古川 禎久 元財務副大臣、自民党衆議院議員
「アジア共生国家」構想で東アジアの平和と安定を

2021年1月、世界経済フォーラム(WEF)は、コロナ禍が米中の対立を先鋭化させており、将来的に国際関係が不安定さを増す恐れがあるとする年次報告書を公表した。元財務副大臣の古川禎久衆議院議員は、「日本は米国とも中国とも敵対せず、近隣諸国と連携しながら生きていく。目標は東アジアの平和と安定」という「アジア共生国家」構想を提唱している。そこで、アフターコロナ時代の中国、日本、米国関係はどう変わるのか。そして日本はアジア、国際社会とどう向き合っていくのかについてインタビューした。

 

平和と安定が最も大事

—— 平和国家を掲げる日本は、国際社会にその存在意義を示すべきだと思います。日本とはどのような国家だと分析されていますか。

古川 日本は、わずか150年あまりの間に、まったく異なる二つの生き方を経験した珍しい国です。ひとつは明治以降、軍事力をもって海外に展開し、ついに孤立し、破滅した戦前の歴史。もうひとつは、覇権主義と決別して平和国家をめざし、国際法や国際協調を重んじ、経済的繁栄を手にした戦後の歴史です。正反対ともいえる二つの歴史を通じて、日本が身をもって学んだことはいったい何だったか。それは「平和と安定の尊さ」であり、「覇権主義ではうまくいかない」という教訓でした。

ですから私は、非軍事外交を貫き、世界の平和と安定のために積極的な役割を果たすことこそ、平和国家・日本の使命だと思っています。

 

日米で協力して国際的な課題に取り組むべき

—— 日本は日米同盟のもとで、米国追従路線を歩んでいるとの見方があります。トランプ政権からバイデン政権に替わり、日本の外交姿勢はどう変わるのか。新たな時代の日米関係の構築についてどのようにお考えですか。

古川 敗戦から七年にもわたって米国の占領下におかれた日本が、いまなお対米従属的であることは否定できません。しかし私は、これが健全な姿だとは思っていません。これから日本は、ゆるやかに自立性を取り戻していくでしょう。それが歴史の流れだと思っています。

一方で、日米関係がこれからも重要な二国間関係であることに変わりはありません。世界はダイナミックに動いていますから、私はむしろ、これからの時代にふさわしい、より成熟した日米関係に発展させるべきだと思っています。

たとえば、人類の生存を脅かす気候変動問題ですが、バイデン大統領が誕生してからの米国は、パリ協定に復帰し気候変動サミットを主導するなど積極姿勢に転じました。これは大いに歓迎すべきことで、日本もまたともに行動するのは当然のことだと思っています。このように日米は、環境、エネルギー、平和構築など地球規模の諸課題にともに貢献する。これが新たな日米関係の基調でなければならないと思っています。

 

平和五原則を堅持し日中関係を深めていく

—— 中国と日本は一衣帯水の隣国で、あらゆる分野で長い交流の歴史があります。両国の間にはさまざま課題もありますが、どのように良好な関係を築いていくべきだとお考えですか。また、どのような分野で協力ができると思いますか。

古川 日本と中国の間には、2000年近くの古くて長い歴史があります。もちろん、良いときも悪いときもあったわけですが、この知見を活かして、これからの2000年につなげることが大事です。

その意味から、日中間でまず「平和五原則」を再確認することが大事だと思います。1972年の日中国交回復時の『日中共同声明』、1978年の『日中平和友好条約』、1998年の『日中共同宣言』、そして2008年の『日中共同声明』と、日中間に四つの政治文書がありますが、これらに通底するのが「平和五原則」、すなわち「主権及び領土保全の相互尊重」「相互不可侵」「内政に関する相互不干渉」「平等及び互恵」「平和共存」の精神です。つまり、戦後日中関係の基礎は「平和五原則」にあるのですから、「平和五原則」を堅持することが、両国の基本姿勢でなければなりません。

