村岡 嗣政 山口県知事に聞く
日本の近代化始まりの地で 中国人をおもてなし

先ごろ、吉田松陰が主宰した松下村塾などを含めた「明治日本の産業革命遺産」が2015年のユネスコ世界文化遺産として登録された。近代化を進めていった明治維新の大きな原動力として歴史的にも山口県は有名だ。村岡嗣政知事はそうした維新の志士をほうふつとさせる風貌をもつ。知事は取材に対して、「今後は“維新”を一つの柱として国内外に観光PRをしていく」と瞳を輝かせた。

中国の地方政府との交流で日中関係改善に努める

—— 昨年、日中知事省長交流事業で訪中されていますが、成果について。

村岡 昨年の10月27日から31日まで、全国知事会の第9次日中知事省長交流事業に参加し、さまざまな要人と懇談しました。地方政府の省長とのフォーラムでは、本県の観光地や農林水産物などをPRし、さらに本県が環境対策や省エネルギー対策に高い技術を有していることを紹介し、そうしたノウハウ・技術を中国で活用されるように提案しました。

また、私が総務省にいたときに四川大地震があり、国際消防救助隊の統括官として現地に赴き救援活動を行ったのですが、今回四川省に行くプログラムに参加して、震災後の復興状況等も見させていただき、四川省の皆さんと友情を深めることができました。

実は、四川大地震の時に現地で対応された外交部の李文亮参事官は、後に長崎総領事として赴任されましたので、改めて、親交を深めることができましたし、また、洞爺湖サミットにおいて、当時の胡錦濤国家主席が日本の救助隊にぜひ感謝をしたいと呼んでいただいたことも忘れ得ぬ思い出となっています。

今後、中国の地方政府の皆さんとの交流をさらに深め、日中の関係改善につながるよう努力していきます。

若い時にお互いを認識することが将来プラスになる

—— 中国との経済、青少年交流について。

村岡 本県は1982年に山東省と友好協定を締結し、経済分野では2001年から毎年、山東省の済南市、青島市で、そして下関市で貿易商談会を開催するなど、県内企業の中国での事業展開を支援しています。

また、本県及び山東省の将来を担う若者の交流は重要と考えています。若い時にお互いを認識することは、将来大きなプラスになると思います。

国際定期フェリーの就航や修学旅行で誘致を促進

—— 中国からの観光誘客の取り組みについて。

村岡 中国人観光客の誘客は、県の大変重要な取り組みに位置づけています。

今、下関と青島を結ぶ国際定期フェリーが週2便就航していますが、このフェリーを使って本県に1泊以上する商品の助成制度を設け、本県への誘客の促進を中国の旅行会社に働きかけています。

そして、中国で本県の魅力をPRするために、済南や青島での観光展への出展や上海、広州での現地セールスといったプロモーション活動を展開しています。特に山東省については、現地の学校を訪問し、いわゆる修学旅行の誘致に取り組んでいます。

また、本県は地理的にも中国に近いというメリットをしっかりと生かしながら、無料Wi-Fiの普及促進や中国語版観光案内書の充実、免税店の拡充など、受け入れ環境の整備にも取り組んでいるところです。さらに、県のPR動画をリニューアルし、現地のメディアや旅行会社に直接行って働きかけることが重要だと思っています。

世界に認められた味覚の王様「フグ」

—— 一押しの県の特産品は何ですか。

村岡 山口の食といえば、フグが大変有名で、市場の取扱量は日本一を誇っています。フグは味覚の王様と呼ばれており、大変おいしいです。

本年5月に開かれたミラノ万博の日本館にフグを出展したのですが、実はEUではフグの輸入が禁止されていたため、一生懸命EUの担当者と交渉し、万博特例で会場のみの出店が許可されました。すると、EUで初めてフグが食べられるということで、地元でもテレビや新聞で大々的に取り上げられ、多くの来場者がありました。フグは味だけではなく、薄造りのお皿の盛りつけは非常に芸術性が高いとの評価を得ました。

フレンドリーで温かい中国人をもてなしたい

—— 山口県は多くの首相を輩出し、明治維新の原動力ともなった歴史的にも有名な県ですが、どのような県民性ですか。

村岡 一般的には、保守的で頑固者、好き嫌いがはっきりしている、プライドが高くて負けず嫌いなどと言われていますが、それは信じることを貫き通そうとする気質の表れであり、打ち解けると温かい県民性だと思います。

たたとえば、7月末から8月初めまで、世界スカウトジャンボリーというボーイスカウトの世界大会が本県で開かれ、世界中から集まった約3万4000人のスカウトが県内すべての小中高校等で交流したのですが、どの地域に行っても大変温かく迎えてもらったと感謝の言葉を頂きました。来訪される方に対してのおもてなしの気持ちは非常に強い県民性だと思います。

—— 中国人の印象はいかがですか。

村岡 国と国とはいろんな問題を抱えていると思いますが、実際に接してみると、非常にフレンドリーで打ち解けやすく温かいという印象をもっています。私自身、一人一人の交流の積み重ねがとても重要だと思っていますので、地方の政府間レベル、あるいは子どもたち同士の交流をできるだけ重ねていくことで、お互いが理解し合あい、友好関係が深まることを望んでいます。

取材後記

インタビュー終了後、平成30年の明治維新150周年に向けて、薩長土肥(現在の鹿児島、山口、高知、佐賀)で連合をつくって、幕末維新の観光キャンペーンをするための盟約締結式が行われると聞いた。そこで幕末や明治維新に関心を寄せる中国人は少なくないことを話すと、知事は「日本国内だけでなく、海外に向けてもPRしていきたい」と語った。