石破 茂 衆議院議員・自由民主党元幹事長
日本と中国は信頼関係を持つことが最も大事

「皆さま今回の自民党総裁選、本当にありがとうございました。いつの日か、国民の皆さまのために、日本国のために、次の時代のために。皆さんのお気持ちに報いることができるよう、石破茂、全力を尽くしてまいります。どうもありがとうございました」。自身の心情をツイッターで表明した自民党の石破茂元幹事長は、10月22日の石破派(水月会)の会合で会長辞任を表明し、政界に驚きをもって迎えられた。折しも取材の日と重なったが、自民党総裁選出馬の意義、日本と中国の今後の関係についてお話を伺った。


撮影/本誌記者 張桐

自民党総裁選は党員の声を聞くべき

—— 今回、自民党総裁選に4度目の挑戦をされました。このことが自民党政治、ひいては日本の政治に与えた影響とはどのようなものでしょうか。

石破 自民党は「国民政党」です。特定のイデオロギーで結ばれた政党ではありません。いろんな考え方が日本国民にはあり、それを広く代表する政党だと思っています。

ですから、憲法や安全保障、社会保障をどうするのか、いろんな意見があります。自民党の総裁選挙のときに、違う意見を持っている人が何人か出馬して、党員が投票するのがあるべき姿だと思っています。私と菅義偉さん、岸田文雄さん、それぞれ意見が違うところはあります。同じ政党だから大きく違うことはありませんが、少しずつ違いはあります。また、自民党のあり方、どういう政党であるべきかも重要なテーマです。ですから、それぞれの意見を聞いて党員が選ぶことが、自民党にとって大事なことなのだと思います。

今回は、細田、竹下、麻生、二階、石原の5派閥が一緒になり、菅さんを支持すると決めたので、多くの自民党国会議員が菅先生を支持しました。私としては、そのことは謙虚に受け止めるべきではないかと思っています。

日本では、知事や市長、町長はそこに住んでいる人たちが選びますが、総理大臣は国民の総意として国会議員が国民に代わって選びます。自民党総裁は大体総理大臣になりますから、自民党総裁を党員が選ぶということは、日本の民主主義のためにも大事なことだと思います。今回の私の出馬には、そういう意義はあったと思います。

日本と中国はお互いの信頼関係が大事

—— 近年、日中両国は良好な関係を構築していると言われる一方で、「中国脅威論」もあります。安倍政権の対中政策をどのように評価しますか。

石破 安倍政権は中国と極端に対立することは、注意深く避けてきたと思っています。中国べったりということでもなく、緊張関係になるようなこともないような対中外交がなされてきたと思います。

一方で、アメリカに対しては非常に密接な関係を築くように努力してきたので、そこにややアンバランス感があったかもしれないという気はしています。

—— 現在、「自由で開かれたインド太平洋」構想に基づいて、日本は米豪印との連携強化を打ち出していますが、中国は「対中包囲網」とみて警戒を強めています。元防衛大臣として、日本の軍事防衛をどのように見ていますか。今後、中国と対立するのではないでしょうか。

石破 私は17年前、当時の小泉内閣で防衛庁長官(現防衛大臣)を2年務めました。その後、福田内閣で防衛大臣に就任し1年務めました。当時、小泉総理大臣が靖国神社を訪問したため、中国は非常に態度を厳しくして、日本の防衛庁長官の訪中を受け入れませんでした。

しかし、私の代になって中国から招待をいただき、訪中しました。私は46歳、今から16年前のことです。中国の国防部長は人民解放軍の曹剛川さんという方で、随分長い時間会談しましたし、茅台酒も何十杯と飲みました。(笑)

次の日に、温家宝総理に「会いたい」とおっしゃっていただき、釣魚台で1時間以上お話をさせていただきました。

その頃、日本では「有事法制」関連法案について国会で審議中でした。日本では戦車が赤信号で止まるとか、自衛隊の自動車はスピード違反をしてはいけないとか、あるいはもしどこかの国から攻撃を受けたときに市民を避難させる法律がないとか、そういう非常に問題のある状況を変えるための法案を私は担当していました。

