小川洋 福岡県知事を訪ねて
日中は共同発展の道を探るべき

福岡は、かつて私が九州大学大学院で学ぶため、2年間暮らした懐かしい街だ。あれから20年、福岡は見違えるほどに発展した。5月21日午後1時半、「元気を西から」をモットーに、「県民幸福度日本一」の県づくりを目指す小川洋・福岡県知事は来賓室でインタビューに応じてくれた。

 

クルーズ客船で訪れる中国人客

「昨日、博多港でクルーズ船『コスタ・ビクトリア』の入港歓迎式典に出席しました。今回、約2100人の中国からの観光客がクルーズ客船でやってきました。まもなく、約3800人の中国からの観光客が乗ったクルーズ客船が博多港に入ってきます。今年、福岡を訪れる中国からの観光客は3·11東日本大震災の前を上回りますよ」と小川知事は興奮気味に話した。

小川知事がこう話すのには根拠がある。知事の説明によると、外国のクルーズ客船が2010年に福岡に入港したのは61隻、そのうち59隻が中国からだ。2011年に日本に入ったのは26隻と減少したが、21隻は中国からだ。

今年は記者の取材時点で、すでに79隻が博多港への入港を計画しており、その内47隻が中国からの船だという。今年3月、日本を訪れた中国人観光客は13万300人で、昨年の同時期より108.7%増えている。

 

「上海福岡留学生会」が設立

小川知事は2月8日、福岡県の友好提携先である中国の江蘇省(南京市)を知事就任後初めて訪問し、羅志軍(ら しぐん)共産党江蘇省委員会書記、李学勇(り がくゆう)省長らと会見した。

「今年は、福岡県が中国江蘇省と友好提携を結んでから20周年の記念すべき年で、特に環境の分野で今後協力し合うことを約束しました」と知事は語る。

さらに、「かつて福岡県内で学ばれ、現在は上海近郊で生活されている百数十名の中国人の方々が集まって、『上海福岡留学生会』が立ち上がった」ことを明かしてくれた。

その設立総会では、「第二の故郷とも言える福岡県と中国、九州と中国との交流のために役立ちたい」と皆が口をそろえたという。

また、福岡県では中国からの留学生をサポートするために、留学する段階から、福岡の大学紹介、生活、アルバイト、就職に至るまで相談に応じる「留学生サポートセンター」を、産学官が一体となって設けている。

 「大切なことは、さまざまな交流プログラムに参加された中国の方々を、ネットワーク化して、定期的に交流を深めていくことです」と知事は強調する。

そして、日中国交正常化40周年、江蘇省との友好締結20周年の佳節に際し、県としての具体的な事業計画を聞くと、知事は明快に答えてくれた。

「江蘇省から代表の方々をお招きし、記念式典を行う予定です。九州国立博物館で江蘇省書画精華展を開催します。また、関連事業として、福岡県民に江蘇省の観光地を紹介する観光展、貿易・投資セミナー、食文化と物産フェアなども計画しています。今回のイベントを通じて、福岡県と中国との関係をより強化していきたいと考えています」

 

福岡ABCがオープン

 福岡県はすでに上海と香港に事務所を開設している。そして、中国国内の主要9都市と航空路を結んでいる。また、福岡県内には中国総領事館を含め6つの関連機関が設置されており、交流する機会は多い。

そうした状況を踏まえ、小川知事は「今後、世界のGDP上位はアジアが占めていく。成長発展著しいアジアの活力を取り入れたい」と述べ、「中国は今、環境問題が深刻になってきています。福岡県はかつて環境、公害問題に直面し、それを解決した経験とノウハウを持っています。それを提供することで、中国の経済発展を側面から支援、貢献したいと考えています」と語る。

2012年5月現在、福岡県から中国に進出した企業は179社。中国から福岡県には39社が進出してきている。

「自動車や環境分野を始めとして、今後も人材交流を含め、中国との経済交流・産業交流を推進したい」とした上で知事は、「今年の1月に福岡アジアビジネスセンター(通称『福岡ABC』)をオープンさせました」と県の先進的な取り組みを紹介。

アジア展開できる企業の掘り起こしをはじめ、アジア展開を行う企業に対する情報提供から現地サポートなどがセンターの役割であり、さらには「ビジネスパートナーとなる中国企業の紹介など、県内中小企業のアジア展開をワンストップで応援するセンターです」と知事は説明した。

 

