桑原 勇蔵 株式会社タツノコプロ代表取締役社長
創業の精神を継承し、新たなアニメづくりに挑戦

アニメ制作会社タツノコプロが「株式会社竜の子プロダクション」としてスタートしたのは1962年(2013年から現社名)。今年で創業55周年を迎えた。この間、とくに日本の高度経済成長期にテレビ放映されたアニメ『ハクション大魔王』『昆虫物語みなしごハッチ』『科学忍者隊ガッチャマン』などのタイトルは、今でも多くの視聴者になじみ深いものだろう。テレビや劇場映画などで日本のアニメ界を常にリードしてきた同社の特色とは――。東京武蔵野市にある本社を訪れ、桑原勇蔵社長にお話を伺った。

オリジナルであること

—— 『マッハGoGoGo』『ハクション大魔王』『昆虫物語みなしごハッチ』『科学忍者隊ガッチャマン』『タイムボカンシリーズ』など、メルヘンからSFまで、さまざまなジャンルの作品が、いずれもヒットし、キャラクターは世代を越えて今でも愛され続けています。業界における御社の強みはどこにあるでしょうか。

桑原 今あげていただいたような作品は、漫画などの原作からではない、すべて当社のオリジナルアニメであることが強みです。

つまり、キャラクター作りから始まり、作品の権利のすべてを我々が持っているので、リメイクや商品化を我々だけの判断で進めることができるのです。オリジナル作品をこれだけ有している会社は、恐らく他にはないんじゃないでしょうか。

同時に、作品のキャラクターは非常に知名度が高い。最近もいろんなオリジナルからのリメイクやリブートをやっていますので、幅広い層に知っていただいています。

また、日本テレビのグループ会社になってからは(2014年)、朝の『ZIP!』という視聴率の高い番組で、『科学忍者隊ガッチャマン』『ハクション大魔王』『ドロンジョ(『タイムボカンシリーズヤッターマン』)』の新作ショートアニメを放送し、オリジナルを知らない10代~20代の若い層へも、キャラクターの認知を広げることができました。

作品の数は、50以上が100%自社単独の著作物です。他社だと、著作権は、原作者、出版社や、製作委員会などいろんな会社に分散していると思うのですが、当社の作品は権利者が「© タツノコプロ」と1社表記で、単独所有になっているものが多いのです。

アメリカンコミックへの憧れ

—— 早い時期から海外でのビジネス展開をされています。なぜ今でも海外で人気があるのでしょうか。もともとワールドワイドなキャラクター設定というのを考えていたのですか。

桑原 当社は1962年に設立され、テレビアニメ第1作目は『宇宙エース』(1965年)ですが、2作目で既にアメコミ調、劇画タッチの『マッハGoGoGo』(1967年)を制作しています。

当時は、デフォルメしたキャラクターを動かすというのがアニメだったのですが、タツノコプロ創業者の吉田竜夫は、2作目にしてそれらとは異なるビジュアル表現で制作しているわけです。

彼の中では、やはりアメリカンコミックに対する憧れがすごく強かった。アメリカンコミックを動かしてみたいという気持ちから、絵の繊細さとか、当時の技術では相当に難しかったことにも向き合い挑戦しました。

ですから、海外で受け入れられやすいデザインだったり、世界観やストーリーがそこにはありました。それが海外で受け入れられたという気もしています。『マッハGoGoGo』(英語名『Speed Racer』)は、アメリカで非常に知名度が高く、アメリカ産のアニメだと思われているくらいです。

—— 現在の海外ビジネスの展開状況はいかがですか。

桑原 当社の過去のアニメ作品がどの国で一番知名度が高いかというと、やはり北米です。現在は、北米やアジアを中心に、新しい作品の番組販売だったり、旧作に関してはフィギュア的なものの販売であったりと幅広く展開しています。

やはり日本発のアニメというか、当社の作品を世界中の人に見てもらいたいという気持ちがすごく強いので、そこを意識して、グローバルなビジネス展開をしていきたいと思っています。

中国人向けに共同制作

—— 中国では今、日本のアニメが大変な人気です。アニメ産業も中国の経済成長に合わせるかのように発展し続けており、世界的に見ても非常に大きなマーケットだと思います。

