福田富一 栃木県知事に聞く
「習近平主席は純真な心を持つ大人君子」

栃木県の公式ホームページには感動させられるページがある。それは中国の友好提携先である浙江省を多方面から紹介するものだ。同時に「浙江省友好交流員」を募集している。県が「友好交流員」を浙江大学に派遣し、中国語と中国文化の短期研修を経て、帰国後は県と浙江省との友好交流を促進してもらう仕組みである。ここまでできる地方自治体は少ないだろう。2013年4月26日、福田富一知事は「日中両国にはいくつかの課題はあるにせよ、それでも私たちは日中友好の先頭に立ち、草の根レベルの交流を続けることが必要だ」と語った。

 

中国と積極的にビジネス交流

―― 栃木県の県内企業はどのように中国で事業を展開していますか。

福田 2011年3月の東日本大震災発生後、栃木県は安全だったにもかかわらず、中国への食品輸出を禁止されました。そこで県は、2012年7月に企業3社と販売促進チームを組織し、中国でPR活動を行い、11月には10社の企業が上海で開催された国際食品見本市に出展しました。同時に、中国の輸入業者を栃木県に招待し、実地見学をしてもらいました。

私たちは中国の関係部門ができるだけ早く輸入を解禁し、栃木県の食品を受け入れてくれることを望んでいます。本年1月、県は食品商談会を開催しましたが、中国から5社の輸入業者が参加してくれまして、とてもうれしく思いました。現在、栃木県は今年9月に上海で開催されるものづくり商談会に参加し、中国の輸入業者に栃木県産品への理解を深めてもらい、本県で製造される工業製品等の安定的な輸出入を確保したいと計画中です。

 

栃木の魅力は「百聞は一見に如かず」

―― 栃木県には日本で最も歴史が古い総合大学である「足利学校」があり、世界遺産に登録された日光東照宮などもあります。中国からの観光客誘致について、どのような対策をとっていますか。

福田 栃木県には豊富な観光資源があり、「首都圏の緑のオアシス」と親しまれています。ただ、残念なことに東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故後、本県を訪れる観光客は激減しました。震災発生後、県はすぐに観光の安全PR活動を展開しました。海外の人たちや日本国内の中国人留学生を県内の有名な鬼怒川温泉などに招待したり、多方面から風評被害による損失の挽回を試みました。現在、外国人観光客をどのように県内に呼び込むかが課題となっています。

栃木県は中国の浙江省と友好交流関係を結んでおり、今年はちょうど友好提携締結20周年の記念の年です。私たちは相互に訪問団を送り合い、交流する予定です。

そう言えば、栃木県庁の国際課部には中国から招へいした国際交流員がいます。彼女が日本に研修に行くと決まった時、親戚や家族は皆、日本は危険だから行くなと反対したそうです。彼女は日本に留学している友人とメールで連絡をとり、行くべきかどうか、安全かどうかを聞いたところ、「大丈夫、安心して来日して」とみんなから返事が来たそうです。彼女が来日して数日後、宇都宮市で年に一度の夏祭り「ふるさと宮まつり」が開催され、2日間で約60万人の人出がありました。彼女は大勢の人がごった返し、非常ににぎやかな光景を見て、ようやく安心したようです。まさに「百聞は一見に如かず」ですね。

 

日中友好の先頭に立つ

―― 昨年末から今年にかけて、日中両国では新しいリーダーが誕生しました。安倍首相は就任時、習近平総書記とは同世代の政治家であると述べましたが、今後の日中両国の関係はどのような方向に向かうと思われますか。

福田 私個人の考えですが、日中両国の指導者にとって最も大切なことはコミュニケーションを図ることだと思います。もちろん現在の日中両国間にはさまざまな課題がありますが、両国の指導者は知恵を駆使して、解決の突破口を探し出し、共同で良好な友好関係を構築できると信じています。

本県のような地方自治体は、もっと中国の地方自治体と交流し、共に努力すべきだと思います。個人的には、隣同士のように付き合い、顔を合わせて話をすることが本当の草の根の交流だと思います。

今年はちょうど浙江省と友好関係を締結して20周年の記念の年ですから、お互いに本当の意味での交流を実現するために良い提案をしなければなりません。これは私たちの義務であり責任です。私たちは日中友好の先頭に立ち続け、草の根レベルでの友好交流を続けることが必要です。

 

習主席は純真な心を持つ大人君子

―― 以前中国訪問された際、習近平総書記と会談をされたことがあるそうですが、その時の印象はいかがでしたか。

福田 習主席は、大人君子という第一印象でした。孟子の言葉で、「大人(たいじん)は、その赤子(せきし)の心を失わざる者なり」(高徳の人は純粋な心をいつまでも失わない)とありますが、まさに習近平さんが「大人君子」である理由を形容している言葉です。また、国家主席に就任後、「三公消費」(公費による外遊、接待、公用車の購入・使用)を禁止する政策を打ち出したことを知り、すばらしい人物であることを再認識させられました。

習主席も、安倍首相も、あるいは私も、同じ世代に属する政治家ですから、お互いに相手を理解し、お互いの良いところをもっと学び合いたいと思います。私自身は習近平主席の仕事ぶりを手本としながら、県政においても、もっと良い仕事をしていきたいと思っています。

 

栃木県を「有名有力県」に

―― 日本の各地方はそれぞれに独自の魅力と特色を持っています。栃木県の県民性をご紹介いただけますか。

福田 栃木県民は、誠実で勤勉です。この性格は本県の自然環境と関係しています。気候が温暖で、平野が多く、栃木で育った人たちは大地と同じ温厚な性格を持っていて、同時に上に上がろうという精神には少し欠けています。

私は栃木県を「無名有力県」と呼んでいます。日本の47都道府県のなかでは確かに知名度は低いのですが、実力はあるのです。一人当たりの県民所得は全国第6位で、農業産出額も全国10位、製造品出荷額等も第14位となっています。全体的には、本県の農商工業は均衡のとれた発展を続けています。実力があるのですから、今後は知名度を上げさえすればいいのです。私は頑張って本県を「有名有力県」に変えたいと思っています。

 

中国には天下の美景が集積

―― 中国に行かれた中で、最も印象的なことは何でしょうか。

福田 これまで中国には十数回行きました。知事就任後の2005年に浙江省を友好訪問しました。そこで「天上に楽園があり、地上には蘇州と杭州がある」という言葉を知り、浙江省の美しい風景には本当に感動させられました。かつてマルコ・ポーロも『東方見聞録』のなかで蘇州と杭州を称賛しています。中国には、本当に天下の美景が集まっています。

また、浙江省は王羲之の故郷で『蘭亭序』の臨書石碑を拝見しました。私は小さいころから書道を学んでいるので、その石碑を見た時は感慨深かったですね。自分が小さいころ先生に教えられて王羲之の書を真似していた情景を思い出し、日中両国の歴史文化の源はたいへん深いことを痛切に感じました。