上田清司 埼玉県知事を訪ねて
埼玉県は環境整備の経験を中国と分かち合うことを希望

「疾風に勁草を知る」これは上田清司埼玉県知事の座右の銘である。

1980年、衆議員選挙に出馬し、何度も挑んだが4回落選した。10数年間の浪人暮らしの中で、彼は中国の春秋戦国時代、異郷を流浪すること19年、最後は国へ戻り位を継いだ晋の文公重耳を模範に奮起し、1993年、ついに5回目で衆議員議員に初当選を果たした。そして、2003年に埼玉県知事に就任するや、すばらしい成果を出し、2011年には3選を果たした。埼玉県は上田清司知事の指揮のもと、美しい山河に恵まれ、女性が活躍し、海外に進出する新時代に入っている。2月22日午前、埼玉県庁知事室で、上田清司知事にインタビューを行った。

 

森林河川を再整備し、「失われた緑地を取り戻す」

―― 埼玉県は、日本の中でも田園の魅力と都市の特色を兼ね備えた県です。埼玉県の環境政策については、日本国内はもとより中国でも注目されています。「みどりと川の再生」計画について。

 上田 地図を御覧になればお分かりでしょう。埼玉県には2本の大河が流れています。1本は山梨県、長野県との県境を源流とする荒川で、もう1本は群馬県を源流とし、流量と面積において日本最大の河川である利根川です。埼玉県は河川流域面積が日本一大きい県なのです。

しかし、最近30年間で埼玉県は6500ヘクタールの緑地を失っています。このため私は第2期目の公約で、8年かけて30年の損失を取り戻し、森林と河川を再生しなければならないと考えました。すでに4年が経過しましたが、再生計画は目覚ましい成果を上げ、30年間で失った緑地の半分を回復させました。

埼玉県の川の再生計画は、県内の汚泥河川を清流に変え、どこの川でもアユの塩焼きが食べれるようにすることです。まず河底の沈殿物を除去し、炭素繊維と微生物などの天然物質を投入して川の流れを浄化しました。この4年間で埼玉県には水質環境が改善された河川は100本あり、今後、県内すべての河川に実施していく予定です。

当然のことですが、みどりと川の再生計画は埼玉県民の支持と協力なしには達成できません。河流の浄化費用は県が負担しますが、その後の維持と管理は周辺住民が負担することになります。県内にある大学は森林整備活動に積極的に協力していますし、大企業は森林を買い取って緑化をサポートしています。埼玉県ではこうした森林面積がすでに300ヘクタール以上に達しています。

さらに、県民による植樹計画を展開しています。県民は木を1本植えるごとに県の専門サイトに登録できます。この2、3年で約300万名の県民がネット上に登録しました。埼玉県民は700万人いますから、1人が1本植えれば、樹木は700万本に増えるのです。

埼玉県は森林の保全・活用などのため、みどりの基金に約14億円積立てています。これは日本の都道府県で最高額です。国内にはこうした事業のために「グリーン環境税」とか「森林環境税」などを創設している県もありますが、埼玉県は県民に負担をかけないように、環境整備費用はすべて自動車税で賄っています。県内では自動車排気量が増えれば、県が徴収する自動車税も増えるのです。車の排気ガスは空気を汚染させますが、森林は空気を浄化します。このことをうまく使って、「自動車で森林を養う」という対策をとっています。埼玉県は中国山西省と友好県を結んでいます。私も山西省の植樹活動に参加して5株植えました。森林再整備問題の経験を、山西省とともに分かち合えるかも知れませんね。

 

女性の活躍がアップすれば経済発展に貢献

―― 一般的に日本女性は、社会的地位や社会での活躍度が比較的低いと考えられていますが、埼玉県版「ウーマノミクス」について。

上田 まず最初に確認しておきたいのは、日本の女性は家庭内における地位が極めて高いということです。家庭の地位を男性と女性で比べてみると、例えて言えば、相撲における横綱と小結の差のようなものです。しかし、日本の女性は伝統的な観念の影響で、一旦結婚して妊娠すると、会社に迷惑をかけるのではないかと考え、自主的に退職してしまいます。そうすることが美徳だと考える風潮があります。

それから、現代の多くの若い女性たちは、卒業後故郷の親元を離れて、東京や埼玉など大都市へ出て、そこで就職し、恋愛し、結婚します。一旦妊娠すると、身近に子供の面倒を見てくれる年寄りがいないので、何でも自分でやらなければなりません。だからほとんどの女性が妊娠によって家庭の主婦に変わらざるを得ないのです。これは女性が子供の世話をしながら仕事もするという、農村型社会と異なります。このことが社会労働力の大量流失を減らし、社会構造を変化させるのです。

