横内正明 山梨県知事を訪ねて
日中両国は膠着状態を打開できる

1月31日午後、地方自治体の「東京駐在事務所」である都道府県会館に山梨県の横内正明知事を訪ねた。横内知事の名刺には富士山のカラフルなデザインがあり、すぐに以前インタビューした静岡県の川勝平太知事の名刺にもカラーで富士山が印刷されていたことを思い出した。ところで、政治に関心のある人にとって、小泉内閣で法務副大臣を務めた横内正明という名前は見知ったものだろう。かつての政府高官は、現在では地方のトップである県知事となった。あるいは横内氏の父親が以前、山梨県議会議長を務めた縁かもしれない。

 

日中間の緊張した局面は一時的なもの

―― 昨年は日中国交正常化40周年でしたが、釣魚島(日本名、尖閣諸島)問題をめぐり、両国関係は緊張した局面に陥りました。昨年末、日中両国はまさにそのタイミングでリーダーが交代しました。新しい日中関係をいかに構築するかという課題は、ますます重視されています。日中関係をどのように見ていらっしゃいますか。

横内 2012年は日中国交正常化40周年の年でしたが、そのめでたい年に日中間にあのような事象が持ち上がり、両国の民間交流もそのせいでほとんどが中断し、山梨県の観光が大きな打撃を受けるとは誰が予測していたでしょうか。本当に残念なことだと思います。

日中両国は一衣帯水の隣国であり、経済と文化の領域でお互いに切っても切れない関係にあります。ですから、両国が心を一つにして協力して難題を解決し、関係を改善してほしいと思っています。現在、日中両国ともちょうど新しいリーダーに交代したので、私は両国のリーダーが大局観から出発し、アジアと世界の平和と繁栄のためにともに努力し、未来に向かって善隣友好関係を立て直してほしいと心から願っています。

私ども山梨県は1985年から四川省と友好省県の関係を結んでおり、過去28年間、山梨県と四川省は教育、医療、文化の各分野で広範な提携を展開しています。通年の提携交流を通して、山梨県の全県民の中国に対する理解度は向上しています。この交流の過程から見ると、地方交流、草の根交流が適切に発展しさえすれば、両国の友好発展のために、さらに強固で堅実な基礎が打ち立てられることが分かります。日中両国の政治上にどのような摩擦が生じたとしても、民間交流はそれに影響されるべきではないのです。

現在、金融界や外交部門を含めて、日中両国は水面下で多様な交流とコミュニケーションを行っているところだということです。ですから、両国間の緊張した局面は一時的なものに過ぎず、長くは続かないと信じています。必ずこの膠着状態を打破する方法があり、友好交流を回復できることでしょう。

 

中国人留学生の山梨県PRに感謝

―― 山梨県には富士山と富士五湖があり、日本を訪れる中国人観光客に大変人気が高いのですが、日中関係に問題が生じたせいで、山梨県の観光業は影響を受けました。では、今後、中国人観光客誘致について、山梨県はどのような具体的措置をとられるのでしょうか。

横内 グローバル化社会となった今日、日中両国に問題が生じれば、地方の交流も影響を受けます。統計によると、日本への外国人観光客のうち、中国人は全体の約20%を占めています。山梨県に宿泊する外国人観光客のうち、中国人の割合は45%以上に達しています。昨年9月以降、山梨県を訪れた中国人観光客は「激減」と形容できるでしょう。しかし、われわれ山梨県はやはり中国人観光客を最も重要で、最も重視すべきお客様と考えています。

私は2007年に山梨県知事に就任した後、ほぼ毎年、中国に観光PRに出かけています。だいたい北京、上海、広州、香港などの都市に参りますが、そのほか2011年と2012年の2年間には、山梨県はさらに3回、県庁職員と県内の観光業者による観光視察団を中国に派遣し、合肥、黄山、蕪湖、瀋陽、天津、ハルビン、成都、済南、北京などの都市を訪問し、PR活動を行いました。

そのような努力によって、ここ数年山梨県はますます多くの中国人観光客をお迎えできるようになりました。しかし、2011年の東日本大震災と2012年の日中間の摩擦により、中国人観光客は大幅に減少しました。われわれ山梨県にとって、今年は新しい挑戦の年となります。さまざまな努力を通じて多くの中国人観光客を取り戻す自信があります。

私はここで山梨県の中国人留学生の皆さんに感謝したいと思います。我が県の「富士の国 やまなし観光ネット」の中国語ページで、県内の中国人留学生がブログを通じて日常生活や当地の風景を描写し、山梨県の知名度を上げてくれており、中国の人たちにさらに山梨県への理解を深めてもらっています。

 

