——福田康夫元首相に聞く
「人類運命共同体は試練に直面」

ワクチンの開発競争、黒人差別抗議運動、中国依存、反グローバリズム……新型コロナウイルス感染症の拡大により、世界中が未曽有の混乱に陥り、国際情勢は目まぐるしく変化している。国家間の人的往来は一時的に停止し、人と人との距離を2メートルに保つことが呼びかけられる中、国と国、人と人の連帯感や共生がかつてないほど求められている。ウイルスの脅威の下、「人類運命共同体」の構築は、もはや目標理念ではなく、人類が望むと望まざるとにかかわらず、結束して取り組まなければならない現実となった。

先ごろ、東京赤坂の福田康夫事務所を訪ね、常に国際関係に関心を寄せてきた「学者政治家」である、福田康夫元首相に国際情勢について見解を語っていただいた。


撮影/本誌記者 呂鵬

新型コロナウイルス感染症

拡大の収束には各国の協力

が必要

—— 依然として新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、それによってもたらされた経済問題、外交問題、医療システムの問題は一国、一地域社会に限られたものではなく、「人類運命共同体」の前に立ちはだかる大きな課題となっています。感染拡大を如何に収束させるか。そして、コロナ禍における国際協力について、どうお考えでしょうか。

福田 新型コロナウイルス感染症の拡大は「人類運命共同体」にとっての脅威であり、人類が「人類運命共同体」という共通認識に到達できるかどうかを試す出来事であり、全人類が心を一つに団結して考え解決する必要があります。その共通認識がなければ、根本的な解決にはなりません。

感染症の拡大は日本ではまだ完全には抑え込めていません。今後、第二波、第三波が来るでしょう。当面の急務はワクチンの開発です。現在、十数カ国乃至数十カ国がワクチンの開発に動いているようです。いずれかの国が先んじて成功すれば、当然、人類の利益ともなります。それらの国家間で情報を共有し、医療協力を行えば、ワクチンをいち早く世に出すことができるでしょう。

現段階では、感染のしかたは国ごとに大きく異なりますので、日本と中国のすべての医療能力を投入すれば解決できるという問題ではありません。ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、アジア諸国の協力も得て、皆でより高い視点から問題を検討する必要があります

アジアだけが収束したとしても、収束したとは言えません。中国を例に挙げれば、アフリカでの感染が収束しなければ、中国の経済、投資、人的往来に影響を及ぼします。国家間でできるだけ早く対話をし、ともにウイルスと闘う環境をつくってほしいと思います。

また、中国にさらなる情報の提供をお願いしたい。特に武漢についての情報です。いち早く収束させるためには中国の協力が欠かせません。

反グローバリズム情勢下、

日本は国を閉ざすべきでない

—— ここのところ、「中国依存」という言葉が日本のメディアでよく聞かれるようになりました。一定の補助金を出して企業の中国撤退を支援するという日本政府の施策についてはどうお考えですか。

福田 これは中国の力が益々強くなってきていることの証明であり、すべての国が認めるところです。

反グローバリズムが大きな趨勢となっていることは否定できません。中国にとっては不利な状況です。中国経済の急速な発展の要因の一つは輸出需要であり、アメリカによる大量輸入です。日本は徳川時代の鎖国政策に戻るべきではありません。

黒人差別抗議運動は

アメリカ国民対トランプ

大統領の戦争

—— 黒人差別抗議運動が全米で広がりを見せています。トランプ大統領のとった対策についてはどう見ていますか。

福田 端的に言えば、アメリカ国民とトランプ大統領による戦争だと思います。トランプ大統領は自らの力を誇示するために度々刺激的な発言を行い、それが抗議運動を激化させました。治安維持のために連邦軍を投入すると威嚇さえしました。大統領の発言とは思えません。

自国の軍隊で自国の国民を制圧するなどというのは大変愚かなやり方です。今の時代、暴力で暴力を抑え込むやり方は、効果的ではありません。却って、多くの国々が抗議活動に加わるという結果を呼ぶことになります。

 

取材後記

取材の最後に、福田康夫元首相は「温故創新」と揮毫をしたためてくださった。この言葉は福田先生による「造語」であり、新たな和製漢語である。福田元首相は宛名に私の名前を書き、「先生」と書いてくださった。日本の首相経験者に「先生」と呼ばれたのは二人目である。一人目は安倍晋三現首相であった。