古屋 圭司 MANGA議連会長、衆議院議員
MANGAは日中平和交流のツールになる

2014年に自由民主党公明党民主党(当時)や日本を元気にする会の衆参両院の国会議員らによって超党派の「マンガアニメゲームに関する議員連盟」、略称MANGA(MangaANimationGAme)議連が結成された。今年で結成3年目の同会だが、その目指すところと現時点での活動状況について、会長の古屋圭司衆議院議員(自民党)にお話を伺った。

 
撮影/本誌記者 張桐

MANGAナショナルセンターの開設を

—— MANGA議連というのは、世界的に見ても珍しい集まりだと思いますが、その結成の背景と目的を教えていただけますか。

古屋 Judo(柔道)と同じように、日本のマンガアニメゲーム(MANGA)は世界共通用語になっています。これらは日本が生んだ世界に誇るポップカルチャーです。「サブカルチャー」というよりは、むしろ「メインカルチャー」に等しいと私は思っています。とくにマンガには奈良絵本、浮世絵の時代からの何百年の歴史があります。浮世絵は江戸時代の庶民文化として定着し、日本にずっと根付いていたものです。

この議員連盟を作った背景ですが、かつて麻生(太郎)政権(2008.9~2009.9)のときに、国立メディア芸術センターを作るということで、約120億円の予算を計上したことがあります。しかしその後、民主党政権に代わったときに、「国営マンガ喫茶を作ってどうするんだ?」という批判があって、その予算は凍結(執行停止)されてしまいました。しかし、箱(建物)は手段であって、私たちの目的はもっと高いところにありましたから、超党派の議員連盟を発足させ、もう一度、仕切り直すことにしたのです。

それで、2014年にMANGA議連というのを作って、私が会長になりました。3年がたち、今年2017年の閣議決定(政府の基本方針)では、「メディア芸術に関する情報拠点」即ちMANGAナショナルセンターを開設をするということがはっきりとうたわれました。国の方針、国策として開設するということが事実上決まりました。

たしかに建物を造るのに税金を使うのは、あまり好ましいことではありません。これについては、よくPPP(公民連携)とかPFI(民間の資金を活用し、公共サービスを民間主導で行うという考え方)といわれていますが、そういう手法をとることを考えています。

センターを作ることで、人材の育成や、近代的な経営のためのルールづくりもしていきたいし、一方では海外に対して積極的な発信をしていきたいと思います。また、国内での展覧会とかは、そこで全部やれるようにします。そこには国内各地様々なマンガの貴重な資料の統合的な拠点として、そこに行けば必ずアーカイブも全部見れるようにします。実はマンガというのは、二次創作がすごく多い世界なんです。そういったものにも簡単に取り組むことができるように、このMANGAナショナルセンターを開設しようとしています。

 

世界のAKIBAを一大MANGAの聖地に

—— MANGAナショナルセンター建設はやはり秋葉原が候補ですか。

古屋 秋葉原は、MANGAの聖地で、世界から人が来ます。「AKIBA(アキバ)」といったら、世界のMANGAファンの人は誰でも知っています。その近隣には、明治大学のような大学もあります。MANGAについては、京都精華大学(マンガ学部)、立命館大学(ゲーム研究センター)と明治大学(国際日本学部ポップカルチャー研究領域)が東西の拠点です。そうしたところの協力も得ながらやっていければと考えています。ポスト「2020オリンピック」として、一大MANGAの聖地にしようというのが私たちの狙いです。

 

—— 日本のマンガやアニメは世界中で有名ですが、シェアとしてはアメリカのディズニーやマーベルなどが圧倒的です。

古屋 確かにディズニーとかマーベルは、非常に世界に広がっています。しかし、それはローティーンというか、幼い世代のMANGAです。ハイティーン以上は圧倒的に日本のMANGAで、ちょっと世界が違います。われわれが目指しているのは、大人でも楽しめるMANGAです。この世界は日本が圧倒的に優位な立場にいます。その強みをさらに生かしていきたいと思います。

 

