嘉田由紀子 滋賀県知事を訪ねて
滋賀県は中国の人材が協力してくれることを期待

日本で女性政治家は

まだまだ少ない

―― 日本で女性知事は滋賀県、山形県、北海道だけです。メディアも、日本女性の政治参加は欧米の国と比べ、まだ隔たりがあると指摘しています。女性政治家として、どう見ていますか。

嘉田 知事の仕事は最近変ってきています。以前は開発や建設などが主な仕事でしたが、今は環境保全、育児や高齢者などの社会問題が増えてきています。こうした仕事は女性に向いていると考えています。

また、政治に携わる女性が増えるのは、日本の国にとって良いことです。しかし、日本はまだ少ないです。しかも、地方行政であればあるほど、女性の参加が難しいです。これには二つの原因が考えられます。

一つには、政治は男性の社会だという考えがあり、女性が積極的にならない。もう一つには、有権者が女性政治家の能力を信用していない。これはどちらも意識の問題です。

日本は戦後60年以上たちましたが、こういう情況が変っていないのは残念に思います。北欧や米国の政治家はだいたい半数が女性です。日本もそうなってほしいですね。ですから、未来の政治家を育てようと、「未来政治塾」という場で、志のある若い女性を募集しています。

最近、大津市に若い女性市長が誕生しました。滋賀県は「女の国」になってしまうと皮肉る人もいますが、私はとても嬉しいことだと思っています。

 

湖の環境保護には

「北風」も「太陽」も必要

―― 滋賀県には日本最大の淡水湖である琵琶湖があり、水質保全の取り組みで多大な成果を収めています。かつて知事は、県として、中国の同様の機関・企業とも環境保護の経験を共有したいと言われていますが、水資源保護に関する先進的な経験について教えてください。

 嘉田 湖南省と滋賀県の友好関係が樹立した年に、1983年でしたが、琵琶湖研究所の研究員として中国へ行きました。実を言うと、初めて湖南省に行った時、工場排水がそのまま湖に流されているのを見て、本当に驚きました。

ですが、1990年代に入ってから、中国政府は環境保護を重視し始め、特に廃水問題については、政府の企業への指導は日本より徹底していましたね。水質改善では、特に住民への働きかけは、中国はまだ不充分ですね。この点、滋賀県は湖沼管理には成果をあげています。

30年前、琵琶湖は汚染によって「赤潮」が発生しました。地元の主婦は、湖汚染の原因である合成洗剤を使うのではなく、石けんを使って洗濯をする「石けん運動」を広げていきました。

その結果、リンなどの流入負荷が減少して、全国に水質保全への関心を引き起こしました。法令面では、滋賀県は「富栄養化防止条例」を制定しました。国では、「湖沼水質保全特別措置法(湖沼法)」なども制定され、滋賀県の水質保全の取組が全国にも広がりました。また、湖辺の生態系の保全という観点から、滋賀県では「ヨシ群落保全条例」を制定しました。これは世界で初めてです。

現在、滋賀県は「マザーレイク21計画(琵琶湖総合保全整備計画)」を進めています。この計画は主に二つの分野に分かれています。一つは、生態系の再生です。日本には多くの湖があり、昔から多くの生物が生息していました。これらの生物が養分を吸収することによって、湖が浄化されるのです。

琵琶湖は特に顕著で、もともと生息していた魚類や貝類など、在来の生態系の再生は湖の水質保全に大変有益です。これは多くの研究結果により証明されています。

もう一つは、人と湖の関わりの再生です。大人は湖で魚釣りをし、子どもたちは湖畔で遊び、家族で湖の風景を楽しむという情景は素晴らしいです。これも中国の山水に遊ぶ、特に水辺に遊ぶ文化に由来しています。

こうした人と湖の共生は、最終的に生態系を保護し、水質を改善することになるのです。

 環境保護問題は、(イソップ童話にちなんだ)「北風」路線か「太陽」路線かというように、一方だけを推進することはできません。

「北風」路線とは規制することです。それはそれで重要なことですが、半分の役割しかなさない。もう半分は「太陽」路線によって、湖の水質保全の宣伝活動を行うことです。みんなに利益があるから、みんなで参加しましょうよと。「北風」路線と「太陽」路線は同時進行すべきなのです。

 

環境観光推進

そして「食の観光」へ

―― 滋賀県は琵琶湖の自然景観保護を続けていますが、結果として、「環境観光」県として有名になりました。この環境と観光の関係は面白いですね。

嘉田 確か知事になって3年目だったと思います。中国へ行き観光誘客を行いました。当時、中国国家旅遊局の邵琪偉(しょう・きい)局長は、素晴らしい提案をしてくれました。琵琶湖は「環境観光」を推進してみたらどうですかと。

私は日本へ帰ってからすぐ実施に取り掛かりました。3・11東日本大地震発生後、滋賀県を訪れる外国人観光客も急速に減りましたが、今では中国の観光客が戻ってきています。これも「環境観光」プロジェクトのお陰で、邵局長に大変感謝しています。

滋賀県の琵琶湖は、子どもたちに環境教育をするには格好の場所ですし、環境ビジネスの考察にもよい所です。

現在、関西広域連合で協力し合って、中国の観光客の方たちには、まず大阪でショッピングをして、京都で寺院を巡り、それから琵琶湖で「環境観光」をしていただこうと、3点セットで企画しています。

滋賀県には、温泉もあり、雪景色もきれいです。地元のおいしい料理もありますから、「食の観光(フード・ツーリズム)」も発展させていきたいですね。

 

中国の優秀な人材

滋賀県の発展に大き貢献

―― 日中両国では、国交正常化40周年の様々な記念活動が予定されていますが、今後、友好を推進する上で、地方自治体として、どのようなことができるとお考えですか。

嘉田 滋賀県と湖南省は、来年で友好交流協定締結30周年を迎えます。環境視察団として私が初めて訪中したのが、まさに1983年でした。ですから、私個人としても、滋賀県にとっても、この30周年は深い意義があります。

この間、たくさんの人材が滋賀県で学びました。それは190人の湖南省から来た研修生たちです。

滋賀県での研修期間中、滞在費用は滋賀県が負担し、関連する研究所や企業で研修してもらうとともに、日本の生活に慣れていただくためのお世話などもさせていただいております。皆さん中国へ帰国されてから、様々な分野で活躍されています。

30周年を機に、この滋賀県で学ばれた方々と同窓会のようなネットワークを作ることができたらと思っているところです。そして、来年の友好交流協定締結30周年記念活動の際に、私は彼らと再会し、かつての思い出を語り合いたいと思っています。

今後、中国の皆様と協力しながら、滋賀県を良くしていきたいと考えています。