伊佐 進一 衆議院議員
世界の平和と安定に責任を持つ日中関係を構築すべき

 

公明党の伊佐進一衆議院議員は、東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業後、科学技術庁(現・文部科学省)に入庁し、宇宙開発政策に携わる。その後、政府派遣で米国の大学院に留学し、米国の外交政策や中国経済について研究。2007年から3年間、在中国大使館一等書記官として中日外交に携わった経験を持つ。2021年冬、元財務大臣政務官の伊佐進一衆議院議員に、アフターコロナにおける中日の経済協力、今後の中日関係の在り方などについて伺った。(聞き手は本誌副編集長 原田繁)

 

日中友好路線を貫く

―― 公明党は結党以来、対中国路線を変えずに来た唯一の政党ですが、それはどのような理由からですか。

伊佐 公明党は1964年の結党以来、日中友好を推進してきました。党創立者である創価学会の池田名誉会長は結党に当たり、ただ一つだけ強調されました。それは、中国を正式に承認し、国交回復に真剣に努めてもらいたい、ということでした。

1972年に「日中共同声明」が調印され、日中国交正常化が実現する過程の中で、公明党は重要な役割を果たしたと自負しています。日中友好の歩みは、その後も先輩から後輩へと受け継がれ、公明党の伝統となっています。私自身も日中関係の平和的発展こそ、両国の核心的利益であるとの信念で、これまで友好交流を推進してきました。

われわれの路線は中道、そして平和です。中道というのはイデオロギーの中道という意味ではなく、政策の判断基準において、生命、人間に主軸を置くという意味です。政治体制が違っても同じ人間なので、しっかり対話をしていくことが大事だと思っています。そして、だからこそ人権問題についてもより敏感です。国際社会からの懸念に対して、中国がしっかりと説明責任を果たしてくれることを期待しています。

 

中国の実情を知りたい

―― 2007年、在中国大使館一等書記官に就任されています。中国ではどのような仕事をされたのですか。

伊佐 一つは科学技術関連です。中国の科学技術が今後どう伸びていくのか、日中間でどういう協力ができるのかというような議論を、現場視察を踏まえてやっていました。

それからODAにも取り組みました。「草の根無償」とか、日本のODAで農村部に病院や学校をつくるというような仕事をしました。

中国大陸は広大であり、都市部だけ理解しても、中国の全体像をつかめないと考え、できるだけ農村部の方々と触れあう機会をたくさん持ち、中国の実情を知りたいと思いました。

赴任したのは北京だったのですが、休暇で少しでも時間が取れれば、バックパッカーとして地方を回りました。貧乏旅行でしたが(笑)、列車やバスを乗り継ぎ、チベットと四川省の境界まで行ったこともあります。

実は大使館に勤める以前、米国留学中に夏休みを利用して中国を3カ月ぐらい旅行したことがあります。米国の大学院では彼らが中国をどう見ているのかを理解するためチャイナスタディを専攻したのですが、自分の眼で実際の中国を見てみたいという思いにかられ、日本のガイドブックにも載っていない田舎街をずっと一人で回りました。

 

科学技術分野で日中は協力すべき

―― 中国は今、科学技術の振興に最も力を入れています。日本と中国の科学技術発展の現状をどのように見ていますか。今後、科学技術の分野で中日はどのような協力ができるでしょうか。

伊佐 私が北京に赴任したのは2007年から2010年ですが、当時から、中国の科学技術力は今後どう発展していくのかが最大の関心事でした。

その頃、「中国なんか大したことない」「中国はこれから脅威になる」など、いろんな見方がありました。私自身、実際のところどうなのかを知りたいと思い、多くの研究機関や企業を積極的に訪問し、ヒアリングを行いました。

その結果、中国は日本に並び、そして日本を抜いていくかもしれない、だからこそ今のうちに両国がウインウインになるような協力関係をつくっておくことが重要だとの結論に達し、それを本にまとめて書いたところ、ベストセラーになりました。

あれから十年が経ち、自動運転やAIなど様々な分野では、完全に中国が日本よりも先行していて、今や米中二強と言われる時代になりました。

今回の岸田総理の所信表明演説において、成長戦略の一番目に「科学技術」を掲げました。中国はイノベーション国家として科学技術を重視し発展してきました。現在では、両国とも科学技術を重視する素地があります。