また、BMD[Ballistic Missile Defence 弾道ミサイル防衛]のシステムを整備する計画を進めていました。

さらに、イラクに自衛隊を派遣することも担当していたのですが、曹剛川閣下からも、温家宝閣下からも、それらの政策に対する懸念、不安、心配が表明されました。

私からは、赤信号で戦車が止まるようなことのないよう、また市民が避難できるようにする、「有事法制」関連法案というのはそういう法律で、戦争するための法律ではありませんとご説明しました。

ミサイル防衛についてもご説明しました。どこかの国から日本に向けてミサイルが発射された場合にそれを撃ち落とすだけであって、こちらから撃つ意思も全くないし能力もありません。中国が日本にミサイルを撃つようなことはないはずですから、このシステムが中国に対して機能することもないでしょう。もちろん、BMDを配備することによって、軍事バランスかどう変わるかという議論は別ですが、BMDは決して中国を念頭に置いたものではありません。また、自衛隊がイラクに行くことについても、その目的は戦後のイラクの道路を直したり、水が出なくなったところに水を配ったり、あるいは壊れた学校を直したり、そういうことをするためであり、United Nations[UN 国際連合]のリクエストによるものであって、アメリカから言われて出すものではありません。ましてや戦争に行くわけでは決してありません、とご説明しました。

国防部長も総理も、「分かった」とはおっしゃいませんでしたが、日本の考えていることは「理解した」と話されました。

日本の自衛隊に中国を侵略する能力はありません。侵略しようとしているという考え方は間違いです。もちろん主権国家同士、国益の違いもありますし、いろんな利益がすべて一致するはずはありません。中国には中国の考えがあり、日本には日本の考えがあります。しかし、必要なのはお互いが信頼関係を持つことです。国家主席と総理大臣が、大臣同士が、あるいは人民解放軍の将校と自衛隊の幹部が、お互いの国の相手の顔が思い浮かぶような信頼関係がとても大事だと思っています。

戦争というのはミスカルキュレーション[miscalculation 誤算]、つまり、そんなつもりはなかったのに誤解や不信で始まることが多いのです。このような事態を防ぐためには、信頼関係が最も重要なのです。

日本と中国はお互いの理解と知識を深めるべき

—— 安倍前総理の弟で親台派の岸信夫氏が防衛大臣に就任しました。日中関係にマイナスと考えますが、菅政権をどのように見ていますか。

石破 まだ発足してひと月で、国会も始まっておらず、本格的な議論もされていない今の段階で、評価はできないと思います。岸大臣が非常に台湾とも親しい方であることは知っていますが、私だって台湾に十何回も行っています。

台湾のことはよく知っているつもりですし、亡くなられた李登輝さんとも親しくさせて頂いていました。ですから、そんなことを言ったら私も親台派ということになります。親台派だからダメだと決めてかかるのはよくないと思いますし、大臣になる前の立場と今の立場の違いというものもあると思います。

大切なことは、中国との信頼関係をつくるために努力をすること、中国が持っているいろんな疑問、不安、懸念に対してきちんと答えること、そして中国の持っている能力を知ることです。

もちろん中国だって全部教えてくれることはないでしょう。私も初めて訪中したときは、ほとんど何も見せてもらえませんでした。「この写真に写っている戦車は何ですか」と私が聞くと、「そんな戦車はない!」と(笑)。「じゃあ、戦闘機を見せてください」と言ったら、古いタイプのMiG-21が出てきました。今から17年も前のことです。それから中国には7、8回行ったと思いますが、だんだんいろんなものを見せてくれるようになりました。日本と中国は国も違えば国益も違います。ですが、岸さんも大臣になったからには、お互いの理解と知識を深めることは、当然されると思います。

—— 来年9月の自民党総裁選に再び出馬されますか。

石破 そんなことは分かりません(笑)。まだ内閣ができたばかりで、それがスタートしてひと月ぐらいなのに、「来年私がやります」って、それはおかしいでしょう。今は、菅内閣が日本のために、東アジア地域のためになるような仕事をできるように協力するのが大事なことだと思っています。