髙橋弘 医療法人社団ヴェリタス・メディカル・パートナーズ理事長
総合診断することで最良の治療法を提供

髙橋弘院長は長年、日本の大学病院やハーバード大学附属マサチュ−セッツ総合病院で肝炎・遺伝子・がんの免疫治療の研究・臨床経験を積み重ねてきた。その豊かな経験から、患者が何を求めているのか丁寧に耳を傾けて、病状を総合的に判断し、先進的で最適な治療を提供している。また、一般疾患の治療の他に、セカンドオピニオン外来を設け、がんやウイルス肝炎治療で悩む患者が「生きる可能性」という選択肢を選ぶためのアドバイスをしている。その他に、病気にならない食習慣のために「ファイトケミカル」という機能性成分を含んだ野菜の摂取を推奨している。ハーバード大学内科准教授から臨床医科学者(physician-scientist)への道、根底に流れる気持ちは同じであり、医師として輝きはますます増している。

細分化された中の、さらに深いところから見る

—— がんと肝炎治療の研究者でもあり、ハーバード大学附属病院で内科准教授までされた先生が、なぜ、麻布医院を開業する道を選ばれたのですか。

髙橋 まずアメリカに行った理由をお話します。私はもともと臨床医になりたくて日本の大学病院で11年間医学を実践してきました。ところが大学では知識を蓄積することで病気を診断する表面的な技術はマスターできるのに、患者さんの病気の本質に迫ることができない。

今の日本の医療は細分化された結果、非常に偏った世界が構築されました。若い先生たちは、例えば、肺炎を診察している呼吸器の先生は、患者さんの肝臓が悪くなるともう診られません。逆の場合もそうです。臨床で専門外の新しい疾患に出会ったときに、なかなか解決できない。

それで私は、もう少し病気の本質を理解して治療をしたい。そのために自分に欠けているもの、分子生物学や免疫学、がんの研究をもっと深く勉強したいと思って留学したのです。

ハーバード大学医学部に留学してからは、専門的なところを網羅的に学習していきました。すると面白いことに全体像は繋がっているのですね。例えば肝臓の免疫学を深くやっていくと、リウマチも、花粉症も、アレルギーも分かってくる。肝炎を深く勉強をすると、ウイルス学全体を学ぶことになる。それを追究すると、感染症全体が分かる。すなわち、細分化された中の、さらに深いところから見ると、どんな臓器でも細胞のレベルでは同じ仕組みが働いているのです。

そこまでの知識を得たかったのが留学の理由です。留学後、一旦帰国し、再度ハーバードに戻り、その後は独立して、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院の消化器内科に研究室を立ち上げました。そのハーバード大学では、教授が病院の近くにプライベートオフィス持って世界中から来る患者さんを診療していました。日本では大学教授が病院の近くにプライベートオフィスを持って診療を行うことは考えられません。これは、私にとって驚きでした。そして、いつかは自分もプライベートオフィスを持ちたいと憧れていました。

だから、麻布医院は開業というよりは、憧れのプライベートオフィスを持つと言うような感じです。そこで患者さんを診て、同時に研究も行います。皮膚科は私の専門ではありませんがアトピー性皮膚炎や蕁麻疹などの患者さんもたくさん来院されます。これは私が免疫を深く勉強しているため、アレルギーのことがよく分かり、的確に診断することができるからです。研究を生かしつつ、総合診断し最良の治療法を提供するのが私の使命です。また、このことは地域の医療にも貢献することになります。

—— 先生はがんや肝炎治療のセカンドオピニオンとしても有名です。診療で大切なことは何ですか。

髙橋 日本にはセカンドオピニオンが必要となるいくつかの問題点があります。日本の大学病院では数多くの先端医療が行われていますが、それぞれの病院で全ての先端医療が受けられる訳ではありません。しかし、医師たちは自分たちの病院で行っていない先端医療については、患者さんに説明することもありませんし、他の施設でできることを紹介することもありません。このため、他の施設で可能な先端医療が、患者さんの治療の選択肢の中に入ってこない。セカンドオピニオンによって、そういうバリアを越えて、病気を治したいのです。

セカンドオピニオンで一番大事なことは、患者さんが何を知りたいかを明確にすることです。30分の時間があるとすると、本当に知りたいことを先に聞いて、全体像から細部の方に入っていく。そのために、診察する前に病歴、画像、服用薬などを全てカルテに入れておき、それを見ながら、患者さんが一番知りたいことを説明していきます。

その中で、生きる選択肢を与えられる治療法があるかどうか、残された時間を大切にするにはどうしたら良いか、そして、何を食べたら良いかをお話します。

ファイトケミカルの摂取を推奨

—— 先生が推奨しておられる「ファイトケミカル」について教えてください。

髙橋 「ファイトケミカル」のファイトはギリシャ語で「植物」、ケミカルは英語で「化学」の意味があります。植物に含まれる天然の機能性成分のことです。タンパク質、ミネラル、炭水化物、ビタミン、などの栄養素は体のパーツやエネルギーのもとになります。一方で、自動車がガソリンを燃やして排気ガスを出すように、人間が栄養素を燃やしてエネルギーにする時、排気ガスのように活性酸素を出します。それが、がんや老化の原因になります。また、様々な食品添加物、化学発がん物質、農薬、合成保存料、環境汚染物質なども発がんの原因となるので、それらの解毒も必要になってきます。