問題は日本がまさに少子高齢化時代に入っていることです。労働力が減り、納税人口も減少し、これによって国家収入も減少します。一方、被扶養者はますます増大し、社会的な援助を受ける人がますます増大し、収入が支出に追いつかなくなっています。

労働力の流失を挽回するには、一般的には2つの選択があります。1つは高齢者に再就職の機会を与えること、もう1つは家庭の主婦に再就職の機会を与えることです。私はたくさんの高齢者を再就職させるのは、よい選択とは思いません。現在、若者の就業機会は少なくなっており、これ以上高齢者と若者に就業争いをさせることはできません。そこで家庭の主婦に就業機会を与える方が、よほどよいと思います。

家庭の主婦が再就職するには、まず子供の世話を誰がするかが問題になります。子供を保育園に預ければいいではないか――。私はそうは思いません。子供は決まった時間に入れて取りだせばよい、そんな物ではありません。母親は子供とゆっくり向き合う時間が必要です。ですから母親に就業機会を与えるには、彼女たちの育児時間を保障しなければなりません。この点に関して、県は大小さまざまな企業に対し、家庭に子供を抱えて働く女性の勤務時間を、適宜短縮するよう呼びかけています。たとえば子供が幼稚園に通っている場合は、母親の勤務時間は4時間を超えてはならない、子供が小学校に通っている場合は、母親の勤務時間は6時間を超えてはならない、などです。

同時に県は、企業ができるだけ自前の保育所を設けるよう、多面的に支援しています。そうすれば働く女性が妊娠により退職する必要がなくなり、安心して仕事をしながら子供の面倒をみることができ、女性の人材流失を減らすことができます。当然ながら小さな企業は自ら保育所を開設することは難しいので、まず県庁でそれをやろうと。近隣にある2,3の中小企業に共同で保育所を作るようサポートしています。これが今、私が進めている労働力、消費や投資の担い手として女性がこれからの経済をけん引するという考え方、つまりウーマン(女性)とエコノミクス(経済)を組み合わせた「ウーマノミクス」です。女性の社会的進出を後押しすることにより、地域経済の発展を加速させるというものです。

 

埼玉県は中国への進出を加速

―― 今年は中日国交正常化40周年です。現在、中国は経済が発展していますから、埼玉県にも数多くのビジネスチャンスがあると思います。何か具体的な計画をお持ちですか。

上田 埼玉県は「国際ビジネスサポートセンター」を設立しています。これは主に海外進出する県内の各大企業、および埼玉県内に投資する海外企業を支援する機関です。しかし、県内でサポートするだけでは不十分だと考え、昨年、上海に「上海ビジネスサポートセンター」を設立しました。これは埼玉県が中国へ進出しようとする日本企業と埼玉県内の企業のために投資指導を行い、彼らと地元の中国企業とが情報交流するために作ったのです。

県ではまた国際化の人材を養成するために、2011年の県財政予算の中から10億円を出してグローバル人材育成基金を設立し、高校生や大学生に国外留学の機会を提供しています。現在、埼玉県はすでに約260名の留学生を派遣しています。国際化の人材養成、資金投入に関して埼玉県は、47都道府県の中で最も元手を惜しまない県だと自負しています。日本政府のこの方面の予算はたった20億円ですよ。

 

私が一番好きな中国の歴史人物

―― 中国の何に最も深い印象をお持ちですか。

上田 作家の宮城谷昌光の小説に『重耳』がありますが、これは春秋戦国時代の晋の文公重耳の物語です。重耳は後継争いで暗殺を逃れるため諸国へ逃亡し、合計19年も流浪しましたが、最終的には春秋五覇の一人になります。私がなぜこの本のことを話すのかというと、私は衆議員議員になる前に10年間「浪人」していたからです。似た体験を経て心境的に重耳が最も好きな歴史上の人物となったのです。私は司馬遷の『史記』を読むのが大好きですが、史記の中に登場する歴史人物の中で、もちろん一番好きな人物は重耳であることに変わりません。中国の山西省と埼玉県は友好県で、山西省はまた春秋戦国時代の晋国のあったところです。自分は中国、中でも山西省と深いご縁があるなあ、としみじみ感じています。