福井 憲彦 学習院大学長
中国人留学生には知識より重要なものがある

学習院大学は、皇族が通う大学として、日本では知名度が高い。明治維新後、大正天皇、昭和天皇、そして現在の明仁天皇も学習院で学ばれた。

学習院大学の福井憲彦学長は歴史学者として、学習院大学の歴史を熟知している。日本の教育が直面している新しい情況や動向について、常に思いをめぐらせている。中日両国の大学交流についても、心にかけてきた。2011年10月、福井学長の支持の下、学習院大学で「辛亥革命100周年記念特別講演会」が開かれ、好評を博した。2月17日、インタビューを行った。

 

学習院大学は「貴族時代」から抜け出た

―― 中国の読者にとって、学習院大学は「皇室の大学」とか「貴族の大学」というイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか。学習院大学は日本の社会とどのように関わっていますか。

 福井 日本の大学には、国立大学、公立大学、私立大学などがあります。現在、学習院大学は私立大学で、他の私立大学同様の制度・条件の下にあります。受験する学生たちも日本の普通の高校の卒業生です。教員も同様です。ですから、学生も教員も決して「特別」な人間ではありません。

第2次世界大戦前までは、学習院は当時の「宮内省」が所管した学校で、皇室や華族の子弟が多く学んでいました。ですから、「貴族の大学」というイメージができたのです。

第2次大戦後、学習院は大きく変化し、一般子弟を普通に募集するようになりました。現在の学習院は、他の私立大学と何ら変わりなく開放しています。実は、私も学習院の出身ではないのです。

今でも、学習院が「皇室の大学」とか「貴族の大学」と思われているようなら、それはきっと教育の質がよいからかもしれません。少なくとも、そういう印象があるからでしょう。

人生の方向を決めることは重要

―― 現在、大学教育はユニバーサル化の時代に入っています。こうした時代にあって、大学教育はどうあるべきだとお考えですか。学習院大学では、どのように対応されていますか

福井 日本では以前、18歳の人口中に大学生は2割位でしたが、現在では半分以上を占めています。しかも、これからも増えていくでしょう。入学率が2割だった頃、大学へ進学する学生たちがすべてエリートだったとは言いませんが、優秀な学生が多かったのは事実です。

今では状況が変わり、高校を卒業すると、多くの者が大学に入ります。大学側から言えば、こういう時代の変化をとらえ、どういうタイプの学生なのかを意識して把握し、指導・育成しなければなりません。

学習院大学は向上心のある学生に興味を持っています。学生が入学したら、社会に適応し、創造力を持って、社会に貢献できるように、教師は指導し、教育しています。

学習院にもあまり考えていないとか、はっきりした目標を持っていない学生もいないわけではありません。こうした学生に対しては、これまで以上に工夫して、彼らに合った教育を行い、有為な人材に育てなければならないと考えています。

 

大学生同士が交流し友好の種をまく

―― 100年前の辛亥革命の時期、学習院大学は多くの中国人留学生を受け入れています。現在では、中国の北京大学、復旦大学と交流がありますね。両国の大学間での交流の必要性や重要性をどうみていますか。

福井 おっしゃる通り、100年前、学習院大学がまだ「旧制高校」だった頃、中国から多くの留学生が勉強に来ていました。現在は100名以上の中国からの留学生がいますが、皆すばらしい学生たちです。

こうした学生たちが学習院にいることを誇りに感じています。中国の学生たちは大学を卒業後、社会でよく活躍しています。彼らは母校を訪ねてきて、報告をしてくれます。

中国の留学生は学習院で知識を学ぶことはもちろん重要ですが、中日の若者同士の交流を通して、互いの理解を深めることがもっと大切です。中国の学生と日本の学生が学習院で共に生活し学ぶことにより、互いの理解が深まります。友人になれば、将来の中日関係と東アジア地域の安定に有利でしょう。

中国の留学生は、学習院大学に入ってから、日本の学生との交流や日本での生活を通して、日本に対する印象が大きく変わるようです。留学した日本の学生も同じです。中国の学生との交流を通して、中国、中国人にたいする印象がずいぶん変わるようで、中国の実情は想像とは異なることに気づきます。

 

大学生はもっと社会に出るべき

―― 今の日本の大学生は活気がなく、海外留学したがらず、卒業しても親を頼りに生活しているなどと言われています。実際、中国も似たような状況があります。こうした若者たちが増えている原因は何だと思われますか。また、このような状況を変革する方法はあるのでしょうか。

福井 中国では、計画出産政策が実施されてから、一般的には一人っ子ですよね。また、日本でも「少子化」の傾向にありますから、子どもは一人か二人です。それで、親は干渉しすぎてしまうのです。幼い時から独立心や子どもの自立心を養うことをおろそかにしています。

 子どもが大きくなったら、社会に出して鍛えなければなりません。これは大学教育だけの問題ではなく、親や社会全体がこの問題を重視すべきだと、私は考えています。

それから、学生の海外留学の問題ですが、今、日本経済はますます悪化しており、家庭の収入も少なくなっています。学生がもし半年から1年留学するとすれば、その費用は相当高くなります。ですから、学生を海外で安心して学習し生活させるためには、学校も、社会も、政府も、相応のサポートをすべきです。

 

アジアの若者は大胆に意見を述べよう

―― 学長は高名な歴史学者であり、ヨーロッパ史がご専門です。歴史学者の観点から、ヨーロッパとアジアの大学教育の相違点について。また、お互いに参考にできる点はございますか。

福井 EUができてから、経済面だけでなく、教育面でも統一した制度が採用されています。こうした制度があるので、ヨーロッパの大学間では交流が活発に行われています。それに比べると、アジアではこうした交流はまだまだ少ないと感じます。アジアの国々は教育での交流にもっと力を入れるべきです。

子どもの教育については、ヨーロッパとアジアとではいくらか異なります。ヨーロッパの教育は、子どもの自立心や考え方を重視します。子どもには人とよく話し合わせますし、徹底的に討論させます。

日本ではこういう点がまだ不十分で、学生に自分の考えをきちんと述べられるようにさせなければなりません。他人の意見を尊重することは大事ですが、自分の意見を言うのも同様に大切なことです。

中国は、このことではうまくいっているようです。中国の方は積極的に自分の考えを述べます。何でも思ったことを話す。とても良いことです。人との見方が違ってぶつかっても構わないのです。自分の考えと他人の考えが違う点を知ることにより、認識がより深くなるのですから。