伊原木隆太 岡山県知事に聞く
日本一の桃とぶどうで中国人をおもてなし

岡山と言えば、「桃太郎」で有名だが、気品漂う白い果皮とやわらかでなめらかな舌触りの白桃や、華やかな香りと芳醇で濃密な味わいが絶品のマスカットなど、極上のフルーツがしばしばメディアで取り上げられている。取材に対し、岡山県の伊原木隆太知事は「本県の桃とぶどうは別格です。中国の方にお越しいただき、桃狩りやぶどう狩りを楽しみながら味わってほしいと思います」と熱弁をふるった。

日本一の桃とぶどうでおもてなし

—— 中国人観光客の誘客にどのように取り組まれていますか。

伊原木 岡山は京都から新幹線でちょうど1時間です。そこでは瀬戸内海のすばらしい景色が見えますし、東京や大阪とは違った日本の原風景を楽しんでいただけます。

おかげさまで本県にも、随分中国人観光客が増え、直近の抽出調査によると、国地域別外国人旅行者宿泊者数で初めて中国が1位になりました。5年くらい前まではそういう状況ではなかったのですが、この急激な変化に対応しようと、まちなかや旅館などの案内板も英語だけでなく、中国語の簡体字と繁体字両方の表記を進めています。また、ウエイボー(微博)などインターネットを活用した情報発信にも取り組んでいます。

—— 知事一押しの特産品は何ですか。

伊原木 本県には桃太郎伝説があり、やっぱり桃の産地といえば岡山県でしょう。そして、実はぶどうのマスカットオブアレキサンドリア、ピオーネなどの生産量は岡山県が日本一なんです。

日本の果物は世界中どこに行っても甘い、柔らかい、大きいと人気ですが、本県の白桃とぶどうは日本一の品質を誇り、まさに別格です。中国の方にぜひお越しいただいて、桃狩りやぶどう狩りを楽しみながら味わってほしいと思います。

岡山県は日中友好にゆかりある人物を輩出

—— 中国との経済人的交流について、どのように取り組まれていますか。

伊原木 日本全体でみると、中国はアメリカに次いで輸出先の第2位ですが、本県にとって中国は輸出先の第1位です。県内企業もベネッセホールディングスやクロスカンパニー、山田養蜂場など、最新の調査では139社が中国に進出しており、地方の県としてはすごい数だと思っています。

本県の人口は190万人強ですが、中国の方が約1万人います。外国人の中では1番多く、そのうち約1400人が県内の大学で学ぶ学生です。私は知事になる以前、会社(百貨店の天満屋)を経営していたのですが、選挙に出る直前に初めて中国人を正社員として採用したところ、非常に頑張り屋さんで感心しました。

実は、岡山県には日中友好にゆかりの方が大勢います。魯迅と親交があり、上海内山書店を開いた内山完造さんは本県の出身ですし、日本に留学され、本県にあった旧制第六高等学校に入学された郭沫若先生は中国に戻ってから文学者歴史学者政治家として大成されますが、後年、岡山にタンチョウをご寄贈いただきました。今でも岡山後楽園の見どころの1つはタンチョウで、それは郭沫若先生に贈っていただいたタンチョウの子孫なんです。

また、本県は江西省と1992年に友好交流協定を締結して20年以上が経ちましたが、これは日中友好に大変尽力をされた岡崎嘉平太先生のご紹介でした。実は私、高校2年生のときに、岡崎先生に連れられて中国に行っているんです。岡崎先生ご自身は、生涯で100回以上訪中されていますが、私の両親が先生を大変尊敬申し上げていて、家族を含め十数回ご一緒させていただきました。あるときは人民大会堂に一緒に行かせていただいて、当時の国家副主席王震さんとの会談を、黙って横で聞いていました。今思い起こせば、ものすごい場面にいたのだと感慨深いものがあります。

あの当時岡崎先生は、日中は仲良くすべきだと、本当に信念を持って言われていました。そして、日中の歴史を振り返りながら、若い人たちに話をしている時に、いつも涙を流されていたことが印象的でした。

本当はすごいが謙遜する県民性

—— 岡山県の県民性について教えてください。

伊原木 私の母は中国東北部の生まれなんですが、日本に引き揚げてきて、大分県で育ちました。その母曰く、九州の人たちはお国自慢がすごい。お祭り大好きで、自分の地元の祭りが一番ってしょっちゅう言っているよと。それと比べて、岡山の人たちは、「自分たちのところが一番だ」みたいなことを言わない、自慢しないんです。

たとえば西大寺の会陽(裸祭り)は日本三大奇祭として全国的に有名で、ふんどし姿の裸の男性が数千人集まって宝木(しんぎ)を争奪し合うというすごいお祭りです。しかし、岡山の人は、「いや、大したことないですよ」と謙遜するんです。私は今、素晴らしいと思っているものは、先に自分から素晴らしいと言いましょうと、そうじゃないとわからないから、とにかく郷土のお酒にしても、料理にしても自慢しようということを言っているんです。

取材後記

取材終了後に恒例の揮毫をお願いすると、伊原木知事は「もんげー岡山!」と書かれた。「もんげー」とは「すごい」という意味の岡山弁で、子どもたちに大人気のアニメ『妖怪ウォッチ』のキャラクター「コマさん」と「コマじろう」の口癖で有名だ。県のPR特設サイトでは、新桃太郎による「日本中に元気と勇気を届けるもんげーチャレンジ」を盛大に展開中で、まさにこれから岡山県の新しい物語が始まろうとしていると感じた。