中国人留学生の知恵で対中貿易を発展させる

―― 日本では山梨県は「果物王国」と言われ、モモ、スモモ、ブドウなどの特産品は日本国内だけでなく、中国でもよく知られています。私も山梨県のワイナリーを取材したことがあります。今後、対中貿易の分野でどのような具体的な政策をお持ちですか。

横内 山梨県のモモ、スモモ、ブドウの生産量は日本一です。現在、山梨県は多方面の努力によって、さらに中国やその他の東南アジアの国々への販売ルートを開きたいと希望しています。

中華文化圏では、モモは特別な意味があり、幸福と長寿のシンボルとなっています。ですから、われわれは山梨のモモを中国に輸出できればと強く希望しています。山梨のモモの品質には絶対の自信があます。しかし、中国には「輸入果実検疫管理弁法」などの規定による制限があり、現時点ではリンゴとナシ以外の日本の果物は中国に輸出できません。2010年、山梨県のモモは一度研究のための特別の許可を得て、上海に輸出したことがあり、当地で大変高い評価をいただきました。

現在、山梨県のモモ、ブドウなどの果物は主に香港や台湾などを中心に輸出されていますが、私どもはずっと中国を最大かつ最重要な市場と見ており、農林水産省を通して対中輸出の実現に努力しています。近い将来、中国の皆さんに山梨県の素晴らしいモモを味わっていただきたいと思っています。

果物以外にも、山梨県には電子技術と電子機械などの先端技術産業が集中しています。調査データによると、山梨県の企業の2割は中国と貿易関係があります。中小企業の海外進出を応援するため、山梨県庁では2011年に「海外展開・成長分野推進室」を設立し、工業製品などの海外展開に有効な手段である海外展示会への出展支援としての補助を行っています。

この補助金を受けて、2012年に県内の7つの企業が江蘇省昆山市で開催された「中国国際輸入品博覧会」に参加しました。現在、県内の5企業が3月に昆山市で開かれる展示マッチング商談会に参加すべく忙しく準備を進めています。

また、中国市場を理解し、販路を開拓するため、2012年12月から県内の5大学の25人の中国人留学生を招いて企業セミナーに参加してもらい、彼らの意見と提案を聞くなど、情報交換を行っています。

 

故郷を愛する山梨県人は商売がうまい

―― 日本には県民性という言葉がありますが、これは各県ごとに独特の性格を持っているということですね。山梨県の県民性はいかがですか。

横内 山梨県は盆地にあり、四方を山に囲まれています。このような地理的環境と歴史的条件のもとで、特色ある地方文化と県民性が形成されました。山梨県人は非常に勤勉で、ねばり強く、チームワークがよく、ふるさとを愛する気持ちが強いのです。

日本では昔から「甲州商人の通った道にはペンペン草も生えない」という言葉があります。甲州とは山梨の古い呼び名ですが、この言葉の意味は、山梨県人は商売がうまく、計算が細かく、一心不乱に仕事をするということです。山梨県出身者はほかの土地に行っても成功します。そういったところは山梨の県民性の良い面ですね。

良くない面について言えば、山梨県人は一般的にやや内向的ということです。これは周りを山に囲まれた閉鎖的な地形と関係しています。山梨県人は初対面ではなかなか笑顔を見せず、相手に距離を感じさせ、良くない印象を与えがちだと言われています。

 

中国は世界をリードする大国

―― 知事はたびたび中国を訪問されていますが、中国の印象をお話いただけますか。

横内 知事に就任して以来、私は毎年少なくとも1回は中国を訪問しています。山梨県は中国との関係を非常に重視しています。実は知事になる前にも何回か中国を訪れていますが、中国の発展のスピードの速さには本当に驚くべきものがあります。現地の視察を通じて、中国は世界をリードする大国であると実感しています。

私は、中国人は友人を大切にし、意気に通じ、信頼できると感じています。山梨県の農作物輸出と観光業の推進のため、私は自身で中国の各大都市を訪問しましたが、視察の期間中、現地の友人たちに協力してもらい、PR活動を順調に、成功裏に行うことができました。彼らは本気で私を助けてくれ、全心全力で山梨県のために努力してくれました。非常に感謝しています。

今後、私は中国の友人たちとともに理解を促進し、信頼関係を深め、また国家全体が中国と理解を深めて、お互いに信頼し合えることを願っています。

 

取材後記

インタビュー終了後、横内知事は富士の国やまなし国文祭の可愛いマスコットと甲州ワイン2本をプレゼントしてくれた。日本には「涙は心の汗、酒は心の血」という言葉がある。横内知事は微笑みながら教えてくれた。「山梨県の甲州ワインは日本で初めて世界で公認され、英国ロンドンで販売されたワインのブランドです。これは山梨県人の心の血です。機会があればぜひ山梨県に来てください。ワインをご馳走しますよ!」。