阿部 守一 長野県知事に聞く
長寿日本一の長野県へようこそ!

多くの中国人は、2008年北京オリンピックの聖火が通過したことで長野県を知り、親しみを持っているだろう。長野県は2010年に就業率日本一に、また、同年、男女ともに平均寿命1位になっている。12年には日本でいちばんいい県都道府県別幸福度ランキングで総合1位に。長野県は、これらの成果をどのように達成したのだろうか。そんな疑問を抱いて6月14日、長野県庁を訪問した。県庁舎は節電のためエアコンどころか扇風機さえ使っていなかった。このように行政が範を示し県民も納得していることが、長野県が理想郷となれた理由の一つかもしれない。

 

  

中国の大学生の

インターンシップ受け入れ

―― 長野県は積極的に中国の各大学からの日本語専攻の学生を受け入れ、彼らに県内でのインターンシップの機会を提供しているそうですが、それはどうしてでしょうか。

阿部 長野県は内陸にあり、山に囲まれていますが、ずっと横浜港を通じて海外と貿易交流をしてきました。ですから、対外交流、特に中国との交流を重視しています。

現在、長野県関係の製造業企業から400余りの事業所が中国市場に進出しています。中国大陸で活躍する県関係事業所は331、香港には92あります。また長野県は中国から多くの農業研修生、投資家、観光客、留学生などを受け入れています。

長野県の対外友好事業の一環として、県庁と県内企業とが協力して、多くの中国の大学生に長野県での日本語の実習機会を提供できるようにしています。私個人としては、日中両国の友好関係を深めるためには両国の青少年交流を促進し、お互いに相手国の文化を理解することが重要だと考えています。

2012年8月から11月まで、日本全国で日本語を専攻する中国の大学生40名のインターンシップを受け入れましたが、そのうち15名は長野県が受け入れました。これは全国の地方自治体の中で最多でした。

私自身も元気いっぱいの中国の大学生たちと直接交流しました。大学生たちはみな、日本企業で実習ができ勉強になったと報告してくれました。中国の大学生を受け入れた企業でも口々に、彼らは進んで新しいものに触れ、受け入れ能力が高いと話していました。中国の大学生たちの積極性、一生懸命に努力する精神は企業側にも学ぶべきものがありました。2013年7月には3回目の中国大学生のインターンシップを行います。

今後はさらにこういった活動を展開できればと思っています。長野県はこれまでと同様に率先して全力でサポートしていきます。

 

民間の使者を中国に派遣

―― 長野県は日中民間交流を促進するため、県主導で中国に研修生を派遣し、中国語を学び中国文化を理解させているそうですね。現在、それらの人材はどのような成果をもたらしていますか。

阿部 長野県は1983年に中国河北省と友好提携を締結しました。84年から「明日を拓く信州青年連帯の船」を実施し、2001年までに派遣した青少年の総数は5950名にのぼります。こうした訪問活動は両国、両県の相互理解を促進し、友情を深めてきました。

また、2005年以来、長野県は毎年河北大学に研修生を1年間留学させています。彼らは中国で中国語を学ぶだけでなく、中国の社会、歴史、貿易など各分野についても学びます。今までに、長野県から29名の研修生を派遣しましたが、彼らは長野県のそれぞれの部門で活躍し、両国民の友好事業に貢献しています。

長年にわたり長野県と中国との関係は密接であり、今後も、中国各界の皆さまのご協力のもと、両国、両地域の友好交流を進めていきたいと思います。

 

「長寿日本一」として

中国人観光客を期待

―― 長野県は日本有数の観光県です。2010年には男女とも平均寿命日本一となりました。今日、多くの人々が健康長寿に関心を持っていますが、長野県民の長寿の秘訣を教えていただけますか。

阿部 長野県は野菜、果物が豊富で、観光資源にも恵まれています。特に2008年北京オリンピックの聖火リレー中継点となって以来、名前を慕って訪れてくださる中国人観光客が多くいらっしゃいます。

