稲津 久 厚生労働副大臣、衆議院議員
新型コロナ対策:日中の相互支援から国際協力へ

8月25日現在、世界の新型コロナウイルスの感染者数は2352万人、死亡者は81万人に達し、まさに人類は未曽有のパンデミックにさらされている。日本でも感染者数が6万人を、死亡者数は1200人を超えた。未だ収束の兆しが見えないコロナ禍に立ち向かうには国際的協力が必要だ。本誌では稲津久厚生労働副大臣に、日中の相互支援から得た知見をもとにその対策を語っていただいた。


撮影/本誌記者 原田繁

相互支援を大切に

—— 新型コロナウイルスの発生以降、日中間ではマスクや防護服の寄贈など、相互支援が行われています。

稲津 1月29日の第1便で、武漢から日本の邦人、そのご家族や関係者の帰還がありました。そのときにも中国政府には大変なご協力をいただいたことに改めて感謝申し上げたいと思います。

チャーター便は計5便を派遣しましたが、武漢でマスクや医療用防護服等も不足していると聞いていましたので、日本から武漢に向かう時に一般用だけでなく様々な種類のマスク等々の緊急支援物資を積み込んでいきました。

そのほか東京都や、中国の各都市と姉妹友好都市を提携している自治体、それから数多くの民間企業も同様の支援を行いました。これら日本からの支援に対して、中国政府には大変前向きに受け止めていただきました。例えば中国の外交部の報道官の公式アカウントの中で、「私たちは感動しています。このご恩は決して忘れません。私たちの友情は末永く続いていくものです」と、感謝を表明していただきました。

その後、日本で感染が拡大していく中で、中国政府から、支援物資を提供していただきました。こうした相互の支援は、日中間で大切にしていかなければならないことです。

検査幅を広くして体制の強化を

—— 日本では連日の感染者数の増加にともない「第2波」が懸念されていますが、PCRなど検査体制の拡充について、どう考えておられますか。

稲津 感染拡大が始まった頃は、まだ十分なPCR検査の体制ができていませんでしたので、大変苦労したところもありました。現在は、1日当たり5万2000件のPCR検査のキャパ(能力)が確保されています。また、抗原簡易キットが2万6000件。さらには、抗原定量検査、これは抗原簡易キット検査と同じぐらいの短縮した時間で、かつPCR検査と同じぐらいの性能を持っているものですが、これが8000件という状況です。

今後は検査が必要な方に対しては、より迅速でスムーズに検査ができるようにしていきます。そして、濃厚接触者だけではなく、感染の疑いがある場合には、検査幅を広くして検査を受けられるように、体制の強化を図っています。具体的には、PCR検査とか抗原定量検査の機器整備の支援による能力の増強や、唾液検査に特化した診療所を増やし、検査のアクセス向上も図っています。

それと、PCR検査を抗原検査と組み合わせていくことも大事だと考えていまして、抗原検査キットの備蓄は1日3万件ぐらいをピーク時には対応しようとしています。

治療薬、ワクチンの早期実用化を

—— 最近、世界各国でワクチンや治療薬の開発が進んでいますが、日本での進捗はいかがですか。

稲津 ワクチンの開発と確保は、今、日本のみならず世界中の研究者の英知を結集して取り組んでいるところです。日本としても、ワクチンと治療薬の研究開発については、優先的に迅速に審査をするということで、取り組んでいます。

まず、治療薬では、5月7日に「レムデシビル」を薬事承認しました。また、「デキサメタゾン」を7月1日に診療の手引に掲載し、その治療は有効だと厚生労働省で認めております。そのほかの治療薬の開発についても、現在、必要な候補物質を探す取り組みが多くの機関によって行われています。

それから、ワクチン開発については、第一相と第二相の臨床試験が開始されたものがあるほか、今、基礎研究から非臨床試験の段階のものが複数ある状況と聞いています。厚生労働省としても、このワクチンや治療薬の開発については、第1次補正、また第2次補正のそれぞれの予算を通じて、研究開発や生産体制の整備を全面的に支援しております。

