鈴木 英敬 三重県知事に聞く
日本一の松阪牛と忍者体験で中国人をおもてなし

2016年5月26日・27日、三重県伊勢志摩地域で主要国首脳会議(サミット)の開催が決定した。会場となる志摩市には美しい自然が広がり、海女に代表される日本独特の文化も息づいている。先日、鈴木英敬・三重県知事を訪ね、倍増する中国からの観光誘客の取り組みや三重の魅力の発信について伺った。

 

地域の個性を発揮し中国人観光客を呼び込む

—— 2016年5月、伊勢志摩サミット開催で注目を集めている三重県ですが、昨年来、中国からの訪日観光客が倍増する中、中国からの観光誘客及び三重の魅力の発信についてはどのように取り組まれていますか。

鈴木 今年の1月から7月の間、本県に来県された外国人観光客のうち、国・地域別では中国が1位で、対前年比で5、6倍にも増えています。

実は7月に「人民網」(中国・人民日報のニュースサイト)で三重県の観光特集をやっていただきました。ネットの力はすごいですね。従来通り団体客の方も多いですが、個人旅行客も増えてきています。そうした中国の皆さんに買い物を楽しんでいただくため、消費税の免税店を増やす取り組みをしています。

それから、県内にある75カ所のゴルフ場の中には毎年、アメリカの女子プロゴルフツアーや、日本の男子ゴルフの開幕戦を行っています。サミットを開催できるすばらしい環境、美しい自然の中で、ゴルフツーリズムを推進していきたいと思っています。

いずれにしても、ゴールデンルートの中で埋もれないように、地域の個性を発揮し、中国の皆さんにたくさん来ていただいて、良好なおつき合いをしていきたいと思っています。

 

松阪牛と忍者でおもてなし

—— 知事イチオシの特産物は何ですか。

鈴木 食べ物では松阪牛(まつさかうし)ですね。海外では神戸ビーフが知られていると思いますが、ステーキとかではなく、日本らしい食べ方の「すき焼き」では松阪牛が最高です。1頭5000万円の値がついたこともあるんですよ。ぜひ中国の方に食べていただきたいと思います。

それから、本県は伊賀流忍者発祥の地で、この度、忍者を盛り上げようと、忍者に関係する自治体の皆さんと日本忍者協議会をつくって、私が会長に就任しました。そこで、忍者体験ツアー、通称「忍者パック」を企画開発しました。ホテルでチェックインしたら、忍者の指令書みたいなのを渡され、翌日忍者服を着て手裏剣の修行とか忍者パフォーマンスを見たり、夜は「忍者鍋」を食べてもらいます。忍者ビールという地ビールを鍋料理の上からぶわっとかけて煙をぼわっとさせる、結構インバウンドでご好評いただいています。

 

公害対策の技術を中国へ

—— 三重県は中国・河南省と友好提携を締結していますが、どのような経済交流をされていますか。

鈴木 河南省とは1986年に提携をし、明年30周年を迎えます。河南省は中国最古の王朝である殷の時代や北宋の時代に首都が置かれた地で、少林寺の本山をはじめ文化遺産、観光スポットが数多くありますので、2011年の25周年のとき訪中し、観光協定を結びました。

中国との経済交流では、特に公害対策に取り組んでいます。本県は高度成長期に大気、水質、土壌汚染を伴う四日市公害というのがありました。そのときに行政のルール、企業の努力、市民の監視をセットにして乗り越えてきたわけですが、その技術を中国に移転しようという取り組みを行っています。

本県はICETT(International Center for Environmental Technology Transfer)という国際環境技術移転センターを日本で唯一設置しており、これまで中国を含め90カ国約8000人の皆さんに研修を受けていただいています。

 

包容力と先取性の県民性

—— 伊勢志摩サミットを誘致するに当たって、日本人の心のふるさとを強調したと聞いていますが、どのような県民性ですか。

鈴木 まず1つは包容力があります。江戸時代の日本の人口は3000万人くらいでしたが、そのうち500万人くらいが毎年お伊勢参りで来県したという記録があります。当時は無一文で旅行など出来ない人が大勢いました。それでも一生に一度はお伊勢さんに参りたいと思って来た人たちを、伊勢街道の周辺の人々は、お金を持っていなくても、家に招いてお風呂に入れたり、ご飯を食べさせたり、もてなしてきました。ですからいろんな人を受け入れる包容力のある県民性だと思います。

もう一つは先取性です。本県は例えば、真珠養殖を世界で初めてやり遂げた御木本幸吉という人が生まれた土地でもあり、古くは松尾芭蕉が生まれた場所でもあります。当時、俳句の世界で芭蕉のスタイルは斬新でした。こうした新しさを生む先取の気質があると思います。

日本人の心のふるさとというのは、現在年間1420万人が伊勢神宮に訪れていますが、みなさんが一生に一度は、あるいは人生の節目には訪れたくなる場所としての伊勢神宮を擁していますので、日本人の心のふるさとだとアピールしました。

 

取材後記

インタビュー終了後、恒例の揮毫をお願いすると知事は「初心」と書かれ、「これは世阿弥の言葉で、『初心忘るべからず』とよく言いますが、最初の原点だけではなく、困難なときを忘れてはならないという意味があります。私は知事になる前に1回落選しているのですが、そうしたときに支えていただいたみなさんのことを忘れてはならないという思いで、いつもこの言葉を書くようにしています」と語った。