大島 理森 日本養蜂協会会長・衆議院議長
中国は養蜂業の重要パートナー

日本養蜂協会は戦後まもない1947(昭和22)年、全国の養蜂業者によって養蜂事業の発展と食料増産を目的に創立された。日本の食卓におなじみであり、近年は健康食品として需要の多様化が進む蜂蜜はまた、長年にわたり養蜂技術の交流を通して日本と中国を結んできた架け橋でもあった。現在、日本の輸入蜂蜜の多くを中国が占めているなか、同協会の会長を務める大島理森衆議院議員に日本の養蜂業の現状と将来展望をうかがった。

 
撮影/本誌記者 原田繁

蜜源の減少にどう対処するか

—— 大島先生が日本養蜂協会の会長を務められていると伺い、驚きました。

大島 たまたま私の出身地の青森県にも養蜂家の方々がおられ、また、これまで歴代の協会会長を農林水産関係で大変経験の多い議員、江藤(隆美)先生や山中(貞則)先生が務めてこられた経緯がありました。それで江藤先生が亡くなった後、会長を引き受けてほしいというお話がございました。私も農林水産大臣の経験はあるにしろ、養蜂のことについては、それほど深い関わりがあるわけではなかったのですが、ご熱心にお勧めをいただいて、お引き受けしたわけです。

 

—— 会長の目から見て、日本の養蜂業界の現状はいかがですか。

大島 今、日本全体で養蜂生産者は9,300戸ほどおられ、その多くは家族経営ですが、生産量は2,754トンといわれております。この数字は平成に入ってからほぼ変わりません。ただ近年、趣味で養蜂を始める人が増えており、そういう方々が養蜂生産者とトラブルを起こすケースがみられます。というのは、養蜂業にとって最大の問題は蜜源の植物の減少です。つまり、都市開発などによって蜜源が減ってくると、少ない蜜源をめぐってトラブルが起こったりするわけです。

そのあたりは、もう少し国と県がしっかりと調整機能を果たすようにということで、30年ぶりか40年ぶりぐらいに法律の改正を皆さんの力でしていただきました。蜜源対策とともにミツバチの病気の問題なども出ていますが、そうした養蜂生産者のさまざまな問題をまとめ、政府や議員の皆様にお願いをして、高品質な蜂蜜の生産や使用管理、衛生対策などの推進を図っていくというのが、われわれ協会の役割です。

 

県レベルでの取り組みに期待

—— 養蜂業界の果たす役割についてお聞きしますが、本来的に今の法律を含めて業界の課題はどのようなことでしょうか。

大島 養蜂というのは農業全体、食糧全体から見ると、非常に小さい分野であることに間違いはありません。しかし、そういう世界でありましても、果たしている役割は非常に大きなものがあります。したがって、今後取り組むべきは、蜜源問題に加えて農薬や食品衛生関係の問題、それから、これは中国もあると思いますが、クマ対策ですね。

こういう問題に対処するには、法律改正とともに各県レベルでしっかり取り組んでもらうことが大切です。たとえば私の青森県では、リンゴ、畜産、お米、ニンニク、大根など、いろいろな農産物があるなかで、養蜂は生産額からいって非常に小さい。したがって、どうしても県の行政は、マンパワーが足りないこともあり、養蜂への取り組みは充分とはいえません。もちろん一生懸命にやってくださっているところもありますが、今後は法律に基づいて対応を徹底してもらうように各県で理解を深めていただくことが肝要であると思っています。

 

輸入蜂蜜の7割が中国

—— 中国にとって、日本の養蜂業が参考になるとしたら、何でしょうか。

大島 中国との関係で申し上げますと、まず日本の輸入蜂蜜の7割が中国で占められていますから、非常に深い関係にあります。日本の蜂蜜の自給率はわずか5.4%で、この数字をもう少し高めるのもわれわれの課題のひとつです。とはいえ、中国の蜂蜜はどうしても必要であるし、また中国は養蜂の長い歴史も持っているという意味でも、重要なパートナーであることに変わりありません。

そうしたことから、やはり安全安心な蜂蜜の供給をぜひ中国の生産者の皆様方には徹底していただきたいと思うわけです。それぞれの国で安全基準がありますが、日本の安全基準というものをよく研究していただいて、より一層すばらしい蜂蜜をつくっていただきたいというのが私どもの希望です。