『君の名は。』が中国でも大ヒット

—— ところで、今年は日中国交正常化45周年です。来年は日中平和条約締結から40周年。日中の間では、アニメ関連のコンテンツビジネスが年々拡大しています。今後、日中間でのビジネスの重要性、方向性についてはどうお考えですか。

古屋 日中間では、とくにアニメについては、1980年代の後半ぐらいから、動画、仕上げ(彩色)などの一部を中国に委託しています。今は、その割合が7割を越えているのではないでしょうか。それぐらい中国が、いわゆる受託先になっています。ここ数年は、配信などを中心に中国市場の存在感は急速に大きくなりつつあります。そういうウィンウィンの関係が構築をされているということがあるので、これから日中間のMANGAビジネスは、もっと新たな段階に入っていくと思っています。

例えばマンガでは、『時間の支配者』(中国語名:時間支配者)を、中国では雑誌『マンガ行』に連載、日本では『少年ジャンプ+』(集英社)で配信していますが、その原作者は台湾出身作家の彭傑です。アニメとしては、中国のマンガ原作を、日本に進出した中国のアニメスタジオが専ら日本で制作した『縁結びの妖狐ちゃん〔狐妖小紅娘〕』など、既に多くの共同プロジェクトが進められています。こうしたものもお互いに連携をしていきます。

それから、映画『君の名は。』ですが、中国で上映したら観客動員数が2000万人となり、すごくヒットしています。こういうふうに、日本のMANGAも中国に入っていますし、制作をする段階においても、日本と中国とが連携しており、良い関係が保たれています。

ただ、問題がないわけではないのです。それは中国での、日本のマンガとかアニメの海賊版の問題です。これはもう深刻です。中国の若者も、日本のマンガがすごく好きで、もっと自由に見たいと思っているにもかかわらず、中国では、日本語のマンガはまだ出版を許されていません。それから、アニメも配信は別として、劇場公開が極めて限定されています。また、テレビ放送というのも基本的にはダメです。そういう需要と供給のギャップが解消されない限り、海賊版の問題は解決しないと思います。

例えば『君の名は。』は、日本における劇場公開から3カ月後には、もう劇場公開してくれました。そうしたらこれだけ伸びて、健全に広がっています。むしろ海賊版現象を抑えるという効果もありますから、中国当局としても、そういう緩和をしていった方が、私はウィンウィンの関係が作れるのではないかと思います。中国の若者たちの要望に速やかに答えてあげることができれば、ビジネスチャンスも出てくるわけで、そういうことを私たちは強く望んでいきたいと思います。

 

中国に広めたい日本のマンガ文化

—— 今、海外の若者は、日本のマンガやアニメに触れることが、日本を理解するきっかけになったという声をよく聞きます。マンガ、アニメは国際交流、世界平和へ、どのように貢献すると思いますか。

古屋 例えば日本のモーターショーには約100万人ぐらいが来ますが、コミックマーケット夏冬あわせて約130万人ぐらいが来ます。それぐらいマンガには力があります。中国も含めて、世界から若者がたくさん来てくれるのです。すばらしい平和的な国際交流になっています。外国の若者は、マンガで日本語を勉強するくらいです。

だからこそ、やはり日本が生んだ、世界に誇るこのソフトパワーを、しっかり中国にも広げていきたいと思います。中国では、まだ日本に対する国民感情は必ずしもよくないという現実がありますが、中国の若者に、そうしたところから日本の文化に接していただくということが、日中の友好親善にもつながっていくのではないかと思うのです。

日本と中国は統治機構も違いますが、そういうことを超越して、平和的な文化交流、若者交流をしていくときに、「MANGA」はすばらしいツールになると思っています。

 

取材後記

取材を終え、恒例の揮毫をお願いすると、古屋先生は「清忙成養過閑非養(清忙は養を成す、過閑は養に非ず)」と一気に書かれた。江戸時代の著名な儒学者、佐藤一斎の『言志四録』にある言葉で、心に清々しく感じる忙しさは養生になるが、余りにひま過ぎるのは養生にならないとの意味だ。多忙な中での取材に際して、清々しく理路整然と話される姿が印象的だった。