「ファイトケミカル」は、活性酸素を消去する抗酸化作用や発がん物質をデトックスする解毒作用などを持っています。例えば、アントシアニン、カテキン、リコピン、ケルセチンなどには抗酸化作用があり、クルクミン、スルフォラファン、イソチオシアネートなどには解毒作用があります。

ファイトケミカルは、もともとは植物が自分の身を守るために作っているものです。すなわち、紫外線による活性酸素の害を防ぐため、あるいは、種が土の中で腐敗しないようにするために、抗酸化力があるものを葉や種の中に閉じ込めている。そして、ファイトケミカルは人間の体内では、抗酸化作用、解毒作用、免疫力アップ、アンチエイジング、血液サラサラ、がん抑制、ストレス緩和など7つの力を発揮します。人間が摂ることによって健康で元気で長生きする源になるのです。野菜で摂取することが一番簡単な方法で、カボチャ、人参、玉ねぎ、キャベツにはそれぞれ違ったファイトケミカルが含まれているため、この4つの野菜を組み合わせた「ファイトケミカルスープ」には、これら7つの作用が全部備わっています。

—— 貴院は緑が多く病院とは思えない空間になっていますが、コンセプトは何ですか。

髙橋 当院が大切にしているのはホスピタリティです。すなわち、「こころからおもてなしをすること」です。そのために、医院の中に常に「気」が流れるようにしています。病院が綺麗なことは人間の身体に影響します。人間の本体は、精神と肉体を支えている「気」です。例えば、自分の細胞からクローンができたとすると肉体も精神構造も同じ。でも同じ人ではない。何が違うかというと、「気」が違う。気の部分が肉体と精神をコントロールしているのです。

日本語で「気持ちが良い」と言います。気が長く持つと気持ちが良い、気が長く持たない場合は気持ちが悪い。病になった気が「病気」です。だから一番大事なのは、病の気を治すことです。気の流れを良くすることで、ここに来る人の気持ちが良くなって病気も早く治ってほしい。入ってきた時に何か気持ちが良いなと思えるように、植物を植えたり空気を流したりアロマをつけたりしています。

肝炎の予防と治療について

—— 肝臓疾患治療のエキスパートとして肝炎予防についてお教えください。

髙橋 肝炎予防で一番大切なことは、A型、B型肝炎ではワクチンです。現在、B型肝炎のキャリアは、中国の場合まだ10%近くいますが、日本は1%以下です。母親がキャリアの場合、生まれた子どもにワクチンを打って予防するので、日本では新しい世代のB型肝炎の母子感染はなくなっています。

また、A型肝炎の場合は食べ物を通して入るので、汚染された生水を飲まないとか、牡蠣にも気をつけます。B型、C型肝炎は血液を通して入ります。タトゥーはB型、C型肝炎の感染経路としては非常に高く、また、B型肝炎ではSTD(性感染症)での感染もあります。

—— 肝炎の場合、治療期間と受診の頻度はどうなりますか。また、中国からの患者の受け入れや検診の情況などについてはいかがですか。

髙橋 C型肝炎だったら治療期間は12週間から24週間ですみます。C型肝炎はRNAウイルスなので、治療後にウイルスが消えていれば完治します。一方、B型肝炎はDNAウイルスなので、人間のDNAと親和性があり、なかなか消えず長期間通院することになります。

C型肝炎はジェノタイプ1なら4週間に1回、ジェノタイプ2なら2週間に1回通院が必要になります。B型肝炎の人は逆に薬の安全性が確保されており、2〜3カ月に1回くらいの通院でも大丈夫です。

中国の方も週に20人くらい来ていますが、日本語あるいは英語での会話が必要です。予約は電話で受けています。検査は、一回の採血で網羅的に行います。その結果、どこか悪いところがあれば、CTとかMRIあるいはPETを撮ります。検診として先に撮るコースもあり(例えば、腫瘍マーカー・PETがん検診など)、画像検査の2週間後には結果が出ます。いろいろなコースがあり、費用は、自由診療になります。

がんや感染症を未病で防ぐ

—— 医者になるきっかけは何だったのですか。そして、今後の抱負をお聞かせください。

髙橋 最初は物理学をやりたかったんです。でも、高校時代にアメリカに留学し、いろいろ考えて、人と接する仕事がいいなと、世の中の役に立てるなら医学の道だなと思いました。

これからの抱負は、現代は、がんや感染症が多いので、それを未病で防ぐことを第一に考えています。特にがんにならないような方法として食事療法(ファイトケミカル健康法)を提案しています。がんを未病で発見する発症前のスクリーニング法(腫瘍マーカー・PETがん検診、胃がんリスク検診、大腸がんリスク検診、マイクロアレイがん検診など)もあるので、今力を入れているところです。血液や遺伝子でがんが分かる、こういった検診をどんどん普及させたいです。