飯泉嘉門  徳島県知事を訪ねて
徳島県も日中友好に貢献したい

今年52歳になる飯泉嘉門知事は、かつて山梨県企画課長の時に、県民の「幸福度」が大切と考え、一人一人が幸福に暮らす「幸住県」構想を推進した。現在は徳島県知事として、県民の「幸福感」を県政の目標にしている。そして、その実現には中国などとの交流が必要だとも考えている。3月12日午後、徳島県庁で飯泉知事にインタビューした。

 

中国観光客の口コミは政府の宣伝より効果がある

 ―― 今年の1月、徳島県では中国湖南省行きの定期チャーター便が就航しました。今回の就航は、どのような経済的意義がありますか。

飯泉 2010年の上海国際博覧会の期間、徳島県は上海で「徳島ウィーク」を開催し、地元の観光地や関連産業などを紹介しました。その時に、徳島県代表団と湖南省代表団が会談し、これが友好協力の始まりとなりました。

定期チャーター便は、元々2011年3月22日に就航予定でしたが、「3•11」東日本大震災によって延期せざるを得ませんでした。

同年8月に徳島県中国戦略大使の日野正平さんの尽力で、湖南省初の省政府代表団が湖南衛星テレビの特別番組撮影班を連れて、徳島を初訪問されました。そして、10月24日、湖南省長沙で友好姉妹都市提携が結ばれ、今年の1月23日、双方の努力の結果、徳島県と湖南省の定期直行チャーター便が開通したのです。

経済的意義から言えば、定期チャーター便の開通によって、毎年少なくても1万人位の中国観光客が観光と買い物に徳島を訪れるだろうと予測しています。県には地方色豊かな阿波踊りだけでなく、伝統的な藍染めなどがあります。

徳島県を窓口にして、日本を見て知っていただき、中国へ帰られてから、その観光体験を語って日本を宣伝してくれることを期待しています。中国人観光客の口コミは、政府の宣伝より効果があると思います。

 

「自殺ゼロ」が目標

―― 高い自殺率は日本の大きな社会問題の一つです。最近公表された警察庁の統計によると、徳島県の昨年の自殺者数は150人で、全国で最も少ない県となりましたが、どのように取り組まれているのですか。

飯泉 自殺は個人にとっても家族にとっても、大変不幸なことですし、社会的にも損失です。県では「徳島県自殺者ゼロ作戦」を打ち出しています。

先ず、自殺者の理由を詳細に調べ、その原因をできる限り取り除こうとしています。そして、自殺を予防するための相談窓口をたくさん設けています。さらに、民間ボランティンア団体で組織する「徳島県自殺予防協会」があり、「いのちの電話」による電話相談で、24時間受け付けています。

私自身、駅前などで普及・啓発活動を行い、命の大切さを呼びかけています。また県では、医師会の協力の下、企業の管理者などに自殺防止訓練を行い、早期発見、早期相談で、自殺をゼロにする努力をしています。

 

住民の幸福指数を高める

―― 知事は、県民とともに努力し、「夢と希望」を持ち「幸福を実感できる社会」の実現に挑戦すると言われていますが、なぜ、県民の幸福を政策の第1番目に置かれたのか。また、県民の幸福感とGDPの関係については、どう考えていますか。

飯泉 日本は高度経済成長を経験し、金銭を重視するようになってしまいました。20世紀はいわゆる「物」の世紀でしたが、21世紀は「心」の世紀にしなければなりません。そのためには「幸福感」が大事です。幸福感を共有するために3段階あります。

先ず、自分自身が年齢に応じて幸福感を増していく「幸齢社会」の実現です。

次に、自分が幸せだと感じられた時、周囲の人をも幸福にしたいと考える。それが幸福の貢献、「幸献社会」です。

最後に、県全体の幸福感が増してくると、県外からの来訪者や外国人観光客にも伝わっていく。これが幸福の交流、「幸流社会」です。

この3段階において、阿波踊り、阿波藍染め、阿波人形浄瑠璃など徳島の文化が大きな役割を果たします。こうした文化を伝承していくために、県では2007年度に国民文化祭を行い、今年秋に再び開催する予定です。

官民一体となって国民文化祭を開くことにより、徳島県民に自分たちの文化を再認識してもらえる。自分への理解が深まれば、幸福度も自然と増して、自殺など不幸なことも減っていくでしょう。

 

華人が日中交流に重要な役割

―― 徳島県では日本籍の華人、日野正平氏が「徳島県中国戦略大使」に任命され、徳島県と湖南省の交流などで大変活躍されています。知事は、在日華人が日中交流において果たす役割をどう考えていますか。

飯泉 県として慎重に熟慮した結果、日本籍の華人である日野正平さんを初の「徳島県中国戦略大使」に抜擢しました。県としては、中国だけを、また日本だけを理解していても、日中間の交流は順調に進まないと考えています。

しかし、双方を理解し、気持ちを読め、説明できるような人材であれば、日中間の交流をうまく推し進めていくことができるでしょう。双方の社会や文化を理解して通訳できる人材が必要なのです。

その意味で、日野さんは中国外交部に勤務したこともあり、日本政府の厚生大臣秘書も勤め、また現在は、三菱商事のビジネスマンでもあり、まさに我々が必要としていた人材でした。そこで、徳島と中国の様々な交流をさらに具体的に進めていくために、初の「徳島県中国戦略大使」として起用したのです。

 

多方面にわたる交流で日中友好を促進

―― 今年は日中国交正常化40周年です。両国政府では多くの記念イベントが開催されますが、徳島県ではどういう計画がありますか。

飯泉 実際、徳島県と湖南省の定期チャーター便の就航も、日中国交正常化40周年の重要な活動の一つと言えます。この他、4月22日に開催される第5回徳島マラソン大会に、湖南省からマラソン選手を招いています。

また、9月に国民文化祭を開催しますが、その際に湖南省の民族舞踊団が徳島県の招きに応じて上演してくれることになっています。県でも「阿波踊り」連が湖南省で上演し、「徳島ウィークin湖南」を開催することになっています。

こうした活動を通して、徳島県と湖南省が経済、文化、体育、そして医療などの面で協力関係を築き、友好的な交流を互いに推進していくことを心から願っています。日中国交正常化40周年にあたって、徳島県も日中友好のために少しでもお役に立ちたいと思っています。