大澤正夫 『三ノ輪歯科』院長
「白衣を着ない」歯科医師と6つのこだわり

“歯医者さん”に対しては多少言いたいことがある。この5年間毎月のように治療に通っているからだ。「一連の治療を12回以内の通院で終える」と言い切る歯科医師がいる。インタビュアーである私に「いい歯医者とは?」「歯医者の良心とは?」と問いかけながら理路整然と持論を展開する三ノ輪歯科の大澤正夫院長に『信頼できる歯医者』の姿を垣間見た。(聞き手は本誌編集長 蒋豊)

 

歯科医師の選択は慎重に

—— 先生は、“回り道”を経て歯科医師になったそうですね。その人生経験から理想の歯科医師についてどうお考えですか。

大澤 一般的に歯科医師は 大学卒業後直ぐに歯科医師になりますから歯科医師という職業を客観的に見る機会がありません。しかし、私は高校卒業後の16年間に12の職種を経験しました。34歳の時、歯科大学に進み「記憶に残る歯科医師に…」と目標を定め、2年の修業の後43歳で開業しました。

開業したものの、そう簡単に患者さんは来てくれません。

『どうしたら支持される歯科医院になるか?』

通常は『優しい・痛くない・混んでいることが重要』と考えますが、私は、そうは考えませんでした。

『信頼できる歯科医師』には3つの要件があります。

①的確な診断と正確な治療ができる

②その治療が長期的に機能する

③患者が困っているときに対応する

私が子どもの頃に比べると、日本の歯科医師数は3倍以上の10万人を越え、今では患者が歯医者を選べる時代になりました。とても有難いことです。

 

六つの特徴を堅持

——  日本で歯医者さんに通ったことのある中国人に共通の悩みがあります。治療期間が長いことと、一度行ったらずっと同じ歯医者さんに行かなければならないように感じます。

大澤 日本人も同じように思っていますよ。子どもの頃、よくこんな会話を耳にしました。「あら、奥さんどちらまで?」「歯医者よ」「大変ねぇ、歯医者は長いからね」。50年以上経った今も、このやり取りに違和感はありません。

私どもでは『当院の特徴』として以下の6点を掲げています。

①初診時に『何回かかるのか?』をハッキリとお伝えします。通院回数を示すことは「計画がある」ということです。行き当たりばったりの治療ではいけません。

②どんな口腔内状況でも『最大12回』で終るよう立案します。皆さん暇を持て余して歯医者に来るわけではありません。治療期間の設定が出来なければ『実力に疑義あり』と言われても仕方ないでしょう。

③『緊急時は090-3503-8871』。出るまで何度でも鳴らして下さい。携帯電話の番号を公開し、連絡を頂けば24時間いつでも対応します。私の都合が悪いときには、歯科医師である息子が対応致します。

④先ずは『健康保険が使える範囲内での治療』を提案します。保険証を持って受診するのならば、『健康保険』を使っての治療が大前提です。先ずは「お金のかからない治療」からです。納得できれば「お金のかかる」治療を考えたらいいのです。

⑤『保険外治療は治療補償致します』。歯の被せ物が人工のものですから、破損する可能性を孕んでいます。補償期間は3年、不注意で破損した場合も含め無料でやり替えに応じますが、『補償は要らない』という患者さんには3割引きにしています。

⑥『1年365日年中無休』7:00~19:00(但し水日祝は13:00まで)。私どもは下町の普通の歯科医院です。保険の治療費さえ十分持っていない患者さんもお出でになります。そこで、最初に、こう尋ねるようにしています。「治療費はどれくらい考えていますか?」。初診時にそこのところをハッキリとさせておけば何度も通院した後に「こんな筈ではなかった…」と思うことはなくなります。

日本では『患者は医師に従うべきもの、余計な口出しは無用』とされてきました。そして今もまだそういった風潮があることは否めません。そして、多少納得できないことがあっても「いい患者」で居ようとするのです。不満をちゃんと口にするという意味では、中国人の方が毅然としているように感じますけどね。

 

 

