勝股 英夫 エイベックス・ピクチャーズ社長
アニメ市場のビジネスチャンスは中国に

エイベックスは中核事業としての音楽ほか、アニメ・映像、デジタルなどに幅広く事業を展開する総合エンタテインメント企業である。アニメ・映像事業を荷うエイベックス・ピクチャーズは、『おそ松さん』『ユーリ!!! on ICE』『KING OF PRISM』などのヒットアニメを連発し、2017年にはアニメ100周年記念『アニメNEXT_100』スペシャルムービーを制作し注目された。アニメの人気が高まる中国市場への戦略など、勝股社長に語っていただいた。


撮影/本誌記者 郭子川

テレビアニメの年間トップに

—— まず、会社設立の目的と事業内容について、お聞かせいただけますか。

勝股 設立は2014年4月と比較的新しく、今年の春で丸5年になります。エイベックスは、どちらかというと音楽のイメージが強く、かつては映像やアニメが音楽と同じ会社のなかにあり、制作、宣伝、営業部門がそれぞれに存在していました。アニメに特化して、制作も宣伝も営業も、それこそディストリビューションも垂直統合して1つの会社にした方がいいということになり新たにアニメの会社を設立しました。そういう意味で、一番はアニメの企画制作で、実写も行っていますし、ここ2年ぐらいはゲームも行なっています。単純に企画制作して、営業・宣伝するというところから、われわれは「上流域」と言っていますが、権利の開発獲得も重要なミッションだったので、ゲームのIP(知的財産)、それと実際のアニメそのものをつくるスタジオまで、川上の権利の開発獲得のインフラを、この1、2年進めています。

—— 2015年3月に設立されたアニメタイムズ社は、どのような事業を行っているのですか。

勝股 これは子会社になりますが、ほかに株主が3大出版社と言われる講談社、集英社、小学館、それとアニメのコンテンツホルダーと言われているアニメスタジオ、メーカーなどによる14社連合です。具体的には当社の作品だけでなく、アニメのプログラムをアグリゲート(集約)し、番組を動画配信サービスに供給しています。メインはdTV(デジタルの動画配信サービス)で、非常に会員数も多いので、そこを中心に、一部外部販売もしています。動画配信サービス会社はたくさんあり、その業界でアニメ番組のとりまとめをしているという感じです。年間約400タイトル、8000エピソードを供給しています。NetflixとかAmazonとかも出てくる半年前に、日本のコンテンツホルダー同士が組んでつくるアグリゲーターをつくっていたのです。

—— 現在日本にはアニメや映像事業に注力する多くの企業があると思いますが御社の強みは何ですか。

勝股 まず、今パッケージが衰退している中で、アニメタイムズを初めとしてデジタルサービスのところへ供給できているというのも1つの強みですが、エイベックス・ピクチャーズとしての一番の強みは、やはりヒット作品を出しているということです。これは本当に一番強いところだと思っています。


Ⓒ赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会  

会社設立以降、5年間の間に『おそ松さん』『ユーリ!!! on ICE』、直近でいうと『ゾンビランドサガ』、これら3作品がテレビアニメの年間トップになっています。テレビアニメは、年間で大体250タイトルあります。その中の1位にはなかなかなれません。100分の1でも1%なので、0.5%以下の確率です。それがパッケージの売り上げだけではなく、ネットユーザーが選ぶ年末の「アニメ総選挙」でも1位でした。5年間の間に3本も年間トップをとっているというのは強みだと自負しています(笑)。

—— ヒットさせる秘訣は何ですか。

勝股 プロデューサーがまず企画を出すので、その素養、才能、熱意にありますが、システム的には、企画会議が非常にうまく回っています。

企画会議はA、B、Cと3つあり、Aは、スタッフだったり監督だったり、どのスタジオで、例えばこの原作でやりたい。こういう作品だ、世界観だと、クリエイティブな内容をエントリーして、それを議論する場です。

Bは、実際にそれをどういう座組みでつくるか、いわゆる製作委員会です。例えば、どの放送局と組むか、どの出版社、どのゲーム会社とか、出資会社のイメージをつくるのがBで、そこで大体の権利の棲み分けが決まります。