そこさえしっかりしていれば、さまざまな分野で協力ができます。たとえば、東アジアの平和構築です。すでに日中は、地域の平和と発展に「責任を負う」と自ら明言していますから、その趣旨にそって、紛争回避の多国間協議会合を日中で主導してはどうでしょうか。言葉を行動に移す、良いタイミングだと思います。

もうひとつ、尖閣諸島(中国名:釣魚島)周辺での突発的な衝突を念頭に、ホットライン開設をはじめ「海空連絡メカニズム」の具体化を急ぐべきです。これは急務です。

それから、何といっても、いま欧米で起きているアジア系に対する差別や暴力。これは、かつての黄禍論(黄色人種脅威論)を思いおこさせる忌まわしい出来事ですが、アジアの民である私たちはここで黙っていてはなりません。

 

きちんと言い合える関係を築くことが重要

—— 世界経済がコロナ禍に見舞われる中、中国は昨年、主要国の中では唯一のプラス成長を実現しました。脱中国化など課題はありますが、アフターコロナ時代の日中経済をどのように展望しますか。

古川 アフターコロナ時代も「平等互恵」「平和共存」が基本であることに変わりはありませんが、ただ、日中がお互い言うべきことをきちんと言い合える、そんな関係を築いておくことは極めて大事だと思います。

たとえば、中国の覇権主義的な行動に対して、日本は「覇権主義ではうまくいきませんよ」と正面から言わなければなりません。覇権主義で大失敗した日本だからこそ、中国が同じ轍を踏まないためにも、大誠意をもって言わなければならないのです。しかし、きっと中国は反発して言うでしょう。「日本にそんなことを言う資格があるのか」と。それでも日本は自らの非は非と認め、その反省に立って言うべきことを言うのです。中国もその言葉には耳を傾けるべきでしょう。こうして、お互い言い合える関係を築いてこそ、日中関係はよりよいものになります。日中経済の発展もその延長上にあるのではないでしょうか。

脱中国化とか、中国抜きサプライチェーンといった話があります。いったい、なぜ諸国が中国に警戒心を持つのか、その理由を中国はよく考えた方がいいと思います。と同時に日本は、言うべきことを親身になって言うことが大事です。

東西文明の調和が、新たな時代をつくる

—— 新しい外交、安全保障の考え方として、「アジア共生国家」構想を提唱されていますが、日本は今後どうあるべきだとお考えですか。

古川 二大スーパーパワーの米中がケンカをすれば、近隣諸国はとばっちりを受けて大変迷惑します。ですから日本は、米国と中国のどちらか一方につくのではなく、より中立的な立場で、近隣諸国と連携しながら生きていく。東アジアの平和と安定を模索しながら生きて行く。これが私の提唱する「アジア共生国家」構想です。

加えて、「アジア共生国家」構想は、西洋近代の超克までも視野に入れています。と言うのは、この数百年にわたって西洋近代文明が世界を主導してきたわけですが、いま世界で起きていることは、グローバル資本主義の限界、格差と貧困、分断と対立、地球温暖化、核の脅威など、どれをとっても西洋近代文明の行き詰りを感じさせるものばかりです。人類は、西洋近代文明から新たな文明へと転換を迫られているのです。

では、新しい文明観とはどういうものでしょうか。それを考えるうえで、私は東洋思想やアジア的価値観がヒントになると思っています。すなわち、「競争」「拡張」の西洋文明と、「調和」「循環」の東洋文明とが、うまい具合に融合することで新たな文明に昇華できるのではないかと考えているのです。つまり東西文明の中庸を得るのです。

米中はいがみ合っている場合ではありません。気候変動ひとつとっても残された時間はさほど多くありません。勝ち負けではなく、協力共生によって歴史を前に進めるべきです。西洋のチャンピオンが米国なら、東洋は中国でしょう。「アジア共生国家」は東洋の国々を中心に連携し、東西の調和を願い、新しい世界文明を展望する。これが「アジア共生国家」構想の本願なのです。