井戸 敏三 兵庫県知事に聞く
中国と協力して環境問題に取り組みたい

兵庫県は日本が律令制度を敷いていた時代、七国のあつまる「宝の地」であった。七国とは即ち、摂津国、丹波国、但馬国、播磨国、淡路国、美作国、備前国であり、五畿八道のうちの一畿三道を占めた。地理的に恵まれた兵庫県は「日本の縮図」と呼ばれ、ここに足を運べば日本の美しい四季が見られる。「3.11東日本大震災」から3年。我々は、19年前の阪神・淡路大震災を逞しく乗り越えた兵庫県を訪れ、運輸省と自治省でも仕事をしてきた井戸敏三知事を訪ねた。

 

 

カウンターパート方式で

岩手県の被災地再建を支援

―― 今年は「3.11東日本大震災」発生から3年になりますが、東北の被災地はあらゆる分野で復興が急がれます。1995年、兵庫県も未曽有の自然災害である「阪神・淡路大震災」を経験されましたが、迅速な再建がなされ逞しく再起しました。当時、阪神・淡路大震災で被災された多くの兵庫県民の皆さんが、この3年間、何度も東北の被災地を訪れ、励まされた被災者が生きる希望をもらったとテレビで紹介されていて感動しました。「経験者」として、東北の被災地にどのような援助をされてきたのでしょうか。

井戸 来年1月17日、阪神・淡路大震災から20年を迎えます。10年の復興計画である「ひょうごフェニックス計画」をつくり、10年を一つの区切りとしました。

この計画はほぼ達成しましたが、高齢者の見守りとにぎわい再生の二つの課題はまだもう一歩です。神戸市長田区のように被害の大きかった地域では、商店街を含めてなかなか地域力が回復しませんでした。

高齢者は生活の安定以外に心のケアが大事です。こうしたことは今後も続けていきます。こうした中で新しい多くのボランティアが生まれ、それぞれの地縁によって復興復旧支援が行われました。

この4月から1年間、県民総参加で自治会等の地域団体、NPO、企業、専門家、学生をはじめ、阪神・淡路大震災を経験していない世代も含めて、「忘れない」を基本に、「伝える」「備える」「活かす」を基本コンセプトとし、共に復旧復興のための課題を整理して20年事業としていきます。

私どもは阪神・淡路大震災の経験と教訓を、東日本大震災の復旧復興に活かせないかと考えました。東日本大震災の翌々日の13日に関西広域連合が委員会を開き、カウンターパート方式で、兵庫県は宮城県、大阪府は岩手県、京都府は福島県を支援することを決めました。これの良い点は、継続的な支援ができること、責任ある支援を行うことができる点です。

私は震災発生の1週間後、ボランティアの先遣隊の一員として宮城県を訪ねました。阪神・淡路大震災とは様相が違うと感じました。阪神・淡路の場合は被害が帯状で、両側から攻められるという形でしたが、東日本の場合は全滅でした。復旧復興は阪神・淡路より難しくなると感じました。

まず宮城県庁内に現地連絡所を設置するとともに、石巻、南三陸、気仙沼に現地支援本部を設置しました。そうすることによって、直接情報を入手でき直接支援することができます。

兵庫県は生活復興、コミュニティ再生、まちづくり、物資調達、仮設住宅整備等の専門家のチームを派遣し、支援を継続してきました。これは各界から高い評価を受けました。

これらは初期段階の支援です。今後の課題は住宅支援と生活支援です。高齢者の心身のケアをどうしていくのかを考え、ボランティアや看護師等を派遣していきます。

 

再生可能エネルギー発電を

全県挙げて推進

―― 兵庫県は原発のない都道府県で初めて本格的な『原子力防災計画』の策定を行いました。安定した電力供給の確保や地球温暖化防止にどう取り組まれていますか。

井戸 兵庫県は製造業が7割を占めています。全国平均は4割ですからものづくりの県と言えます。2000年7月に策定した第2次の地球温暖化防止推進計画では、温室効果ガス排出量削減目標を1990年度比で6%削減としていましたところ、8%削減を達成しました。これは産業部門の協力が大きいです。

