谷本 正憲 石川県知事に聞く
中国市場は最も重要で大きな市場

「行きたかった、あの日本へ」――このキャッチフレーズのCMに記憶のある読者も多いのではないだろうか。北陸新幹線の長野-金沢間が3月14日に開業し、東京から金沢までが今より約1時間20分早い最速2時間28分で結ばれる。1月9日、石川県庁を訪れ、「北陸新幹線が開通すると中国からの観光誘客に劇的変化が起こる」と語る谷本正憲知事に話を伺った。

 

中国からの誘客に劇的変化が

―― 北陸新幹線の東京─金沢間の開通を3月14日に控え、中国からの観光誘客にどのように取り組まれていますか。

谷本 中国からの観光客は10年前は2000人程度でしたが、現在では1万5000人で7倍以上に増えています。その理由は中国経済が発展したこともそうですが、小松―上海間の定期便就航が最大の要因だと思います。

知事就任後に私は何回も訪中して中国東方航空と交渉を重ねました。実は当初、日本海側にあまり興味を示さなかったのですが、本県は、世界的な建機メーカーである小松製作所など、高い技術を持つモノづくり企業が集積しており、当時、上海、江蘇省など中国経済をけん引していた華東地域と経済交流が盛んでした。そのため、行政のみならず、経済界からもあらゆるチャンネルを通じて粘り強い働きかけが続けられ、そうした結果、上海―小松間の定期便就航にこぎつけたのです。

さらに、北陸新幹線が開業すると中国からの観光誘客に劇的変化が起こると思います。これまでは東海道新幹線を使う太平洋側の「ゴールデンルート」が主でしたが、今後は、北陸新幹線を使った新たな「ゴールデンルート」ができると思います。キャッチコピーは「行きたかった、あの日本へ」です。今は失われてしまった古き良き日本が北陸にはあります。それをぜひ体験してもらいたいと思います。

 

中国は最も重要で大きな市場

―― 中国とどのような経済交流の取り組みをされていますか。

谷本 まず、平成9年に、県内企業からのニーズの高まりを受けて上海事務所を設置し、現地最新情報の提供や見本市への出展支援といった販路開拓の後押し、進出企業の現地支援など様々な支援を行っています。

また、平成16年度には、中国をはじめ海外展開に関心を持つ県内企業の質問や相談にワンストップで応える「国際ビジネスサポートデスク」を県庁に設置しており、現地の市場動向・法制度の情報提供や販路開拓支援など、きめ細かな支援を行ってきました。

とりわけ、友好交流地域の江蘇省とは、経済や観光など様々な面で交流強化を図っており、私をはじめ訪問団がお互いに行き来するなど、活発な交流を続けています。

―― 関連して、石川県は日本を代表する伝統工芸品をはじめ、優れた特産品が数多くあります。中国市場の販路開拓にどのように取り組んでいますか。

谷本 石川は豊かな自然や変化に富んだ四季に恵まれており、加賀藩の時代から受け継がれる伝統の「加賀野菜」や、日本で初めて世界農業遺産に認定された「能登の里山里海」に育まれた海・山の幸、全国に誇る数々の地酒など、まさに「食」の宝庫です。また、「伝統工芸王国」と言われるほど伝統工芸が盛んであり、漆器(輪島塗、山中漆器等)や陶磁器(九谷焼等)、金箔(金沢箔)など、36もの伝統工芸が脈々と受け継がれています。

なかでも、上海を中心とした中国市場は最も重要かつ大きな市場であると考えています。伝統工芸品については、現地の顧客の嗜好に合わせた商品開発のお手伝いや現地バイヤーとの商談会の開催などを通じて販路開拓に取り組んでいますし、県産食品や地酒についても、現地商社と県内企業とのビジネスマッチングの開催など、積極的な支援を行っています。

 
石川県庁舎内に掲げられた北陸新幹線開業を告知する横断幕

国の外交を補完する青年交流

―― 中国との青年交流の取り組みとその重要性について。

谷本 今後の日中関係を考えるときに、次代を担っていく両国の青少年同士の交流は大変重要です。

本県は、中国からの教育旅行の誘致に積極的に取り組んでおり、今年度も広東省の中山大学など8団体から青少年183名を受け入れています。そして、滞在中は、伝統工芸体験や中国の学生の関心が高いゴミ処理施設の見学、「能登の里山里海」の暮らしが体験できる農家民泊など、石川の生活や文化に直に触れてもらう機会を設けています。

また、江蘇省とは、高校生を相互に派遣する「21世紀石川少年の翼」事業を実施しており、学校訪問やホームステイを通じ、言葉や習慣の壁を超えて相互理解を深め、友情を育んでいます。

こうした取り組みは、両県省の未来に続く揺るぎない信頼関係の基礎となるだけでなく、ひいては、日中両国の良好な関係の構築にも寄与するのではないかと考えています。

 

忍耐力とおもてなしの心で

―― 石川県の県民性について教えてください。

谷本 県民の皆さんは、まじめで実直、粘り強く忍耐力があります。先ほども申し上げましたが、本県は「伝統工芸王国」と言われるほど伝統工芸が盛んであり、また、多彩な伝統芸能も受け継がれています。いずれも、厳しい修業、研さんを重ねることが欠かせない分野ですが、こうした県民性が大いに発揮されていると思います。また、近年、石川には企業の進出が相次いでいますが、こうした粘り強さは、進出企業の経営者の方々からも高く評価されています。

さらに、「能登はやさしや土までも」と言われるように、古くから、優しくて温かいおもてなしを心がけていく風土や県民性があると思います。お客様をおもてなしの心で迎える茶道や華道をたしなむ方の割合が全国的に見ても高いことも、こうした県民性の一つの表れではないでしょうか。北陸新幹線の開業後は、たくさんの観光客が本県へお越しになると思いますが、こうしたおもてなしの心は、日本人はもとより、言葉の壁を超え、外国人観光客の皆さんにも、きっと満足していただけると思っています。

撮影/本誌記者 原田繁