三日月 大造 滋賀県知事に聞く
「観光は政治と国境を越えた交流」

2015年3月19日、三日月大造知事は「日本は戦争の歴史を反省し、二度と同じ過ちを繰り返してはなりません。滋賀県は特に日中両国の若者の交流を重視しています。今後の日中友好事業のために、より多くの後継者を育成していきたい」と話された。さらに、中国からの観光客の皆さまには是非、滋賀県の「母なる湖」——琵琶湖を訪れていただきたいと語った。

 

40年かけて水質汚染を改善

―― 現在、中国では水質・大気汚染等、環境問題が深刻です。滋賀県は水の環境保全や食の安全の分野で豊富な経験をおもちで、中国からも視察団を派遣したことがあります。県の環境対策への取組をお聞かせください。

三日月 滋賀県は日本最大の湖・琵琶湖を有し、近畿1450万人の重要な水源となっています。ですから、食や水の安全に関心をもち、何らかの形で積極的に環境保全活動に参加する県民が多くいらっしゃいます。

食の安全では、農薬・化学肥料を通常の半分以下に減らしてお米や野菜を作ろうという「環境こだわり農業」を2001年から始め、それをブランド化して取組を広げています。

水の安全では、高度経済成長期に工業廃水、生活排水が大量に琵琶湖に流れ込み、水質が悪化しました。県民はライフスタイルを見直し、洗剤を変えたり、工業廃水を厳しく規制することによって環境保全の意識を高め、琵琶湖の水を大事にしながら生活する取組をこの40年間進めてきました。おかげで水質は大きく改善され、以前の透明度を取り戻しました。

 

日中友好の後継者を育成

―― 滋賀県はこれまで、中国の湖南省と友好交流されています。今後、湖南省との経済交流・人文交流にはどう取り組まれますか。

三日月 2002年12月、国会議員になる前に研修生として滋賀県の交流事業「日中青年の翼」に参加し、湖南省、上海、北京を訪問しました。本県と湖南省は1983年に友好交流の締結をし、30年以上の交流の歴史があります。

滋賀県と中国の交流の淵源は西暦800年頃の平安時代にまで遡ります。最澄が唐の時代の中国に学んで日本に帰国後、大津の比叡山延暦寺で天台宗を開きました。その時に中国からお茶を持ち帰り日本に広めました。ですから、日本と中国の交流は滋賀県から始まったと言っても過言ではないと自負しています。

本県では「21世紀東アジア青少年大交流計画」(JENESYS)を全力で支援し、学生交流を積極的に進めて来ました。さらに、「日中青年の翼」事業も約20年間続け、若者の相互理解を促進し、将来の友好関係のための布石を打ってきました。

経済面では、県内の代表的企業である「平和堂」が湖南省に四カ所オープンしています。これは本県と湖南省の友好・協力の結晶と言えます。本年8月には、財界人を含む70人規模の県民交流団が湖南省を訪問する予定です。最も重要なのは青少年交流と考えてきましたので、今回は県内の高校生も同行します。未来志向で次の時代につなげていきたいと考えています。

 

観光は政治と国境を越えた交流

―― 2014年の訪日中国人観光客数は前年の2倍近い241万人でした。滋賀県は中国でも一定の知名度がありますが、中国からの観光誘客にどのように取り組まれていますか。最もおすすめの特産品或いは観光の魅力は何ですか。

三日月 「観光」の「観」は見る、鑑賞する、「光」は風景です。私は個人的に、「観光」には光明、希望をみるという意味もあると考えます。

「観光」は、最もお互いを理解させ、友好感情を深める可能性のある産業・文化だと思っていますので、観光産業をさらに盛り上げ、より多くの中国のお客様に滋賀県の特産品や滋賀県人の魅力を感じていただきたいと思います。「観光」とは正に「政治と国境を越えた交流」だと考えています。

本県の観光の魅力は何と行っても琵琶湖です。春夏秋冬それぞれ違う景色を見せてくれます。美味しい食べ物もたくさんあります。必ず満足していただけると思います。

 

「近江商人」の精神で国際交流を

―― 2014年11月、ようやく中日首脳会談が実現しましたが、調査では国民がお互いの国を友好的には見ていません。「松下政経塾」出身の地方自治体トップとして、中日関係の重要性をどのように考えていますか。

三日月 私は「松下政経塾」に居た時に訪中したことがあります。中国と日本は一衣帯水の隣国で、友好・交流の長い歴史があります。一時期、日本は国策を誤り戦争への道を歩み、植民地支配と侵略によって、中国をはじめ多くの方々に多大な損害と苦痛を与えてしまいました。このことに関しては深い反省に立ち、二度とこうした戦争の歴史を繰り返さないという気持ちが、中国との友好交流においては大事だと思っています。

私は知事として、湖南省との友好関係を築いていきたいと思いますし、経済面・文化面でも切っても切れない関係にある両国は、ともにアジアと世界の平和・安定的発展に寄与していく責任があると思っています。

本県は商売する時、近江商人の精神として三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)の商売道を実践してきました。これを国際交流面でもやっていかなければいけないと思っています。

 

多様性を保ちながら共生を重視

―― 滋賀県の県民性についてはいかがですか。

三日月 一言で言えば、多様性を保ちながら人と自然が共生していると言えます。今だけではなく未来と共生、社会全体ひいては周辺諸国と共生できるのが本県の県民性だと思います。

本県はちょうど日本の真ん中に位置し、東西で見れば、東京と中部、近畿圏をつないでいます。南北で見れば、太平洋と日本海をつなぐ真ん中に位置し、重要な交通の結節点です。こうした地理的環境の中で、共生するという県民性が育まれたのかもしれません。インターネットや観光で交流するマルチチャンネル時代だからこそ、多様性を保ちながらお互いを尊重する共生の思想が大事になってくると思っています。

 

取材後記

取材を終えて、いつもの様に揮毫をお願いすると「着眼大局、着手小局」と記してくださった。日本の政治エリートの揺籃「松下政経塾」出身の若き政治家の行動規範なのであろう。ご自身の姓でもある三日月をシンボルとしてサインの脇に描き、「私は永遠に三日月のままで、満月にはなれません」と笑われた。中国には「月は満ちると欠け、水は満ちると溢れる(物事は頂点まで達すると必ず相反する方向へ転化する)」という諺がある。三日月がちょうど良い!写真/本誌記者 張桐