また、2014年3月に『第3次兵庫県地球温暖化防止推進計画』を策定し、2020年度末までに新たに再生可能エネルギーの100万kw導入を目標として、取組を進めることとしています。約7割が非住宅用太陽光発電、約3割が各家庭の太陽光発電を予定しており、木材チップなどのバイオマス発電や小水力発電、潮流発電などにも取り組んでまいります。

 

広東省に環境保護技術支援

―― 1960年代、日本の高度経済成長期に大量生産大量消費を追求するあまり、公害問題が日ましに深刻化していきました。現在、高度経済成長を続ける中国も、大気汚染、水質汚濁等の逼迫した環境問題に直面しています。兵庫県としてはどのような提言や対策をお持ちでしょうか。

井戸 兵庫県は中国の広東省、海南省と姉妹提携しています。一昨年は提携30周年で、中国の改革開放の先頭をずっと走ってきた広東省を訪問しました。30年前は本県の方がGDPが高かったのですが、今では広東省の方が本県の2.5倍になっています。最初の頃は、県内企業の中国進出をサポートしたり、環境汚染、水質汚濁の技術支援を行ってきました。

前任の汪洋省委書記も、今の胡春華書記も産業構造を変えようと努力しました。こうした動きに対して、我々ができる支援をやっていきます。環境技術支援については早くから大気や水の環境技術支援は行ってきましたが、現在さらに深刻になってきていますので、より密接な連携を図りたいと考えています。

 

中国の方々に兵庫の味を知ってもらいたい

―― これまで23名の都道府県知事を取材させていただきましたが、どなたも中国人観光客の誘致に取り組んでおられました。兵庫県ではどう取り組まれていますか。

井戸 兵庫県は日本の関西地区最大の県です。また、唯一日本海と瀬戸内海の両方に面しており、日本の縮図と言われ、中国の方々が関心を持つようなポイントもたくさんあります。温泉や、上海ガニよりおいしい松葉ガニ、世界ブランドの神戸ビーフもあります。

こうした兵庫県の魅力を中国の方にいかに知っていただくかです。私自身この10年間、広東省を訪問する度に現地の旅行社を訪問し、プロモーションを行ってきました。北京、上海、杭州なども同様です。

重要なのは口コミです。広州には交流会があります。これから訪日しようとしている人たちに訪日経験者が日本を紹介し、理解を深めてもらうのです。今後、こうした方々と連携を図ることが重要と考えています。さらに、ブログやフェイスブック、ツイッターの活用や、著名なブロガーを招いて発信していきます。

ただ兵庫県1県だけでは日本観光は完結しませんから、関空イン東京アウトとか東京イン関空アウト、更には岡山や鳥取なども含めた広域的な対応ができればなお素晴らしいと思います。

最近、日本の「和食」が世界無形文化遺産に選ばれました。中国とのお付き合いの中でPRしたいのが兵庫県産食材です。世界ブランドの神戸ビーフはもちろん、淡路島の玉ねぎをはじめとする兵庫野菜、こうのとり米に象徴される米、生産量全国一の日本酒などです。多くの中国の方々に高品質でおいしい、安心安全の兵庫県の食材を味わっていただきたいと思います。

 

兵庫県には中国人社会が

―― 知事は、これからの兵庫をつくる主役は県民一人ひとりで、「ふるさと意識」の確立が欠かせないと言われています。日本の47都道府県にはそれぞれ県民性があるそうですが、兵庫県の県民性について教えてください。

井戸 県内の神戸市には、およそ2万5千人の華僑社会があります。彼らは神戸を中心に生活圏を構築し、貿易や中華料理店の経営などで生計を立てています。そうした方々を受け入れる包容力、開放性が兵庫県民の県民性と言えます。歴史的にも世界に開かれた窓口でしたので世界市民的な意識をもっています。

さらには、東西交通の要衝の地でしたので世間の動きに敏感です。同時に積極的で進取の気性があります。大貿易商として世界に名を馳せた鈴木商店もそうです。そして、歴史・文化を大切にしています。

 

取材後記:インタビューを終えて、井戸敏三知事に記念の揮毫をお願いすると、しばし考えて「一意専心」と記した。文字は心を表すと言う。兵庫県の「地方長官」としての仕事への情熱と決意を見た思いがした。