三村 申吾 青森県知事に聞く
リンゴで有名な青森県が入口となり、 中国人観光客を東北に誘致

2016年3月26日の開業が正式に決まった北海道新幹線(新青森−新函館北斗間)。本州と北海道が初めて新幹線で結ばれることで、青森県では更なる観光客の誘致に向けた取り組みが進められている。三村知事は取材に対し、「新幹線延伸を契機として、本県がゲートウェイ(入口)になり、東北各県にもお客様を誘致する仕組みをつくっていきたい」と熱く語った。

「津軽海峡交流圏」を形成

—— 来年3月に開業予定の北海道新幹線により、青森県への観光客増加が見込まれますが、中国からの観光誘客にどのように取り組まれていますか。

三村 津軽海峡は本県と函館(北海道)の間に流れている「しょっぱい川」とも呼ばれていますが、このエリアには三内丸山遺跡など縄文時代の遺跡が多く、昔から人々が行き来していたことがわかっています。そこで今、北海道と連携して、新しい経済圏・観光圏とも言える「津軽海峡交流圏」の仕組みづくりを進めています。

現在でも函館空港から入国される海外の方々が、フェリーや在来線を使って本県を訪れています。北海道新幹線が開業すれば周遊の利便性が圧倒的に高まります。たとえば、函館には北京や天津などから定期便があります。今東北は、震災からの復興に一生懸命力を入れています。そこで、新幹線延伸を契機として、本県がゲートウェイ(入口)になり、太平洋側にも日本海側にも東北各県にお客様を誘導する仕組みをつくっていきたいと思っています。

おいしい・美しい・楽しい

—— 青森県の魅力は何ですか。

三村 「チンセン(青森)ピンゴー(林檎)ハオチー(おいしい)」ということで青森のリンゴはトップブランドとして中国でも有名ですが、今後、青森そのものの良いところを理解していただくことが大事だと思っています。

実は、本県の魅力は何よりも人が面白いことです。海外の方から、「アジアの原風景とアジア人の原点が青森にはある」と言われます。八甲田山、世界自然遺産白神山地のブナ林等が織りなす四季折々の景色のすばらしさ、そしてリンゴをはじめニンニク、長芋や大間のマグロ、ヒラメ、ホタテ、ナマコなど新鮮な食べ物のおいしさも本県の魅力の一つですが、決め手はやっぱり出会う人が面白いということです。要するにおいしく、美しく、楽しい。この青森の魅力を中国の方にもっとお伝えしたいと思います。

—— 知事一推しの特産物は何ですか。

三村 やっぱりリンゴですね。海のものでは大間のマグロです。この2つはダントツです。たとえば香港の方が初競りでマグロを約1億5000万で、中国の方はリンゴを1個3000円で買ってくださります。これは大変な驚きです。

—— 青森の魅力の発信について。

三村 そもそも本県が日本のどこにあって、どういう所か、まだまだ知られていません。そこでSNSを活用すべきと考え、Weibo(ウェイボー、中国版ツイッタ―)で県の情報を発信しています。現在フォロワー数は130万人ほどで、これは全国の自治体の中でトップクラスだと思います。県内の中国人留学生にもご協力いただき中国人の目線で発信しているので、中国の方が青森に興味を持ってくれているのだと思います。

腹を割って中国人と交流

—— 中国の印象はいかがですか。

三村 中国には相当行っていますが、いずれも2泊3日程度のタイトな日程のため、観光をあまりしたことがありません。紫禁城や万里の長城も行ったことがないんです。

しかし、瀋陽に行った時には大連から列車で移動したのですが、車窓からの風景はどこまでも平らで、畑がばあっと続いていて、夕日が本当にきれいで感動しました。

また、地元の方々と交流を深める中で、一緒に白酒(パイチュウ)を前後不覚になるまでいただいたことも何回かあります(笑)。中国ではそういう腹を割った交流をさせていただいております。

「桃源郷」で人生を楽しむ

—— 青森の県民性について。

三村 作詞家の阿久悠先生が『津軽海峡・冬景色』で「誰も無口で」と書いたので、無口な県民性だと思われていますが、実はおしゃべりでにぎやかで明るいんです。無口な県民に会ったことがありません(笑)。

そして、朝風呂が好きで、朝から温泉に入って、しゃべって、仕事が終わるとまた集まって、飲んで…。つまり、豊かな時間と豊かな食べ物と豊かな人間関係の中で、「あずましく(=津軽弁で居心地がよい)」みんなで生きているというのが青森の特徴だと思います。

実は、県内へ今後も定住したい県民が約75%にのぼるというアンケート結果があります。県外へ出ていきたいという人は8%でした。それだけふるさと愛が強いところです。ですから海外の方がおいでになったら自慢したくて、人懐っこくなるんです。

まさに「桃源郷」ですね。本当にのんびり、ゆったりできて、心からくつろげて、しかも新しい友達がいっぱいできる。人生を楽しんで頂けますので、ぜひおいでいただきたいと思います。

取材後記

雄弁でユーモアとバイタリティーにあふれているというのが三村知事の印象だった。取材の後半、韓国の写真家チョ・セヒョン氏が撮影した田舎の原風景が色濃く残る青森の写真集『A Walk in Aomori(青森を歩く)』をめくりながら、青森は人が面白い、会うと楽しいんです、人生を楽しむことが出来ますよ、と何度も強調した。それは知事ご自身のことなのだと思った。