長沢幸男弁護士は、最高裁判所調査官(知的財産訴訟担当)、東京高等裁判所知的財産部判事等を歴任され、中日両国の知的財産に関わる仕事に10年間従事してきた。「中国系企業の日本におけるビジネスを日本の弁護士として応援したい」と語る長沢氏に、両国の法制度の相違点や中日ビジネスへの法律家の関与の在り方などについて伺った。
中日の法制度の
相違点について
長沢 日本では中国の法制度に対する理解が基本的に不足していると感じています。中国の法制度は国際的に特殊な法制度であると言われることが決して少なくありませんが、国民によって選ばれた議会が、法律を制定し、その法律に基づいて行政も裁判も行われるという点では、民主主義国家と言われている他の国の制度と異なる点はありません。
世界の法制度は、議会が法律をつくる成文法中心の国と、裁判所の判例を蓄積し法制度を形成する判例法中心の国の2種類に大きく分けることができます。日本も中国も成文法の国であり、判例法中心のアメリカやイギリスなどの国とは違う法制度を採用しています。そうした点で日本と中国の法制度は共通するところが多いと言えます。
中国は近年の法制度整備の際に、日本を含む各国の法制度を積極的に研究してその発展に役立ててきています。日本も今後、中国との関係を強化していく上で、中国のことを知り、学んでいく姿勢が大切だと思います。
中日ビジネス活動への
法律家関与の重要性について
長沢 ビジネスには必ず法律問題が伴います。ビジネスを円滑に進めるためには法律の専門家を活用し、専門的な知見を踏まえてビジネスを進めて行く必要があります。もし、トラブルが起きた場合には当事者間で交渉し、まとまらないときは法的手続きを取り解決しなければなりません。その際には法律家の関与が不可欠になります。
私が初めて中国に行った10年前にはすでに、日本企業が中国でビジネスを展開しており、日本の弁護士が中国で日本企業のサポートをしていました。この10年間で日本企業の対中投資に関わる日本人弁護士の仕事が増えたのに対し、中国企業の対日投資への関与が不足していたのではないかと感じています。
私は、中国系企業の日本におけるビジネスを日本の弁護士として応援したいとの思いで活動しています。
中日関係の重要性について
長沢 世界中のどの国とも友好関係を築いて、どの国の人とも仲良く暮らしていくことが日本人の希望であり、中国人もまた同じだと私は確信しています。その実現に向けて貢献していきたいと考えています。
特に日本は建国以来、中国の高度な文化を学ぶことで発展してきた歴史があります。地理的にも中国は日本の隣国であり、友好関係を築く必要性は高いと思います。
さらに、近年の中日両国の経済関係の緊密さを考えれば、中国経済の発展なしに日本経済の将来はなく、日本経済の発展なしに中国経済の将来はないと言えます。ですから、両国政府は知恵を絞って少しでも良い方向に関係を改善していってほしいと心から願っています。
中国の知的財産制度について
長沢 知的財産の国際化に伴って中国は、日本が100年以上かけて整備してきた国際的な制度の枠組みを短期間のうちに整備しなければなりませんでした。ですから、必ずしも機能しない部分があるのは当然のことです。しかし、短期間にここまで整備してきた中国の関係者に対し、私は敬意を表します。
10年前に初めて中国の知識産権局(日本の特許庁に相当)を訪れた時に比べ、現在では特許出願の受付件数で中国は世界トップとなり、さらに、知的財産関連の裁判数も世界で最も多い国の一つとなりました。そのため、中国の最高人民法院(日本の最高裁判所に相当)は知的財産専門の裁判官を積極的に養成し、特許訴訟などの知的財産訴訟を担当させています。
日本は中国に比べ知的財産訴訟の件数は少なく、知的財産を専門に扱う裁判官も中国よりはるかに少ないのが現状です。ですから、知的財産に対する中国の強い意欲を日本は学ぶべきだと思います。
自分自身の目標について
長沢 私は、中国の学者たちと一緒に知的財産法を中心とした両国の法制度の比較研究を10年間継続してやってきました。北京大学で学生に講義する大変貴重な機会もいただきました。私自身、裁判官の経験も20年間ありますので、中国の知的財産関係の法律家と実務的な意見交換や協力、具体的には日本企業の中国案件を中国の実務家と共同で扱ってきました。こうした活動をする一方で、中国企業や日本にいる中国人のビジネスの応援をさせていただいています。
日本企業の対中投資ばかりではなく中国企業の対日投資に日本人弁護士が関与することで日中両国のビジネスを円滑に進め、それが両国の経済発展につながり、両国の友好の架け橋になれればうれしいです。
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