桑原 中国ビジネスは、アニメのビジネスをやっている以上、意識しないとだめだと思います。ただ北米と違って、タツノコプロ作品の知名度があるかというと、そうでもありません。最近のリサーチ結果だと、『科学忍者隊ガッチャマン』はあまり知名度がたかくありませんでしたが、『宇宙の騎士テッカマンブレード』とか『天空戦記シュラト』など他の国では認知の低い作品が知名度が高かったりします。

当社40周年記念の作品で『鴉 -KARAS』という作品がありますが、これは中国では知名度が高く、2年前に制作した『夜ノヤッターマン』も中国で配信し、有名になりました。

今、いろんな会社と一通りお話はさせていただいています。まずは年内に当社の作品や当社の傑作26作品を順次配信していくのを中国ビジネスのファーストステップと考えています。

それによって、「タツノコプロ」というブランドと、作品とキャラクターの知名度を上げて、そこから商品化や新作へのリメイクに取り組んでいきたいと思います。

もう1つは、当社創立55周年記念テレビアニメ『Infini-T Force』(インフィニティフォース)です。これは『科学忍者隊ガッチャマン』『新造人間キャシャーン』『破裏拳ポリマー』『宇宙の騎士テッカマン』と、当社の4大ヒーローキャラクターが1つの世界に集結するという作品です。

この作品はフル3DCGで制作しており、本年10月に日本テレビで放送予定ですが、中国でも字幕配信するというスキームになっています。

将来的には、夢のような話ですが例えば、北京の天安門前広場で『マッハGoGoGo』のレースが行われる作品や、『タイムボカン』が中国の三国志の時代やいろんな時代にタイムスリップしてドタバタやるという作品を、中国向けに共同で制作したりできたら面白いと想像しています。

いずれにせよ中国は大きなマーケットで夢が広がりますので、どんどんビジネスを拡大させたいと思います。

いつの時代にも世界中に受け入れられるアニメ

—— 『Infini-T Force』など、55周年企画のコンセプトは何ですか。

桑原 やはり当社が制作してきたヒーローの特徴は、ロボットではなくスーツを着たヒーローなんです。ガッチャマン、キャシャーン、ポリマー、テッカマン、これらの他にないヒーロー像は、絶対に今の時代にも世界中の人々に受け入れられるという強い確信を持っています。

キャラクターデザイン、映像ともに、最高のスタッフによって、今の時代によみがえらせたい。55周年というタイミングで、フル3Dという手法を使って、あらためて世界に向けて発信していきます。全12話で放送の予定です。

—— 今年は日本のアニメが公開されて100周年です。かつては家族団らんでテレビアニメを見ていた世代から、時代は移り変わり、インターネットやモバイル、ゲームでそうしたアニメやキャラクターに親しむ世代へと変わってきています。日本のアニメの将来性についてはどのようにお考えですか。

桑原 ネットに限らず、テレビに限らず、いろんな媒体で、日本のアニメはさらに成長するのではないでしょうか。そこは間違いないと思います。

例えば今、日本でいうと、年間250から300タイトルの新作アニメが生まれています。ですから知名度の高い作品を持っている当社のようなところは、アドバンテージではあるんですが、それが絶対的な強みかというと、そうではありません。やはりそれだけ新しいものが生まれているのは、日本国内のマーケットでも新しいものが求められているからです。

しかし、単に新しいだけでは絶対無理なので、リメイク1つとっても、どこに向けて、何に向けて新しいものをつくっていくのか、しっかりしたコンセプトを持っていないと、ヒットしないのです。

—— 御社は今年創立55周年で、既にさまざまなプロジェクトが動き出していますが、今後に向けての抱負をお聞かせください。

桑原 当社の使命――ミッションは2つあります。1つは当社のコンテンツやキャラクターを今の人たちに受け止めてもらい、愛してもらえるように、プロデュースしていくことです。

もう1つは当社の創業の精神です。それは創業者の吉田竜夫氏が、当時の人がみんな無理だと言った、線の細かいアメリカンコミックを動かしてアニメにしたように、新しい技術にどんどん挑戦していくという精神を継承し、新しいアニメーションをつくり続けることです。