 

—— 現在の中国は、2020年までに貧困層を一掃する目標を掲げています。そうしたなかで、農村部の貧困対策として養蜂業が奨励されています。習近平国家主席はこれまでに18回、養蜂業の視察に行ったそうですが、日本と中国養蜂業の交流と協力についてはどう考えていますか。

大島 今から30年ぐらい前に輸入業者による全日本蜂蜜協同組合が設立され、中国の生産者に技術指導等を行わせていただいたという歴史があります。日中蜂産品会議というのをずっと続けており、もう25回を数えるまでになっていますが、そのなかで日本ではどんな蜂蜜が好まれるか、あるいは技術的な問題や衛生上の安全基準などについて話し合ってきました。今日、輸入蜂蜜の多くを中国が占めているのは、こうした長年にわたる双方の努力の積み重ねによる成果だと思います。

さらに、最近は中国の国民のみなさんも農薬や抗生物質などに高い関心をもたれるようになり、そういうことから、日中蜂蜜技術者交流会議という情報交換会を年1回行っていると伺っております。したがって、全体としては非常に良好な関係を継続して今日まで継続しており、こういう会議を通じて、今後さらなるすばらしい蜂蜜、安全な蜂蜜を生産していただくことがとても大事だと、このように考えています。

 

需要の多様化に高まる期待

—— ところで、養蜂業は健康産業ともいえるものですが、日本における養蜂業の課題や展望について、どう考えていますか。

大島 蜂蜜は甘いものとして食べるだけではなく、健康食品でもあります。最近はまた化粧品や医薬品などの分野でも需要が高まっており、多様な利用法が注目されています。したがって、そういう意味で蜂蜜の需要は今後伸びこそすれ、落ちるということはないと思っています。さらに研究開発が進めば、新たな蜂蜜の効用が広がるでしょう。なにしろ蜂蜜の効用の歴史は紀元前にさかのぼり、今日まで続いているわけですから。

もう1つは、ご存じかと思いますが、最近、銀座のビルの屋上で蜂を育て、それでつくった蜂蜜を使ったケーキなどをブランド化している洋菓子店もあります。このような食品や医薬品、健康食品としての新しい展開と、これは中国でも指摘されていると思いますが、ミツバチがもたらす果樹栽培があります。私の地元の青森県は、リンゴやイチゴをはじめ、果樹は南方系のもの以外は何でもできるところですが、この花粉交配の経済効果は、約1,400億円にのぼるといわれています。

ですから、そういう意味でも、蜂の存在というのは非常に大きいのです。こうしたことから、私どもは先ほども少し触れましたが、もう少し自給率を高めるべく努力していきたいと思っています。

 

—— クマの出没も日本の養蜂業者には頭の痛い問題のようですね。

大島 一度蜂蜜があるところをクマが覚えると、必ずまたそこへ行くというんですね。ですから、そういう鳥獣被害対策もちゃんとやらないといけません。さらにダニなどの病虫害の問題も出てまいりまして、そういう衛生管理にもこれから気をつけて行かないといけません。養蜂生産者はそういう問題をかかえながらも頑張っておられる方々が多く、後継者も結構いらっしゃいます。ぜひそういう養蜂家を守っていきたいと思っております。

 

—— 先生は中国にもよく訪問されていますが、これまでの訪中で印象深いエピソードがあれば教えてください。

大島 まず1つは、やはり中国には大変な経済発展のバイタリティーを感じますね。昨年北京にお邪魔したときに、数年ぶりだったのですが、ものすごく車の量が増えていました。それから、デパートにもちょっとお邪魔して、大学生たちともお話をしましたが、日本に対する強い関心を持っていただいていることがわかりました。あらためて経済的活力のすごさを肌で感じましたし、国民の皆さんの世界を相手にしてこれから頑張っていくんだという精神的な気概も感じました。

日中関係はとても大事ですし、とくにうれしかったのは、若い方々と話してみて、日本にぜひ行ってみたい、一度行ったけれどもまた行ってみたいという方が非常に多かったことです。私は、そういう中国の若い人たちにどんどん日本に来ていただいて交流を深めることが日中関係のとても大事な基本であると思っています。