いつ頃いろんなものが全部整備されてくるのかは、なかなか先を見通すのは難しいのですが、有効性とか安全性が確認された治療薬、ワクチンはできるだけ早期に実用化を図っていきたいと考えています。

まず感染防止、蔓延防止の徹底を

—— 先日、日本のGDP成長率が「年率27.8%減」と発表されましたが、感染防止策と社会経済活動をどう両立させていく考えですか。

稲津 厚生労働副大臣の立場としてお話し申し上げますと、まず、コロナの感染防止、蔓延防止、これに全力で取り組んでいかなければなりません。同時に、必要な防止策をしっかりと講じながら、経済活動を段階的に引き上げていく。この両立は、とても難しいことですが、重要なことです。

厚生労働省としては具体的に、まずは3密を避け、手の消毒、手洗い、マスクの着用、ソーシャルディスタンス、あるいは換気の徹底、業種別ガイドラインの遵守など、感染防止策を国民の皆様にしっかりと講じていただくよう働きかけています。

もう1つは、やはり検査体制を十分にしていくことです。もし陽性者が出た場合には、積極的疫学調査といいまして、保健所が陽性と判定された者の行動履歴を聴取し、検査を受けてもらうべき名(濃厚接触者)を割り出し、検査につなげていきます。これにより感染拡大の防止を図っています。あともう1つ大事なのは、重症化を防ぐという意味でも、医療機関でしっかりとした治療を行っていくための病床、ベッドを確保していくこと。それから、軽症無症状の方で、入院の必要がないと医師が判断した方に対する療養先としては、症状急変時の適時適切な対応が必要なため、宿泊療養を基本として対応いただく。こういったことを今、呼びかけており、都道府県としっかり連携を図っていきたいと思っています。

日本が国際社会に出来ること

—— 新しい感染症の出現は世界を大きく揺るがし、保健医療はもとより、国際関係のあらゆる側面に影響を与えています。感染症の拡大を収束させるため、国際協力が求められていますが、日本にできることは何だとお考えですか。

稲津 今、世界では1日大体20万件を超える新型コロナウイルスの感染者が新規で発生しています。累計の感染者も2300万人を超え、亡くなった方は80万人を超えています。パンデミック(世界的大流行)によって、人類は大変な試練に直面しているというのが今の状況です。

そういう中で、それぞれの国が、一国だけで対応するのではなく、それぞれの取り組みや知見を共有しながら、国際社会が一丸となって、新型コロナウイルスの感染拡大防止に努めていくことが大事です。その意味で今年の4月に「ASEAN+3(日中韓)保健大臣会合」を、5月には「日中韓三国特別保健大臣会合」を行いました。そこでは、コロナウイルスの予防とコントロールについて協議し、「自由で開かれた、透明かつタイムリーな情報知見の共有の強化を図っていく」ということが合意されました。

それから、我が国としては、まだ対策が十分でない国々に対して、蔓延防止のためにWHO(世界保健機関)による戦略的な準備、計画に対して、一定の支援を行い、そこからそうした国々へのご支援をさせていただいているという状況です。あと、ワクチンの開発、配布については、国際社会の取り組みであるCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)に対して、新型コロナウイルス感染症の対応のために約1億ドルを拠出しました。それからGAVIアライアンス(ワクチンと予防接種のための世界同盟)に対して、日本として3億ドル拠出の約束(pledge)をしています。

—— 中国のコロナ対策についてどう評価しますか。

稲津 新型コロナウイルスというのは、我々人類がまだ経験したことのない未知のウイルスで、このウイルスに向き合って、どう対応していくかということは各国が一番悩んでいるところです。中国も我が国と同じように、国民の生命を守るために、総力を挙げてこのウイルス蔓延防止対策に取り組んできたというふうに承知しています。引き続き中国政府としてもさまざまな取り組みをされると思いますが、我が国をはじめ各国との連携を図っていただきながら、WHO等も含めて、さまざまな協力をぜひお願いしたいと思っています。