日本画生 藤島博文
「日中文化同盟論」を考える(1)


天皇陛下御即位二十年奉祝画
「平成鳳凰天来之図」(210cm × 165cm)

満月の美しい今宵、月光が庭の白梅に煌々と降り注ぎ、その清香が画室に漂っています。

この梅花は、寒さ厳しき日々を待ちわびてこそ花開く春告花であり、遠き日、中国大陸より伝えられたと申します。

先年の令和改元にあたり梅はその元意となりましたが、「元号」という遥か漢代の習わしが今も我が国の皇室で息づいており、それはまさに人類の奇跡といえましょう。この一例をはじめ古代より中国の文化文明が日本国に与えた恩恵は実に多大であります。

その後、中世鎌倉期に蒙古襲来を受けましたが、近代になって、理由はともあれ軍靴が大陸を荒らしたことは許し難く、絵の名手だった私の叔父も二十三歳の若さを上海の土に埋めました。彼の魂は、今も私を遠く呼んでいるのです。

戦後、日本国民は働きに働き、ついに経済大国となり、政府はODAを通じて中国発展に巨額を投じました。中国は、指導者の寛容と賢明さ、ドラマ『大地の子』にみる人民の優しさを背景にやがて空前の発展を遂げ、今やその交流は、日中友好七団体をはじめ、文化面にあっても書画家二百余名が我が国でご活躍される程となりました。

両国によるこのような正史正流を見つめる時、今こそ友好交流を更に強固なものとすべく「文化同盟」へと昇華させて、国民と人民が共に麗しく交わり、政治家はもとよりすべての人々を敬いながら、文化力による成熟人生、成熟国家、そして世界平和実現への大道を共々に歩みたいものであります。

一方、戦後の我が国はアメリカと軍事同盟を結び平和国家を築いてまいりましたが、現代において、資本主義的数字文化のひずみが、図らずも人心荒廃、逆民主主義や欲望社会の肥大化を招くこととなり、次なる理想とする世の中を追い求めた時、私は、深い精神文化の歴史に裏付けされた日中両国の叡智を集結させることにこそあると思い至りました。

先哲は、自己を修め、国を治める知徳として、「文武両道」「知勇兼備」を説きましたが、現代では、「文」を学問的文化力、「武」を豊かな経済力と置き換える事ができましょう。

古来より多くの国々は争いと統治を繰り返しつつ一国を形成させましたが、未来にあって、世界がひとつとなるためには、力による「軍事同盟」ではなく、智と勇による「文化同盟」から始まるものと思い、『日中文化同盟』はその先駆けとなりたいものであります。

これらについて、この度、浅学菲才をも顧みず、権威ある本誌にて半年間にわたり述べさせていただく事となり、どうか皆様方のお知恵を賜りたくよろしくお願い申し上げます。

 

プロフィール

1941年、徳島県美馬市生まれ。71年、日展初入選後、特選二回受賞、審査員となる。2005年、内閣総理大臣官邸正面玄関に「唐詩選より 黄鶴の図」が飾られる。09年、天皇陛下御即位二十年の委員となり、奉祝画「平成鳳凰天来之図」を謹筆する。03年から清華大学、中国人民大学など中国にて講演多数。著書に『美感革命』到知出版社。『日本人の美伝子』PHP研究所。『美育講演録』一茎書房(近日出版予定)など。日展会員。日中発展協会理事。つくば市在住。