奥ノ木 信夫 埼玉県川口市長
日本でもっとも安心して暮らせる多文化共生のまちづくりを推進

「本当に住みやすい街大賞2020」で堂々一位に輝いた川口市は在留外国人数が全国の自治体で3位である。これは単に観光地としてだけでなく、居心地の良い街として、外国人が感じる魅力があるということだ。川口市では、全国に先駆けて、日本人外国人住民が共に安心して暮らせる地域の多文化共生を積極的に推進している。7月15日、川口市庁舎を訪れ、奥ノ木信夫市長に多文化共生のまちづくり、中国との交流の歴史、そして川口に住む中国人の市への貢献などについてお話を伺った。取材には、川口市在住のチャイナドレス日本総会の奥薩卓瑪(細川ヨリカ)会長も同席した。

 
写真/川口市提供

多文化共生のまちづくりを

積極的に推進

—— 川口市の外国人住民は人口約60万人のうち約3万8000人で、全国でも3番目に多く、多文化共生社会の推進は必要不可欠と考えますが、どのような取り組みをされていますか。

奥ノ木 川口市に住む外国人では中国の方が一番多く、約2万3000人が住んでいます。特に県内有数のマンモス団地である芝園団地と西川口に多くの中国の方が住まわれています。最近では、再開発ビルに居住する人も多くなりました。

川口は荒川を越えると東京という立地にあり、ほぼ東京だという感覚があります。しかし東京は家賃も高く生活費も高い。川口は土地もマンションも安く、東京への通勤も便利で非常に住みやすい街だということで、今も人口は増え続けています。

そうした中で、本市は多文化共生のまちづくりを積極的に進めています。川口に住む外国人の中では、芝園団地に住む中国の方がもっとも割合が多いのですが、最初は正直言って、中国の方に関わらず外国の方はなかなか町会自治会に加入してくれないのが悩みでした。

ただ、祭りの際などには大勢の外国の方が見に来てくれてにぎわうのですが、それだけではなかなか意思疎通が図れないのが悩みでした。芝園団地では地域住民の努力もあり、中国の方が徐々に自治会に加入し、地域のまちづくりに参加してくれるようになりました。

今の問題は、せっかく地域に慣れ親しんできて皆と仲良くなった頃に帰国してしまうということです。ですから多くの中国人外国人の方々に定住していただきたいというのが正直な気持ちです。

多文化共生を進めるにあたって、本市では中国籍の方を職員として採用しています。ごみの分別方法や様々なトラブル処理など、やはり同じ国の人が対応していただいた方がスムーズに進みますので3人の方にお願いしています。本日同席されています細川会長のチャイナドレス日本総会のイベントに参加してご挨拶させていただいた時なども通訳として活躍してくれています。

また本市には、県内初の取り組みとして公立の夜間中学(「川口市立芝西中学校陽春分校」)があります。2019年4月に開校しました。教室では日本語だけでなく外国語も飛び交っています。日本に10年以上住んでいても日本語があまり上手ではない人もいると思います。年齢制限がなく夜間に誰でも学べますので、活用していただきたいと思います。

中国を30回以上訪問

—— 市長は川口市日中友好協会の会長でもあります。市長自身、中国の歴史を学ぶことが好きで、中国を何度も訪問されています。これまで中国を訪問して印象に残っていることは何ですか。

奥ノ木 細川会長と知り合ってから、川口市総合文化センターで開催された第1回「2017年桜旗袍チャイナドレスの盛宴」にお招きをいただいたのを機に、中国の方が主催するイベントには積極的に参加しています。もともと私は若い頃から、古代から近代まで中国の歴史が大好きでした。

市長になる前私は埼玉県議会議員でした。埼玉県と中国の山西省は姉妹都市協定を結んでいるのですが、そのころ県議会として、中国との姉妹都市交流を推進しました。私自身は山西省に10回ほど行っています。

