石川 和子 日本動画協会理事長日本アニメーション株式会社代表取締役社長
「中国との協力を強化し、アニメで心を育みたい」

アニメの制作と輸出において日本は世界一であり、毎年テレビアニメ作品を大量に生産し、現在世界中で放映されているアニメの60%が日本のものである。日本のアニメ業界の意思を統合する日本動画協会(略称AJA)は2002年5月に設立された、アニメ制作会社が加入する業界団体であり、アニメ制作の技術開発、市場情報の収集と公開、著作権保護、人材の育成及びアニメ作品の付加価値の創造などに携わる。会員には、ぴえろ、タツノコプロ、サンライズ、手塚プロダクションをはじめ、著名なアニメ制作会社等が名を連ね、理事長を石川和子氏が務める。先ごろ、世界のオタクの聖地、アニメの城である秋葉原に、石川和子氏を訪ね、お話をうかがった。

今後も中国との協力を強化すべき

—— 日本のアニメの国内外への影響力は軽視できません。日本の第三の基幹産業とも言えます。2014年の日本のアニメの良好な業績は中国市場での版権のセールスと関連商品の開発によってもたらされたとも言われています。この点についてはいかがでしょうか。

石川 実は、日本のアニメーションがここまでグローバル展開ができるとは思っていませんでした。ここまで海外の皆様に注目をしていただいていることは光栄であり嬉しいことです。今後もさらに海外に出ていくべきだと思っています。そのような中でも中国は重要な輸出先と考えております。

ライセンスビジネスで一番重要なのは、しっかりしたライセンシーとどうビジネスが組めるかです。中国のことをよく知り、日本のことをよく知るライセンシーとビジネスを構築し、情報共有していくことが大事だと思います。中国にビジネス展開する上では規制基準が多く存在したり、政治的要素など問題点も多々あります。しかし、今後も協力を強化し、アニメの共同制作もしたいと考えています。

また、中国市場では違法配信や、海賊版の問題もあります。多くの日本の最新アニメが違法サイトにアップされています。中国語の字幕のものもあります。日本語のできる若者が自分でつくったもののようです。これらは多くの人と共有したいために作られたものですが、この行為は違法であり許されるものではありません。しかし、映像そのものは本物でもあり、日本の声優の名前も出ているので、上海で日本の声優のライブイベントをやると、予想もしないほど多くのファンが詰めかけるようなこともあります。

海賊版があるということは、市場があるということです。しかし、海賊版の撲滅は業界にとって重要な問題です。今後、戦略的に正規版を輸出していけば海賊版を無くしていけると思います。正規版で知名度が上がれば、周辺産業も発展し相乗効果を生みます。

これまで、中国の大学等の要請を受けて、監督やアニメーターを多く講師として手配したり、アニメ展などのイベントにも参加してきました。

アニメは情操教育の担い手

—— 今年4月、日本動画協会は「第6期アニメビジネス・パートナーズフォーラムプレ開催シンポジウム」を秋葉原で盛大に開催し、日本アニメーション100周年プロジェクトを打ち出しました。これからの100年、どのような役割を果たしていかれますか。

石川 2017年は、日本でアニメーションが誕生して100周年です。この100年間で日本のアニメは世界で知られるようになり、若者から最も支持される日本の代表的な文化の一つになりました。これまでの100年間の土台を継承、発揚しながら、これからの100年に向けて積極的に運用していきたいと思います。

アニメは人々に喜びを与え、想像力を養い、交流を促進します。アニメに国境はありません。海外に行くと、日本のアニメを見て育ったという若者によく出会います。異なる国家や民族、異なる文化的背景の人たちが日本のアニメの話題で盛り上がる。これこそ、ベイシックな文化交流であり、日本のアニメの真骨頂です。

日本のアニメ作品は多種多様で、幅広い年齢層に対応し、ストーリーにもこだわりがあり、海外の作品にはない世界観があります。だからこそ年齢層も国も問わず受け入れられるのだと思います。アニメによって子どもたちは想像力を働かせながら、現実社会とは異なった世界に入っていける。子どもたちの成長過程で多くの夢と感動を与えます。それは子どもにとってとても貴重な体験になっていくと思います。

アニメは単なる娯楽ではなく奥深さももっています。高畑勲さん演出の『赤毛のアン』は、子どもの頃見て感動しましたが、大人になってもう一度見ると、また違った感動があります。

私はスポーツをやっていましたので、『巨人の星』、『あしたのジョー』、『アタックNO.1』といったスポ根ものをよく見ていました。主人公が頑張る姿に共感し、勇気をもらったり、主人公と仲間の絆に感銘も受けました。

また、海外に比べて基準が厳しくないことも、日本のアニメの生産量が多い要因になっていると思います。テレビシリーズだけでも日本では毎年平均230本以上つくられていて、これは十年前の2倍以上です。通常、土・日の午前中と午後6~7時台に子ども向け、深夜に成人向けのアニメが放映されています。今後、当協会としても、子ども向けのより良質なアニメの放映本数を増やすよう働きかけたり、アニメが情操教育に果たす大きな役割についても、教育機関に訴えていきたいと考えています。

原画がアニメの魅力の源

—— 日本政府が進める「クールジャパン」政策の下、日本のアニメはかつてないほど世界的に注目を集めています。しかし、「アニメーション制作者実態調査報告書」でも指摘されていましたが、低賃金、仕事がきついなどの理由で、後継者が業界に入ってこない、入っても長続きしないといった問題があるようです。この点についてはどうお考えですか。

石川 父が会社の創業者でしたので、私が協会の理事長になったのも運命なのかと思います。

確かに、日本のアニメ業界には多くの問題があります。これまでは原画はアナログで作成していましたが、今はデジタルに移行しています。効率化を図るという意味ではデジタルもいいと思いますが、アナログの良さも残していかなければならない、一筆一筆描くことで思いがそこに入る、その過程が大事なんだと思います。

アニメーションの果たす役割はまだまだあると思っています。アニメは国境を越え、時代を越えて、一瞬で子どもたちをスーパーマン、英雄、言葉を話す小動物の世界へと冒険に誘います。アニメの魅力は1秒間24枚の原動画です。創作力と原画マンの技巧、アニメに対する情熱と愛がその源です。それが子どもたちに伝わるのです。

21世紀の今日、日本のアニメはかつてないほど影響力をもち、広まりました。しかし、これはまだピークではありません。これからの100年こそ、日本のアニメが真にその役割を果たす時代だと思います。様々な問題を解決していきながら、後世に引き継いでいかなければならないと考えております。

取材後記

アニメは芸術の重要な一部であり、最初にそこで感じ取ったものは、直接子どもたちの美意識や価値観に影響を与え、青少年の日常生活とも切り離せないものになっている。また、アニメキャラクターは彼らの憧れの対象であるゆえに、負の影響も看過できない。成長を続けるアニメ業界において、制作者は児童・青少年の健全な精神を育むという社会的責任を自覚すべきである。それにはアピール力、求心力、関係機関の監督・コントロールが必要である。日本動画協会理事長である石川和子氏のリードによって、日本のアニメ業界が、次の輝く100年を打ち立てることを期待したい。(撮影/本誌記者 林道国)