齋藤健 元農林水産大臣、自民党衆議院議員
日本は中国への農産物の輸出を積極的に推進すべき

2月8日午後5時半から、元農林水産大臣で自民党衆議院議員の齋藤健先生への取材を、衆議院第一議員会館で行うことになっていた。約束の時間が迫ってくると、齋藤先生の秘書から絶え間なく電話が入り、国会の時間が延びているので、約束の時間をずらして欲しいとのことだった。6時半近くになって、齋藤先生は急ぎ足で戻って来られると、「私が時間にルーズなんじゃなくて、野党議員が質問を止めないものだから」とユーモラスに話し、早速取材を始めた。

 

日本は米中両国を理解する唯一の国

—— アメリカ大統領選挙は世界の安全保障にも大きな影響を及ぼすため、世界中から関心が寄せられました。米中関係の緊張が高まっている中で、日本が果たす役割をどのように考えますか。

齋藤 まず、米中の対立は簡単には収まらないという前提があります。その中で、日本も非常に難しい立場にあります。私自身、歴史を勉強してきて、日本にとって中国というのは、この2000年近くの日本の歴史の中で最も影響を受けてきた国です。こう言うと怒られるかもしれませんが、アメリカは高々200年ぐらいの歴史しかありません。日本の歴史を振り返ってみると、『平家物語』でも、清盛は宋との貿易を重視していました。そうしたことからも、中国はかけがえのない国であって、常にアメリカと一緒というわけにはいかないわけです。

そこで、日本のやれることは何かと言うと、日本人は歴史の勉強が足りないとは言うものの、中国のことは欧米よりはよく分かっていると思うのです。その上で、今後さらに2000年お付き合いしていく国として、アメリカのように居丈高に対立するのではなく、腹を割って中国に、「こうした方がいいですよ」と心を込めて話をすることは、日本にしかできないことではないかと思うのです。

それから、日本の国内向けに言いますと、マイナス面にばかり目を向けるのではなく、日中間にはいいお話も沢山あります。鑑真は六度目の航海で日本にたどり着き、日本の文化に影響を与えました。この度のコロナ禍においては、両国はお互いにマスクを贈り合いました。私は個人的に、戦後、中国が日本人残留孤児を養育してくれたことにずっと恩を感じてきました。当時、日本軍は子どもを置き去りにして帰ってしまいました。中国にとってどれほど厄介なことだったでしょう。ところが、中国人は自分の子どもと一緒に彼らにご飯を食べさせ育てたわけです。これは本当に心打たれる出来事です。そういう話を忘れてはならないと思います。

日中交流の長い歴史には、このようにいい話がたくさんあります。日中双方はお互いそういったことをもっと知った方が良いと思います。中国に対しては、これまで2000年お付き合いをしてきたわけですし、これからも2000年お付き合いをしていくわけですから、友人と言ったら言い過ぎかもしれませんが、古いお付き合いをしている者として、お隣でもありますし、心から助言していくことが日本の役割ではないかと思っています。

そういう関係をお互いが努力して築き上げていかねばならないし、逆に言えば、そういう関係をこわすような行動をお互いとってはならないんだと思います。

現在、米中は対立状態にあります。率直に言って、日本は、中国がアメリカの何に腹を立てているのか、アメリカが中国の何に怒っているのかを理解できます。それは、他の国にはできないことだと思うのです。日本は、米中の対立を目の当たりにしても、両国がかつて友好関係にあったことを忘れてはなりません。こうした状況下で、日本は米中の相互理解を進める役割を果たすことが重要だと思います。

 

コロナ後、世界経済は急速に発展

—— 昨年11月、中国と日本をはじめとする15カ国は「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」協定に署名し、世界最大規模の自由貿易経済圏の誕生として受け止められ、大きく注目されています。通産官僚出身の経済のエキスパートとして、今後の世界経済の動向をどのように分析していますか。

齋藤 短期的にはコロナ次第というところでしょう。コントロールできるのか、ぶり返すのか、いずれも経済に影響を及ぼします。ワクチン接種後に流行は落ち着いてくるかもしれません。中長期的には、世界経済は大きく発展する局面を迎えていると思います。

その一つは、よく言われているデジタル経済であり、デジタルトランスフォーメーションが進んで、新しいビジネスがどんどん生まれてくる局面です。それから、地球温暖化対策で、様々な技術がどんどん出てきます。車一つ取っても、劇的に変わっていきます。その意味から言うと、科学技術は過去にないくらいすさまじい勢いで発展し、絶えず市場に応用されます。ですから、コロナが落ち着いた後、世界経済は大きく発展していく可能性があると思います。

その中で、注意すべきは貿易の問題でしょう。米中貿易戦争において、トランプ大統領が一方的に関税を引き上げ、WTOのルールに違反しました。中国も対抗措置をとりましたが、それもWTO違反です。米中両国が貿易ルールを無視して、世界の貿易ルールを踏みにじる形でやりあうというのは非常に良くないと思っています。世界第一の経済大国と世界第二の経済大国の争いを目にして、ルールを守るということが大事だと痛感しています。

「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」が船出した今、われわれはルールの策定と遵守に努めなければなりません。貿易において、それぞれが「自国ファースト」になれば、世界経済の発展を阻害する大きなリスクになると考えます。

 

中国は説得力をもつべき

—— 日本では「防衛は米国」、「経済は中国」と言われてきました。世界的に猛威を振るう新型コロナウイルスが引き金となり、世界経済の中国への依存からの脱却を図る「脱中国化」の動きが加速しています。この点をどう見ていますか。

齋藤 中国はこの動きを深刻に受け止めるべきだと思います。世界経済は中国経済と切っても切れない関係にあるかもしれませんが、中国に対する不信感を認識すべきです。それは、ヨーロッパで蔓延してきていますし、トランプさんが大統領を離任して以降もなかなか消えそうにありません。世界をリードしているヨーロッパとアメリカが引き続き力を持っていると思うので、対応を誤れば孤立してしまうのではないかと、非常に危ういものを感じます。中国経済は大事だけれども、中国に頼らずやっていこうという「脱中国化」の動きが加速していく可能性があります。

ところが、率直に申し上げて、中国の反論には具体性と説得力が欠けていると感じています。如何に真摯に説得力を持つような形でやっていくかを、今、中国は考えるべきではないでしょうか。

 

日本は中国への農産物の輸出を推進すべき

—— 2020年11月、王毅中国国務委員兼外交部長が来日した際、再び、農産物の貿易が議題にのぼりました。元農林水産大臣として、農産物の貿易についてどうお考えですか。

齋藤 中国の方々に日本の農産物をもっと食べてもらいたいという思いがあります。ところが、お米一つ取っても、日中間での貿易はうまくいっていません。これまで、農協もあまり熱心ではありませんでした。さらに、中国側にも様々な規制がありました。元農林水産大臣として、いい物であれは受け入れてほしいという思いがあります。輸入に関しては、中国からどんどん入ってきていますから、中国側も日本の農産物の輸入に協力いただければと思います。

一方で、美味しいものをみんな中国に持っていかれてしまうと心配している人たちがいることも承知しています。われわれ日本人も中国から美味しい物を沢山輸入しているわけですから、日本はもっとオープンになるべきだと考えます。

取材後記

齋藤健先生は自民党内では「政策通」として知られる。また、日本のメディアが予測する、将来の首相候補の一人でもある。インタビューの最後に、氏は自著である『転落の歴史に何を見るか』にサインして私にくださった。歴史を愛し歴史を学ぶ日本の政治家は、間違いなく有能な政治家である。