仁坂 吉伸 和歌山県知事に聞く
日本一の生マグロを 中国人に食べてほしい

和歌山の日本一と言えば、梅、みかん、柿が有名だが、仁坂吉伸・和歌山県知事にお勧めの特産品を尋ねると、「(はえ縄漁での)水揚げ高日本一の冷凍でない生マグロです」と答えた。東京や京都を巡るいわゆるゴールデンルートに外国人観光客が集中する中、和歌山市内にある「黒潮市場」ではマグロの解体ショーが中国人観光客に大人気だという。仁坂知事に知られざる和歌山の日本一について聞いた。

ポテンシャリティーが一番大きいのは中国

—— 県では中国からの観光誘客にどのように取り組まれていますか。

仁坂 中国本土からの観光客は、シェアでは香港、台湾に次いで12.3%ですが、前年比280%増とポテンシャリティーは一番大きいと思っています。

観光誘客の取り組みとしては、中国語のできる職員を育成・派遣しているほか、上海、北京、広州など大都市圏のトラベルエージェントへ積極的に働きかけています。加えて、メディアの活用ですが、香港などに比べると、中国本土ではまだまだ和歌山県の知名度が低いので、さらにPRしていきたいと考えています。

現在、中国からの団体客が増えていますが、リピーターを増やすために、フリーWi-Fi環境や、道路などの公共施設、ホテルなどのトイレをより快適に整備するとともに、中国語を含む多言語案内表記の設置など、急ピッチで進めているところです。

さらに、中国の富裕層の中には自家用機で訪日される方もいらっしゃると聞いています。本県には南紀白浜空港というリゾート空港があり、近くには立派なホテルと、美しい海、温泉もありますから、これから大いに売り込んでいこうと思っています。

また、昨年施行された消費税の免税制度を活用するため、県内の免税店8店を昨年1年間で一気に100店に増やしたところですが、今後1000店を目指し、免税店と観光業者間のネットワークを構築し、更なる誘客をはかっていきたいと思います。

お勧めは日本一の生マグロ

—— 知事お勧めの県の特産品は何ですか。

仁坂 本県は日本で最も農業における果樹比率が高い県で、果物の生産量で日本1、2位を争う果樹王国です。みかんをはじめ、ハッサク、柿、梅の生産量は日本一で、さらに桃、キウイ、ビワなど、とにかく種類が多く、1年中花が咲きみだれ、いつでもおいしい果物が食べることができます。

次に、近海魚ですね。本県は海に面しているので、ハモ、イセエビ、アワビ、サザエ、それからタチウオ、鯛、ハマチなど何でも獲れます。さらに、本県では、冷凍ではない生のマグロが食べることができます。それも網でぐしゃっと獲ったものではなく、丁寧に一本釣りしたマグロで、その水揚げ高は勝浦漁港が日本一です。ぜひ、日本で一番おいしいマグロを召し上がっていただきたいと思います。

アジアの青少年交流を推進

—— 中国との経済交流の取り組み、青少年交流の重要性についてお聞かせください。

仁坂 本県が中国の山東省と姉妹都市提携を結んだのは1984年ですが、私が知事に就任した直後の2007年に、「和歌山県―山東省友好交流関係の発展に関する覚書」を結び、環境保全、経済貿易、人的交流等についてより具体的な内容を決めました。

どの国も経済発展すると公害が起こります。水や空気が汚れるんです。本県も昭和30~40年代に現在の中国と同様のことが起こりましたが、何十年もかけて克服しました。そうしたノウハウを県も企業も持っていますので、山東省に専門家を派遣して、これまで様々アドバイスをしてきました。

また、若い県庁職員を山東省の省庁に派遣し、中国語はもちろん中国の実情について学ばせています。彼らは帰国後、中国との交流の最前線で活躍しています。

青少年交流については、昨年、県内の高校が中国山東省の生徒を招き、交流しました。次代を担う青少年交流が重要と考え、本県では今年11月に中国を含むアジアの子どもたちをお招きして、一緒に勉強し、交流する第1回目の機会を持ちたいと考えています。

イノベーションが得意で分け隔てなく親切な県民性

—— 和歌山の県民性について。

仁坂 まず第1にイノベーションが得意です。たとえば世界遺産になった「和食」に欠かせないのが醤油、カツオ節です。これらは本県が発祥の地です。カツオやマグロの一本釣りを最初に始めたのも本県です。それを人にすぐ教えるものですから、他の地域で有名になった、そういうものが多いんです。

第2に、こだわりなく人に親切ということです。日本の観光は巡礼・お参りが発祥と言われています。近世以降、伊勢参りや四国巡礼などが観光と結びついていきましたが、それ以前は皆、もっぱら本県の熊野にお参りに来ていたんです。本県は古(いにしえ)から観光業が発達しており、地元の人は旅人に対し、どんな信仰を持っていても、お金持ちも貧乏人も分け隔てなくオープンな気持ちでもてなしました。それがリピーターとなって、長年にわたり日本中から熊野に詣でるようになったのです。

中国の学生は命がけで勉強

—— 中国人の印象について、エピソードはありますか。

仁坂 私はもともと通産省(現・経済産業省)官僚で、通商政策局審議官中国担当を務めました。2000年頃、中国の西部大開発に関わり、清華大学でのセミナーに参加して、経済に関する日本政府の考え方などを話すなど、親交を深めました。

その時に当時の副学長に、「日本の大学生は勉強しない」と話すと、「うちは勉強しすぎで体を壊す学生が続出している」と言うんです。中国の大学は全寮制ですから、夜の12時になると寮の電気を消す。すると、トイレで勉強する学生がいる。だからトイレの電気も消して真っ暗にする。そうしないと、勉強し過ぎて身体を壊し命さえ危うくなると…。中国人はすごいと感心しました。