日本は、ライフサイエンスとか、医療・介護の分野などでは、世界の中でも圧倒的な強さがあると思います。国民皆保険制度で、国民全体の医療ビッグデータを持っていますし、介護保険制度では、介護現場のノウハウを世界中から学びに来ており、創薬においても日本の非常に高度な技術が海外から高く評価されています。こういう分野で、日中は協力していけるのではないでしょうか。

また、グリーンとか環境分野、そしてAI、あるいは自動運転技術や宇宙開発など、いろいろ課題はありますが、お互いそれぞれの得意分野を活かし、協力できることは多いと思います。

 

青少年交流が最も大事

―― これまで中国の高校生訪日研修団の国会見学や彼らとの交流会など、積極的に取り組まれていますが、日本と中国の青少年交流の重要性についてどのようにお考えですか。

伊佐 今こそ青少年交流が一番大事だと思っています。外国との関係においては政治や外交面でいろいろな問題が起きます。そうした場合、対話ができる関係を築いていることがとても大事です。顔が見える関係というのは相互理解の観点からも人間関係の基礎だと思います。それは同時に、国家間の友好の基礎を築くことにもつながります。

たとえば日中間で何か問題が起こったとしても、中国の友人の顔が浮かぶ、日本の友人の顔が浮かぶという関係が大事だと思いっています。お互いに直接知らないと、どんどんバイアスのかかった情報に双方とも流されていくからです。

青少年時代に経験したことが、その後の人生に大きく影響しますし、海外の人たちと交流する中で、とりわけ日中関係は両国にとって非常に大きな意味を持つ二国間関係である以上、日中間の青少年交流は本当に大事だと考えています。

 

新しい分野の拡大で日中経済協力を

―― 現在はコロナ禍の影響で世界経済が大きな打撃を受けています。財務大臣政務官を経験された立場から、アフターコロナにおける中日経済の展望について、お聞かせください。

伊佐 本年2022年の元日にRCEPが発効しました。RCEPは世界最大規模の経済連携です。米中、日中そして日米間でもいろんな問題がありますが、その中で経済安全保障が今、大きな議論になっています。

確かに日本の技術を育て、守り、いかに不必要な流出を防ぐかという議論も大事なのですが、自由貿易というのが経済の基本原則だと思います。その上で、自由な経済活動と経済安全保障のバランスをいかに取っていくか、これが今後の大きなテーマになると思っています。

私は党内で経済安全保障対策本部の事務局長を務めていますが、例えば米中関係を見ても、あれだけけんかしているように見えて、貿易総額はこの間もずっと伸びています。中国も米国もそれぞれ戦うところは戦い、連携するところは連携し、戦略的にやっているわけです。そういう戦略的なやり方を、日本もきちんと選択していかなければいけません。

日本と中国はお互いがウインウインになると同時に、周辺諸国に対してもプラスになるように、どういう協力を経済関係で戦略的につくっていくかが大事な節目になっていくと思います。

最近面白いなと思ったのは、世界中でEC(eコマース:電子商取引)がどんどん伸びていることです。コロナ禍になった2020年、世界でECが40%も伸びました。

日本と中国の経済関係でいえば、インバウンドが途絶えている中、実は越境ECがカバーしているのです。世界全体のECのうち、3分の2が中国なんですが、その中国の越境ECの相手は、最大の貿易相手国である米国ではなく、日本が1位なんです。

中国からのインバウンド減で消費が1.8兆円落ちたのですが、越境ECで1.7兆円増えており、全く同じぐらい稼げているんです。こういう新しい分野での協力は、コロナ禍だからこそできるのであって、このような協力分野を拡大していくべきだと考えています。

 

世界の平和と安定に責任を持つ両国関係を構築

―― 日中関係は良い時もあれば悪い時もあります。来年2022年は中日国交正常化50周年ですが、両国の関係はどうあるべきだとお考えですか。

伊佐 いろんな課題はありますが、決して対話や交流が断たれるようなことがあってはいけません。

50年前の世界の中の日本、世界の中の中国と、50年経った今の日本、そして中国の立ち位置は全然違うわけですので、日中関係も時代に応じて発展させていく必要があります。

お互いがウインウインな関係をつくるだけではなく、世界の平和と安定に責任を持つ国として、しっかり貢献できる日中関係の構築に向けて、飛躍していかなければいけないと思います。