アジアの眼〈13〉
日本陶芸界の鬼才
「桃山以来の桃山備前」を作り上げた天才作家 安倍安人

岡山で40年以上使い続けた窯を持つ安倍安人氏を訪ね、インタビューした。牛窓という竹久夢二の故郷の近くに長い間焼き物の窯を持ち続けている安倍さんは、備前焼というジャンルには治まりきらない自由な作り手で、マルチタレントな陶芸家だ。

 

彼は、最初は洋画を勉強し、平面作品を作って発表していたという。関西では相当有名な大手画廊によって、作品もすごい勢いで売れたいわゆる売れっ子作家だった。バブルの最中でもあり作品はよく売れたという。しかし、ある時焼き物を作ってみたら、戻れなくなるぐらいはまってしまったという。

独学で陶芸の道へ入るが、1972年に完全地下式穴窯にて作陶を始め、その後完全な地下式穴窯で主として備前、信楽、伊賀などの焼締を焼き続ける。そして、1967年に東京で第一回個展を開くことになる。彼の作品は窯の中で何回も何回も納得がいくまで重ねて焼くという、前人未踏のやり方をしているという。それによって作り出された色彩備前の魅力溢れる作品はとても独特で色っぽい。異彩を放つ作品は彼の長年にわたる少年のような好奇心と探求心を重ねた結果ばかりではなく、どこか科学者が実験室で実験でもしているような風にも見えたり、絶え間なく新しいことに挑戦し続けるところは疲れを知らない修業者にも感じられる。なぜなら、形から色彩や焼き方まで人がやったことのないやり方を通しているところはちゃんと作品に表れているからである。

正直、もっと楽なやり方もあるはずなのに、いい意味で頑固に自分の道を歩んでいる勇士のような気高さゆえ、備前の改革者と言える域の安倍安人の世界が評価され、アメリカのメトロポリタン美術館、台北の故宮博物院、およびイギリスのFizwilliam美術館にも作品が所蔵される結果につながっていると思う。

アメリカのメトロポリタン美術館もさることながら、2016年に台湾国立故宮博物院に備前焼作品3点が所蔵された。おそらく、日本人の現存する焼き物が故宮博物院に所蔵されるのははじめてではないだろうか。

Fizwilliam美術館は、1816年にリチャード7世のフイッツウイリアム子爵のコレクションを元に設立された美術館である。モネ、ルノワール、セザンヌ、ピカソなども所蔵されている。ケンブリッジ大学の関係者がコレクターで、自身がBonhamsオークションで落札して寄贈したそうだ。

古器を学び、文化の変遷から桃山時代に大変有名な備前焼と備前焼の作り方を研究し、熱心に古代窯の遺跡などを調査し、公開されることのほとんどなかった名品、桃山時代の楽焼や備前焼などの名器を手にして直に観察し、手で触り、その上で自ら築窯して自分が読み解いた桃山名器の本質の再現に向けて、納得のいく結果が得られるまで工夫を凝らし注1続けることができたからこそ、「本物」の造形法と桃山時代特有の自由奔放な造形精神を注2見出し、ひいては桃山陶の造形に一つの理念を発見した。その再現に全力を注いだ結果がいまだその道は続いている感じで、その剛健な作風は見る者の心を奪い、古陶鑑賞の玄人達をも驚嘆させるほどだという。長年の絶え間ない模索と努力のもとで、独創的な休み焚きが発案された。黄色い自然釉に金彩、色鮮やかなガラス釉薬を加えて作られた彩色備前の誕生秘話である。


彩色備前扁壺《丸·FUJIYAMA》 2018年/アトリエ提供

いわゆる名器との「巡り合わせ」を積極的に開拓し、貪欲に吸収して独自の観察眼「本能」により、桃山精神を見事に再現した注3。それをコレクター達は「桃山以来の桃山備前だ」と驚嘆する。画商の池内克哉氏注4は「もちろん、『古備前写し』ではなくて、桃山の造形と焼成を巧みに活かした、彼独自の作品」と評価する。

イビツに秘められている奥深さ、点と線と面において形成されている自分なりの解釈と定義に作品の魅力はあるのだと思われる。一方、焼成においては、「1日焼くだけ」というより、「数日にわたり、1日ずつ断続的に焼く」という進め方をする。「休み焚き」の出来上がりだ。


撮影/チャールズ綱島

実際、彼の1973年頃に製作した備前焼第1号作品は主婦の友社が発行している『茶碗 名物茶碗と現代の名碗』という専門誌に、人間国宝の伊勢崎淳氏と同じページで紹介されている。

同じものを楽に作るのを拒み、少年のような楽しい眼差しで作品を作り続ける安人巨匠は世界中の美術館で展示会が絶えない。見る側も、一瞬楽しい子供時代に引き戻されるようなわくわく感を味わえるのが、作品と作る人の魅力だろう。

安人巨匠は、相手と場合によらず、最高のものだけを見せようとして、産みの苦しみを繰り返す。その生き様に惚れ込むフアンは少なくない。筆者もその一人である。器を焼くたびに何かを「失い」、その「失う勇気」からもっと良いものを「スタート」して見せてくれるだろう。

注1:ミラー和空「情愛のかたちに」参照。

注2:林華山氏の画集の挨拶文参照。

注3:ミラー和空「情愛のかたちに」参照。

注4:日本の古美術商、今は二代目の息子が現代アートを扱う画廊を東京で経営している。

 

 

洪 欣

東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。ダブルスクールで文化服装学院デザイン課程の修士号取得。その後パリに留学した経験を持つ。デザイナー兼現代美術家、画廊経営者、作家としてマルチに活躍。アジアを世界に発信する文化人。