福井県丹生郡越前町で作られている陶磁器である越前では元々須恵器を焼いていた地域だったが断絶し、平安時代末期に常滑の技術を導入して越前焼を作り始めた。製品としては主に壺、甕、すり鉢が生産されている。室町時代後期になると朝倉氏が居を構える一乗谷が地方都市として隆盛を迎えるのと同調するように越前焼も最盛期を迎え、陸路の他、河川、海路を利用し、北海道南部から島根県まで広域に流通していく。
こうして、越前焼は瀬戸、越前、常滑、信楽、丹波、備前の、日本古来の技術を伝承する「日本六古窯」に数えられるようになった。
穴窯で焼き締められた肌には自然釉が溶けかかり、肩の張った器形が多く見られる。五島氏の器は彼独自の趣向が施され、天皇家に奉納されることもあるほど上品である。越前漆、越前和紙等福井の伝統の優れた工芸を融合し、使い切る柔軟さも持ち合わせている。
福井には曹洞宗大本山永平寺があり、中国浙江省と姉妹都市になっている。13世紀の初めに開祖道元禅師は、浙江省寧波市にある天童寺の如淨禅師のもとで修行をした。それゆえ、浙江省と福井県の姉妹都市締結が杭州や紹興市、あるいは大学間の姉妹校交流など広範囲に渡るのはとても自然だ。
取材中は遣唐使の話まで飛び出したり、韓国留学時代の話で相当盛り上がった。アジアの日中韓が、殊更この陶芸の世界ではお互いに影響し合った歴史だったことも確認できた。百済や新羅の内戦に負け敗戦した将軍が2000人の部下を率いて埼玉に逃げてきてお寺を建立していた話とか、遣唐使が薬草やいろんなものを運んだ話とか、話題が尽きなかった。
photo by mr.Hata
五島氏は今まで様々な受賞歴もある。福井県伝統的工芸優秀継承者表彰を受けたのが平成9年(1998)、全国伝統的工芸品公募展において丹生彩角水指が優秀デザイン、中小企業庁長官賞を受賞した。
白髪の知的な五島氏の明るい笑顔、それはクリエイティブで好きなことを天職にしている人独特のすっきりした表情に刻まれている。取材を終えて離れようとしている私に工房から奥の草叢に入り、古い磁片を拾ってきてくれる優しさ。そこは長い歴史を誇る古い跡地なのだ。大事に所蔵しておくことにした。
たくさん笑いながらの楽しい取材の時間だった。さすが、日本で幸福度の最も高い県だ。福井弁のよく聞き取れない部分も、面白いイントネーションまですでに懐かしい。
福井では、茅葺きの宿悠久ロマンの杜に泊まり、蛍が水辺に光っていた。三日月が空にかかり、水に投影される自然豊かな場所で夜遅くには満点の星が夜空に光った。今まで見た最も綺麗な星空だったかなあ。カエルの大合唱で寝られないので、レディガガの歌をイヤホンで聴きながら寝た。早朝4時頃に起きたらピンクがかった空模様がとてもロマンチックだった。早く福井に帰りたいと思う。ここはきっと昔の夢で住んだことのある故郷だ。
洪 欣
東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。ダブルスクールで文化服装学院デザイン課程の修士号取得。その後パリに留学した経験を持つ。デザイナー兼現代美術家、画廊経営者、作家としてマルチに活躍。アジアを世界に発信する文化人。
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