中国人観光客誘致の取組み

中国人観光客をいかに引きつけるかという話題になった時、小川知事の目がきらりと光った。

「観光地へ行ったとしても、印象が薄ければ、『リピーター』になることはない」としながら、「たとえば入国審査を乗船中に行えば、手続きに要する時間も短縮でき、滞在時間が増えますし、ショッピングでは地下商店街など、どこでも中国の銀聯カードが使えるようにすれば利便性が向上します」と、観光客が快適に旅を楽しめるよう、工夫をこらすことが重要だと訴える。

そして、太宰府天満宮などでは歴史を感じとり、日本の温泉文化を体験したり、九州ラーメン等山海の食材、日本の食文化を味わってほしい、と話す。

また、3·11東日本大震災後に、中国人観光客が心配している点について、知事は率直に語った。

「我々は中国人観光客の安全面に対して責任を持たねばなりません。九州地方知事会、九州観光推進機構、九州運輸局は共同して、九州は事故の起きた福島原子力発電所から1000キロ以上も離れ、大気や水の継続測定からも安全で、安心して旅行していただけます、と説明活動を行っています」

そして、「福岡県では県内に放射能測定所を7カ所設けて、放射線量を常に監視しています。私自身、昨年6月、九州各県の人たちと上海を訪問して、韓正上海市長初め、旅行者、各メディアの方々にお会いして、福岡県と九州をアピールしてきました」と述べた。

 

福岡の特性をアピール

小川知事は、海外に日本の安全を広めるには、日本人が国内で「独り言」のように言っているだけではだめで、外国の観光客自らに安全を体験してもらってこそ、その国の人々に安全だと伝えてもらえると考えている。

そこで、小川知事は、中国で影響力のあるメディアの記者やブログで発言力をもつ人を福岡や九州の旅行に何回も招待して、効果をあげている。

九州には福岡を含めて7つの県があり、福岡は九州の中枢都市として発展し続けており、「アジアのゲートウェイ」と位置づけられている。

位置づけられている。

「福岡県は東京からは900キロの距離であり、韓国の釜山からは200キロ、中国の上海からは900キロしか離れていません。この地理的な近さが、福岡県をアジア交流の窓口としてだけではなく、空港、港、鉄道、高速道路など交通ネットワークの『要』としているのです」と、知事は強調する。

そして、「昨年3月、九州新幹線が全線開通しました。九州南端の鹿児島中央駅から福岡県の博多駅まで、わずか1時間17分です。これから中国の観光客は新幹線を利用して、福岡から出発して九州を周遊できますよ」と嬉しそうに語った。

 

外国人患者の受け入れ

昨年12月に、「中国人観光客が福岡県で『医療観光』を体験」との報道があったことを話すと、通商産業省(現経済産業省)中小企業庁計画部振興課長の経験を持つ小川知事は、「日本の医療水準は海外で高い評価を得ており、福岡県にも大学病院などレべルの高い医療機関があります。中国人のためにもなる新しい医療環境を造りだしたいと思っています」と話した。

そして、次のように紹介してくれた。

「今年の1月16日、福岡県は『福岡アジア医療サポートセンター』を開設しました。その主な仕事は、外国人患者の相談を受け、病院の情報を提供し、診察の手続きを行い、診察日を決めて、治療のための来日ビザの手続き、通訳の手配、そして通訳の養成です。これまでに11名の中国語通訳を養成して、治療に関する相談を受けています」

 

日中は共同発展の道を

「福岡県は中国に近く、長い交流の歴史があります。現在、福岡県で生活している中国人は2万人を超え、約7000人の中国人留学生が県内の大学などで学んでいます。県内の留学生の数は、東京都、大阪府に次いで3番目です」と、小川知事は得意そうに語った。

また、「福岡県では、成長著しいアジアで今後ニーズが高まる『環境』を軸に、都市環境インフラをパッケージ化し、アジアの諸都市に提供するとともに、低燃費車、パワー半導体等省エネ・省資源の製品の開発提供などを推し進めることで、アジアの活力を取り込み、アジアとともに成長することを目指す『グリーンアジア国際戦略総合特区』構想を推進しています」と語った。

「中国には何回も行ったことがあります」と知事は続けた。「一番印象深かったのは2008年と2010年、北京オリンピック、上海万博が開催された時で、父が長年「福岡上海倶楽部」で、上海との交流を深めてきただけに、その時に受けた感動は、今も強く心に残っています」。

そして最後に凛として「日本は隣国と、共同発展の道を求めていくべきです。いろんな分野の、いろんなレベルでの交流がそれぞれの地域と地域の間、国と国との間の信頼関係を高め、良好な関係を深めていくと思っています」。