大村 秀章 愛知県知事に聞く
「ピンポン外交」の地から「日本の心」を発信

愛知県では2015年を「あいち観光元年」として、観光を新たな戦略産業として位置付け、4月からは観光局を設置し、一層の観光振興を図っている。中日米三カ国の歴史の転換点となった「ピンポン外交」の地に大村秀章知事を訪ね、県のインバウンド戦略等について伺った。

 

今年は「あいち観光元年」

―― 2014年の訪日中国人観光客数は前年の2倍近い241万人でしたが、今年は倍増するとも言われています。県では中国からの観光誘客にどのように取り組まれていますか。

大村 中国人観光客の多くは東京から日本に入り、関西に寄って帰国するといういわゆる「ゴールデンルート」を行く方が多いと思いますが、中部地区も見どころが満載です。

本県では、このほど海外に向けた観光PRのためのキャッチワード及びロゴマーク、AICHI-NAGOYA“Heart”of JAPAN ~Technology & Traditionを作成しました。本県は地理的に日本の中心に位置し、日本一のTechnology(技術)とTradition(伝統)を誇る産業の中心地であり、まさに“Heart”of JAPAN、日本の中心で、日本の心臓で、日本の心です。“Heart”は愛知の「愛」でもあります。今後、当地の強みであるTechnology & Traditionを観光PRのキラーコンテンツとして、知名度アップを図りたいと思います。

また、誘客拡大のために、広域での展開が効果的と考え、中部地域9県を龍に見立てた「昇龍道プロジェクト」に取り組んでおり、「上海世界観光博覧会」には2014年、15年と2年続けて、昇龍道として出展し、周遊観光ルートの提案などを行っています。

 

「武将のふるさと」は中国でも有名

―― 愛知県と言えば、戦国の武将、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の出身地として有名です。

大村 日本人も三国志や水滸伝の梁山泊が大好きですが、小説「徳川家康」は中国でも翻訳され、若者の間でファンがたくさんいると聞いています。愛知県は、三英傑を始め多くの武将を輩出した「武将のふるさと」ということを、名古屋城、岡崎城、犬山城などのお城と合わせてもっとPRしていきたいと思います。

―― 「一押し」の特産品は何ですか。

大村 今、中部空港で中国人観光客に1番売れているお土産は抹茶スイーツです。本県は、京都に次ぐ第2位の抹茶の産地で、抹茶スイーツの草分けです。ハーゲンダッツの抹茶アイスは本県の企業が売り込んでできたもので、今では世界中でヒットしています。その企業は上海でも抹茶を製造・販売していますが、元々お茶の文化は中国から来たものですから、まさに文化のご恩返しと言えるかもしれません。

 

中国との経済交流を強化

―― 愛知県には世界的に有名なトヨタがありますが、中国との経済交流についてはいかがですか。

大村 本県は自動車産業をはじめとした日本一の産業集積を誇っています。中国への進出企業は500社を超え、友好提携協定締結35周年を迎える江蘇省への進出は、上海市に次いで多いのですが、2008年10月に「経済分野における友好交流をさらに強化することに関する合意書」を締結し、経済的な結びつきを強めてきました。

その合意書に基づき、同年12月に「愛知県サポートデスク」を南京市に設置し、2004年に設置した「上海産業情報センター」とともに、県内企業の中国進出支援を行っています。

 
5月21日、「あいちの抹茶」をPRするため、愛知県茶商工業協同組合、
西尾市及び西三河農業協同組合の皆さんが大村知事を訪問し、「あいちの抹茶」を贈呈した際の様子

交流の礎は人と人との交流

―― 本年5月、北京の人民大会堂で開催された「中日友好交流大会」に日本から大勢の若者を含む3000人が訪中し、参加しました。中国との青少年交流ついて、どのようにお考えですか。

大村 次世代を担う青少年の交流は、大切な隣人同士である日中両国の交流の発展につながっていくと期待しています。本県では、2013年11月に広東省と相互協力に関する覚書を締結し、本年2月に広東省高校生科学技術交流訪問団の高校生20名を受け入れました。

一般家庭へのホームステイや高校生同士のディスカッションなどの交流を通して、両国の青少年交流がはかられました。今年度も、環境をテーマとした高校生訪問団の受け入れを予定しています。

 

小さなボールが大きなボール「地球」を動かす

―― 愛知県は中日米三カ国の歴史の転換点となった「ピンポン外交」の地ですが、どのように位置づけていますか。

大村 1971年に愛知県体育館で開催された「第31回世界卓球選手権大会」は、スポーツという枠を超えて、日米中の外交史における大きなターニングポイントとなりました。この大会での米中選手団の交流が、その後の米中関係改善や日中国交正常化につながったことから、「小さなボールが大きなボール『地球』を動かす」と称賛され、いわゆる「ピンポン外交」として、今も多くの人の記憶に残っています。

私自身、このことを誇りに思っており、「ピンポン外交」の果たした意義を顕彰し次代に継承していくため、本年5月、44年の時を経て記念モニュメントを名古屋城の一角に設置させていただきました。

モニュメントの真ん中には日本と中国とアメリカの国旗が並んでいます。時には関係が悪化することがあるかもしれませんが、お互いに仲良く、協力してやっていくということをベースにしていけば、いろいろなことが解決できると思います。特に日本と中国が世界平和に果たす役割は大きいと思っています。

 

堅実で実直な県民性

―― 愛知県の県民性について教えてください。

大村 一言で言えば、Technology(技術)とTradition(伝統)に関連付けられます。本県は、戦国時代から江戸時代にかけ、多くの武将を輩出しており、江戸時代の大名の7割は本県の出身です。歴史、伝統文化を重んじながら、コツコツとモノづくりをするという愛知の堅実で実直な気質が全国に広がっていったとも言えるのではないでしょうか。そうした気質が、現在の県民にも脈々と受け継がれていると感じています。

写真/本誌編集長 蒋豊