現在、埼玉県立医科大学に中国の山西医科大学の留学生を毎年5人受け入れています。これは当時の県議会で提案して実現したものです。最初、山西医科大学を訪問した時は大変に歓迎されとても驚きました。赤じゅうたんを引かれて花束をいただくほどの熱烈歓迎でした。20人ほどで訪中したのですが、全員が驚いていました。

私は中国の歴史だけでなく、シルクロードが大好きでそこにも10回くらい行っています。敦煌には5回、奥地のカシュガルやホータンにまで行きました。タクラマカン砂漠も縦断しました。古代シルクロードの真珠と言われたキジル千仏洞にも行きました。これは中国で最も早く開かれた新疆随一の石窟で、西域では最大規模です。

残念に思うのは、今の中国ではそうした名所が近代博物館的に管理されていることです。保存するためにそうした形を取らざるを得ないのかもしれませんが、やはり兵馬俑にしろ、昔は降りて行って直に見ることができました。あの頃が懐かしいです。いずれにせよ中国には訪問視察などで30回以上は行っています。

日本と中国の

歴史と文化を尊重する

—— 日本と中国の伝統文化の重要性をどのように考えていますか。

奥ノ木 以前に、前駐日中国大使の程永華夫人である汪婉参事官が安行の植木を見に来てくださったことがあります。安行の植木は国内外で高く評価されており、数々の盆栽園がございます。また、川口は吉永小百合さんの映画「キューポラのある街」の舞台で、古くからの鋳物の街としても有名です。これらの盆栽園や鋳物工場などに興味を持たれ見ていただきました。それぞれの国地域には歴史があり文化があります。お互いに大切にしていかなくてはいけないと思います。

中国にも素晴らしい文化がたくさんあります。たとえば、中国の二大古城である雲南省の麗江古城と山西省の平遥古城にも行きましたが、明清時代の建築物が残っていますので、とても素晴らしく、また壮大なスケールを感じました。日本のまちづくりは中国のミニチュア版だとつくづく感じます。さらに、中国の歴史を勉強したいと思っています。

—— 現在、新型コロナの影響で日中間の往来は途絶えていますが、川口市は中国の地方都市と、どのような交流をしていますか。中国の都市と友好姉妹都市を結ぶ考えはありますか。

奥ノ木 現在、中国山西省の省都である太原市との友好を深めていたところです。2019年10月、山西省人民政府外事弁公室の方とお会いしました。この方はこれまで何度も埼玉県を訪れ、川口にも来ていただいています。

しかし、残念ながら新型コロナウイルスの影響で、お互いに行き来が出来なくなっています。前回太原市を訪れた際、市長は全人代に参加していたため不在だったのですが、副市長と友好都市について意見交換しました。コロナが収束した後には再開したいと考えています。

 

川口市に住む中国人の

市への貢献に感謝

—— 川口市に住む中国人は、川口市にどのような貢献をしていますか。

奥ノ木 本市には日本有数の大手百貨店があるのですが、そこの需要を大きく支えてくれているのが川口やその近辺にいる中国の方々です。デパートの人からもそう聞いています。これは本市にとってもありがたいことです。また、毎年、中国からの技能実習生が本市の鋳物産業を支えてくれるなど、大きく貢献してくださっています。長い年月を重ねて、本市と中国の方々とのお付き合いも深まりました。

また、新型コロナウイルスの影響によって、街中からマスクが無くなりました。そうした時に、細川会長のチャイナドレス日本総会をはじめ、他の団体からもご寄贈いただきました。

今ではようやくマスクも市場に出回るようになってきましたが、本市では災害に備えて備蓄していたマスクを医療機関などに配布していました。通常ならドラッグストア等でマスクを購入するのですが、それでマスク不足になっていた時に中国の方からマスクを頂いたことは本当に感謝してもし切れません。ありがたく使わせていただいております。

取材後記

これまで47都道府県の知事を取材してきたが、30回以上中国を訪問している地方自治体の首長にはお会いしたことがない。中国の歴史が好きだと「元気」に語る奥ノ木市長の強い中国愛を感じた。この「元気」な市長の下で、川口市はこれからも多文化共生のまちづくりがさらに進んでいくことを確信している。