中国人患者の23年来の支持に感謝

—— 三ノ輪歯科には中国人スタッフもいるそうですね。中国人の患者に何かアドバイスを頂けますか。

大澤 中国人の患者さんは毎日のように来院されます。18年ほど前、初めて中国人を雇いました。患者として通院していた留学生でしたが、そのうち、「アルバイトをしたい」と。彼女は期待以上に働いてくれました。特に有難かったのは、中国人の患者さんに母国語で説明してもらえることでした。中国人患者の多くは日本語が堪能ですがやはり母国語で意思疎通ができると安心感が違いますよね。

日本人でも中国人でも或いはその他の国籍の方でも歯肉炎の方が多いですね。これは丁寧なブラッシング指導をする歯科医院が少ないことが大きな理由ですが、『困った時にしか歯医者に行かない』といった患者側の責任も大きいですね。

もう一つ中国人患者の特徴と言えば、歯を抜きたがらないことです。いよいよどうしようもなくなってから、やっと…ということが多いですね。抜歯を考えなくてはならない歯は多くの場合歯根周囲の骨(歯槽骨)の破壊を伴います。

「どうしようもなくなってから」では更に骨破壊が進み、傷が治った後の「次の一手」が打ちにくくなってしまうのです。

 

 

ポストコロナ禍に向けて

—— 日本も諸外国もコロナ禍収束への道のりは遠くその影響は様々な業界に及んでいます。治療リスクに対する対策、長期戦への備えについては如何でしょうか。

大澤 エアロゾルレベルでの歯科医院の汚染ははかり知れません。従ってどこまで消毒・滅菌をしても『ここまでやったら完璧』ということにはなりません。

院内では、スリッパに履き替えることなく土足で受診してもらっています。他人が足を通したものに触れたくはないですからね。

私どもでは、患者さんの口腔内に手を入れるのは歯科医師だけです。ですから、患者さんに『入れ歯を取り外して下さい』とも言いませんし、自らの症状をお話し頂く際にも、『口の中に手指を入れないで下さい』とお願いしています。そうしないと、唾液とか血液が付着した手であちこち触れられてしまうからです。

口腔内に入る小器具の衛生管理にも万全の注意を払ってきました。使用済みの器具は水道水と洗剤を使って洗浄後、高速洗浄、更に蒸気滅菌します。採用している滅菌システムは「クラスB」と呼ばれる世界最高水準のものです。

待合室と4つの個室診察室には0.0024ミクロンレベルの、ウィルス除菌率99.9%の空気清浄機を設置しています。コロナウィルスの大きさが0.1ミクロンとされているので、この空気清浄機の性能の高さがお分かりでしょう。

お気付きかと思いますが、私は白衣を着ていません。白衣は清潔な印象を与えますが、ウィルスレベルでの汚染となると

本来は治療対象が替わる度に着替えるべきものと思いますが、残念ながらそこまで神経を使って、診療に当たっている歯科医師はおりません。

私でさえ、日に数回Tシャツ(同じ灰色のTシャツは30枚以上持っています)を取り換える程度ですが、マスク・手術用手袋は患者毎に使い捨てにしています。

治療用椅子に備え付けの(歯の)切削器具・歯石除去器具・歯の洗浄器具などは、患者毎に交換するため各々50本以上用意しています。

コロナ禍が叫ばれて以降やり始めたことは、以前は午前、午後の診療終了時にしか行っていなかった清掃を診療時間中にもやるようになったこと、術者仕様のフェイスガードを採用したこと、洗剤・アルコールに加え、次亜塩素酸ナトリウム水溶液も使用するようになりました。

そして 患者さんには非接触検温を必須とする、とともに手指のアルコール消毒を励行して頂いております。

コロナ禍はもちろん経済も直撃しています。今後恐ろしいほどの不景気になるでしょうね。そこで、インプラント治療を半額で提供することにしました。

『1ピースは20万円を10万円、2ピースは35万円が17万5000円』となります。

当面『12月31日まで』としていますがその後も続けざるを得ないのではないか…と感じています。