世界的にみると日本は寿命が長い国で、その中でも長野県は寿命が最も長いところです。県内の女性の平均寿命は87.18歳、男性は80.88歳、ともにそろって日本一です。

中国ではこれから、ますます健康長寿が注目されるのではと感じます。私は中国の人々に長野に来ていただいて、しばらくここでの生活を体験していただきたいと思います。

長野県は、水も空気も澄み渡り、レタス、リンゴ、ブドウなど多くの食材の生産地です。国民健康・栄養調査によると、日本で一人当たりの野菜摂取量が一番多いのが長野県です。中国では昔から「医食同源」を重んじていますから、ぜひ県産の野菜や果物を中国に輸出したいと思っています。

健康長寿といえば、運動を抜きには語れません。長野県の長寿日本一は決して偶然ではなく、長野県は日本でも高齢者の就業率が最も高いことも一因かもしれません。中国人観光客が当県で多くの高齢者が働いている姿を見て、老後の生活が厳しいのかと不思議に思ったそうです。実際は、生きがいのために働くことで健康長寿が実現するのです。

また、雪質や眺望の良い当県のスキー場で気持ちよく体を鍛え、各地域の個性あふれる温泉に入って心身ともに癒され、高原や渓谷をそぞろ歩いて美しい大自然に溶け込むことができれば、中国からの観光客もきっと自分に合った健康長寿法を見つけられるでしょう。

健康で安全な食事、運動や仕事の継続のほか、長野県民の長寿は医療従事者の努力と切っても切り離せません。例えば、佐久総合病院では農村医療活動を積極的に展開しています。また食生活改善推進運動も以前から行われており、現在県内で4700名余りのボランティアが活動しています。長野県民は積極的に主体的に食生活を改善しているのです。

もう1点強調したいのは、長野県は日本一の長寿県として高齢者の寿命が年々延びているだけでなく、乳幼児の死亡率も年々低下しているということです。長野県立こども病院がこの分野で非常に重要な役割を担っています。

長野県の生活環境は、高齢者の生活に役立つだけでなく、乳幼児の成長にも役立っています。子どもの健康と高齢者の長寿が一緒になって、はじめて本当の「長寿県」となるのです。

こんな「長寿県」ですから、中国の皆さまには絶対見に来ていただく価値があります。より多くの中国人観光客をお迎えするために、今年度から長野県は東京と長野を結ぶ周遊バスの運行を行っています。

 

真面目で勤勉、

信義を重んじる長野県民

―― 「土地が人を作る」と言います。日本の各県にはそれぞれ県民性がありますが、長野県の県民性について。

阿部 一口に言うと、真面目で勤勉です。長野県は「日本の屋根」と言われる中央高地にあり、冷涼で湿度が低い気候ですが、長野県民の不断の品種改良の結果、当地の環境に適した品質の良い農産物が生産されています。この点にも長野県民の真面目で勤勉な特徴がよく現れています。

昔、長野県は信州と呼ばれていました。それは、信義を重んじる人が住んでいるところ、という意味です。このことも長野県民の特徴だと言えます。

 

歴史の真実を後世に伝える

―― 2013年4月25日、長野県に「満蒙開拓平和記念館」が開館しました。これは日本で初めての「開拓団」をテーマにした記念館です。なぜこのような記念館を建てたのでしょうか。

阿部 第二次世界大戦で、長野県南部の多くの人々は中国北方と内モンゴルに派遣されました。これは悲惨な歴史です。長野県民は誰よりもこのような歴史が繰り返されないように願っています。歴史の失敗を繰り返さないために、平和な日本を守るために、「開拓団」経験者は自分たちの体験を次の世代の伝えたいと強く望んでいました。そこで、県も「満蒙開拓平和記念館」設立を支援しました。

日中両国の関係には悲惨な歴史もあります。私たちは未来に向かって、長期的な視点から、そういった歴史の真実を後世に伝えていく必要があります。「満蒙開拓平和記念館」はそのような信念から生まれたもので、「平和」がキーワードなのです。