尾﨑 正直 高知県知事に聞く
「高知県民と中国人はすぐに仲良くなれる」

日本で高知県と言えば、傑出した人物を生み出した地とされ、山内容堂、後藤象二郎、坂本龍馬、中岡慎太郎などの志士を輩出している。坂本龍馬の故郷として中国でも一定の知名度がある。中日国交正常化の頃、訪日代表団の女性団員が高知県桂浜の坂本龍馬像を見て涙したというエピソードもある。3月10日、「高知県は『地元ならではのおいしい食べ物が多かった県』で全国第一位に輝きました。これから、維新の志士-坂本龍馬、日本最後の清流-四万十川、ここ数年一位に輝いている美食で中国の観光客をもてなしたい」と語る尾﨑正直高知県知事を取材した。

 

安徽省との交流は光栄

―― 高知県は1994年に安徽省と友好都市になりました。現在、中国とはどのような経済交流、人的交流の取り組みをされていますか。

尾﨑 高知県にとって、中国は非常に重要な貿易パートナーです。本県の生産品の輸出先の第2位が中国であり、輸入先としては第1位です。本県と安徽省の交流はもう20年になりますが、10周年と15周年の時には、私が団長として安徽省を訪問し、ものすごい歓迎を受けました。

2012年4月には、李斌省長を団長とする安徽省政府代表団を高知県にお迎えしました。安徽省を訪問した際、歴史遺産をしっかりと受け継ぎながら経済発展を進めている姿を見て、安徽省の皆さまと経済交流ができることを光栄だと感じました。

2003年には上海事務所を設置し、対中投資の水先案内を行っていましたが、2015年からは県内企業の輸出入取引のサポートに重心を置いています。

観光客調査で「おいしい食」全国第一位に

―― 2014年、中国からの訪日客数は前年の2倍近い約241万人になりました。現在、多くの中国人観光客は東京や奈良、京都などに集中していますが、県では中国からの観光誘客にどう取り組まれていますか。また、一番勧めたい高知名物は何ですか。

尾﨑 多くの中国人観光客はリピーターだと聞きます。中国の皆さまには東京、名古屋、京都、大阪といういわゆるゴールデンルートだけではなく、日本の農山漁村の魅力に触れ、古くからの田園風景も知っていただきたいと思います。本県が正にそうです。水産業も林業も盛んで、「最後の清流」と呼ばれる四万十川もあります。また、森林面積率は日本一です。

中国のお客様に私が最もアピールしたいのは、地元ならではのおいしい食べ物です。日本のリクルートが発行している『じゃらん』が毎年宿泊客にアンケート調査を行っているのですが、「地元ならではのおいしい食べ物が多かった」県のランキングで、本県は2007年、2010年、2011年、2012年、2014年と何度も第1位に輝いています。中国の皆さまにはぜひ、本県に来てその食を味わっていただきたいと思います。

日中は友好関係の原点に戻るべき

―― 2014年11月、ようやく中日首脳会談が実現しましたが、調査では依然として国民がお互いの国を友好的には見ていません。中日関係の重要性をどのようにお考えですか。

尾﨑 両国間にさまざま課題がある中で、戦略的互恵関係を発展させていこうと確認し合ったことは、非常に意義深いことだと思います。

日本と中国は歴史的にも深いつながりがあり、文化交流も長く続けてきました。『三国志』は日本人なら誰でも知っていますし、『孫子の兵法』は日本の経営者なら誰でも学んでいます。大使館に勤務していた頃思っていたのですが、いろんな国際会議が欧米主導で進んでいく中で、アジアは結束してアジアの主張、価値観を訴えていくことが重要だと実感しました。

日中両国は戦略的互恵関係の原点に戻って、友好関係のもとで両国の経済を発展させることが重要です。地方自治体として、本県も中国の地方政府との交流や民間交流が大切だと思っていますし、日中友好を強固に推進していくために力を発揮していきたいと考えています。

現代にも求められる坂本龍馬の大局観

―― 高知県と言えば、坂本龍馬です。知事は坂本龍馬をどう評価されていますか。

尾﨑 坂本龍馬は我々の大先輩であり、尊敬する大英雄です。我々は子どもの頃から坂本龍馬の話を聞かされて育ちました。龍馬が川遊びをしていた場所や生家の前、道場に通った道などを私たちは日常的に通っています。

龍馬が偉大なのは、組織の力を借りず、独特の人間的魅力で人的ネットワークを築き、当時反目していた薩摩藩と長州藩を結び付け、崇高な理想のために同盟したことです。こうした龍馬的な感覚は現代の日本にも求められていると感じます。

また、龍馬は貿易立国、自由民主主義体制の国づくりといった国の方向性を、一個人の立場で最初に示した人物です。龍馬が起草した「船中八策」に示されている国家体制の基本方針は、長い年月をかけて実現されていくと思いますが、その先見性には目を見張るものがあります。

坂本龍馬記念館が明治維新150周年を記念して、2017年にリニューアルオープンします。龍馬に関する最新資料も多く展示され充実した内容になりますので、中国の方にもぜひ訪れてほしいと思います。

高知県民と中国人の性質は相似

―― 高知県の県民性についてお聞かせください。

尾﨑 高知県民は結束力が強く友好的です。本県では一つの大家族という意味で「高知家」と言います。「高知家」の人々はとても温かく、他県から転居してきた人もすぐに溶け込むことができます。また、お酒が好きで、豪放磊落、裏表がありません。

これまで、中日友好協会の招聘による安徽省との交流や、上海での県のビジネス支援で何回か訪中していますが、中国の方は大勢で賑やかに楽しくお酒を飲みますね。日本のサラリーマンが一人でやけ酒を飲むのとは大きく異なります。この点は「高知家」の人たちと似ています。

高知市内に「ひろめ市場」というところがあるのですが、そこで外国人観光客が飲んでいると必ず地元の人が話しかけて、一緒に飲み始めるといいます。こうした人間味があって客好きでさっぱりした性格は、中国の方とも共通する部分があると思いますので、高知県民と中国の方はすぐに仲良くなれると思います。

写真/本誌記者 原田繁