3つ目のCでは、それぞれの事業部が数字を付けてくるんですね。パッケージの売り上げ数、配信の売り上げ数、マーチャンダイジング、海外のビジネスはどれぐらい行くか、ゲームはどれぐらい行くか、数字がドンと出てきます。それをクリアしたものを行います。もちろんそれに到達していないものでも、チャレンジとしてやる場合もあります。基本この企画会議のシステムがうまく運用できたということです。

中国のローカルパートナーとともに

—— 日本のアニメは中国でも人気が高いですが、中国とのアニメビジネスについては、どのような取り組みをされていますか。

勝股 番組販売はもちろんのことですが、これからは、映像そのものを見せるという映像価値だけではなく、キャラクターに付随するファッションだったり、食文化であったり、そういう生活様式まで含めて中国の皆様に楽しんでいただけるようなビジネスに広げていきたいと考えています。キャラクタービジネスは結構広く、今後の課題も多いですがタイミング良く昨年中国ビジネスを専門に行う会社がグループの中にできました。

音楽ではJ-POPだけではなくC-POPという、中国のローカルでの活動をきっちり踏まえたコンテンツをつくっていくというのがあります。アニメも同じで、単に輸出していくだけだと、それで終わってしまいます。中国版You Tuberやコスプレイヤーも結構います。その文化のところを支えている方が、非常に大勢いらっしゃるので、ひょっとしたら中国人の方がやる人気声優ビジネスもこれからあるでしょうし、アニソンビジネスも考えられます。

3月16日に、当社の声優アイドルユニット「i☆Ris」が上海でライヴをやります。こういうライヴビジネスも、これからどんどん増えていくでしょうし、2.5次元の舞台とか、単に日本の声優が行く輸出という発想だけではなく、ローカルでそのコンテンツをやるという発想も出てくると思います。


Ⓒゾンビランドサガ製作委員会

—— 御社が海外展開する中で、対中国に注力するウエートはどの程度になりますか。

勝股 1番か2番です。グループとして、音楽もアニメも、もちろんアニメの場合は、北米もありますが基本は中国戦略です。今日はアニメの話をしていますが、当然音楽も進めています。中国のローカルの発掘も含めて進めていくと思います。いろんな展開ができますし、エンタテインメントという領域においてやっていけることがたくさんあると思っています。

ただ、やはり中国には分からないことが多いです。進め方であったり、アプルーバルであったり、内容のコミットみたいなところもそうです。ですから進めるに当たっては、中国にいらっしゃるローカルパートナーをしっかり選んでやっていかないと、われわれだけだと、どうしても見誤ります。どういうものが内容的にOKで、どういうものがNGかということも含めて、厳しい基準があります。中国戦略のための会社としてエイベックス・チャイナが北京にあって、現地スタッフもいますから、ライヴをやるにしても、ビジネスを進めるにしても、そこと連携をとりながらやっています。

将来性についてですが、一番やっていきたいのは、ライヴやイベントです。アニメに限らず、アニメソングとかバーチャルキャラクターを使ってのライヴとかですね。今、ライヴというと、本来ならば本人が行かないと成り立たないところを、ある程度キャラクタライズして、バーチャルキャラクターでライヴをやることもあります。これが中国の場合は非常に効果的というか、初音ミクもすごく人気があると聞きました。アニメキャラクターが実際に動いて、お客さんを動員してライヴとして盛り上がっているのです。

アニメ――次の100年

—— アニメの人気はいつまで続くと思いますか。

勝股 僕はずっと続くと思っています。アニメの100周年記念が2017年にあったときも、「アニメNEXT_100」で、次の100年のために100年を総括するということでした。その節目のスペシャルムービーにアニメの122作品を――1917年の『塙凹内名刀之巻(はなわへこないめいとうのまき)』という短編アニメから、直近の『おそ松さん』(2期・2017年)まで――ずらっと並べたスペシャルムービーを当社で制作しました。田中公平さんと一緒に仕事をさせていただき、日本動画協会のアニメ100周年の総集編みたいな作品に仕上がりました。私もこの仕事に就いて20年以上になります。自分も何らかの恩返しをしたいとの思いで、この仕事をしました。ビジネスはさておいた、大変苦労の多いプロジェクトでしたが(笑)、『翼を持つ者 〜Not an angel Just a dreamer』というタイトルで、全日空の機内でも上映されています。