小田原 潔 自民党衆議院議員外務大臣政務官に聞く
TPPは米国にとっても重要

2016年は世界情勢が大きく変動した年であった。「トランプ現象」が世界を席巻したが、日本はこの旋風の影響を最も強く受ける国といえよう。トランプ氏が2017年1月20日正式に米国大統領に就任した後、選挙活動中に宣言していたとおりTPPを離脱するのかが目下最大の関心事となっている。2016年12月、外務省に「次期外務大臣」ともいわれる小田原潔外務大臣政務官を訪ね、お話をうかがった。

 
撮影/ 本誌記者 張桐

トランプ次期大統領就任後も日米関係は変わらない

—— アメリカ大統領選挙後の11月17日、安倍総理はトランプ次期大統領と会見されましたが、外務大臣政務官として、トランプ氏の大統領選出により、日米安保条約及び今後のアジア・太平洋地域の安全保障にどのような影響が出るとお考えですか。

小田原 選挙戦の間トランプ氏からはかなり激しい発言もありましたが、1月20日に正式に大統領に就任してからも選挙戦での発言どおりに過激かどうか、今予測することは不可能です。

安倍首相が当選1週間後にトランプ氏と面会できたことは、とてもよかったと思います。米国は日本にとって最も大事な同盟国の一つですから、誰が大統領になっても、この同盟関係は変わらないでしょう。

トランプ氏はTPPから離脱するとか、メキシコ国境に壁を築くとか、中国からの輸入品は35%の関税をかけるとか、日本に米軍駐留費用を増額させるなどと発言しています。発言は自由ですが、私は1月20日以降も日米関係は変わらないと確信しています。

—— 万が一日米関係が変わることがあれば、どのように対応すべきですか。

小田原 何が変わるかが重要です。英国の政治家パーマストンは「我々には永遠の同盟もなければ、永遠の敵もいない。あるのは永遠の国益だけだ」と言っています。どのような変化があっても、独立国家として国民の生命と財産の安全を全力で守っていかなければなりません。

 

日本の自由貿易、私有財産制は変わらない

—— 2016年は英国のEU離脱の国民投票、トランプ氏の当選があり、2017年にはフランスやドイツの国政選挙も行われます。国際情勢はどのような方向に向かうのでしょうか。その中で日本はどういう立ち位置を取るべきだとお考えですか。

小田原 私もその点には重大な関心を持っています。確かにメディアによれば、世界中がいわゆる「トランプ現象」に陥っているかのように報じられており、孤立化し、自国の利益を最優先にし、自分の国さえよければ、ほかの国はどうでもいいという主張をすればするほど、支持を得られる風潮が少し広がりつつあるということが感じられます。

政治家としての仕事の最も重要な部分は、国民が満足して生活できるようにすることだと思います。いわゆる「トランプ現象」の波及は、多くの人々が自身の生活に満足していないせいでしょう。貧富の格差がますます拡大し、自分の仕事がなくなり、思ったような生活ができていないと感じている人が大勢いる場合、自国の政治を変えるという人が出てくれば多くの人が迎合するでしょう。

確かに日本の経済成長は目標を達成できていないものの、私が毎朝仕事前に駅前に立って出勤してくる人たちにあいさつしている実感として、個人的にはこの1年間でみなさんの表情はかなり柔らかくなり、不満気ではなくなり、与党に対する不満もないように感じられます。

貧富の格差が生まれる原因はグローバル化でもなく、自由貿易でもないし、ましてや移民のせいでもありません。IMF(国際通貨基金)の調査では、技術革新が貧富の格差の最大の原因です。貧富の格差といいますが、国別の格差は縮小しています。先進国のスーパーリッチと普通の人たちとの格差が拡大しているにすぎません。それはIT化に乗り遅れたり、多くの工場でIT技術が人間に代わってきたことで、労働者の賃金が減少したせいです。

スイスのUBSの調査によると、自由貿易は必ず社会の富を増やすのです。しかし、最近1、2年間で自由貿易が衰退し、貿易額が減少した要因は、59%前後が先進国の需要が減っているからで、さらに30%が中国経済の減速によるものだということです。つまり、自由貿易とグローバル化は悪くないばかりでなく、積極的に推し進めるべきものなのです。

また、低成長の中で利益の分配もますます重要になっています。欧米やフィリピンなどでは、経営者が利益をほとんど持っていってしまう。しかし日本は違います。日産自動車のカルロス・ゴーンCEOの年俸は10億円ですが、売上も利益もはるかにしのぐトヨタ自動車の豊田社長は3.5億円です。日本では従業員に利益分配しますから、他の国に比べて人々は不満を持たないのです。

今後はその他の国々も孤立化を主張したり、自国の利益を最優先しようとする首脳が選挙で選ばれるかもしれません。しかし、グローバル化、自由貿易、自由な人の移動と資本の移動はこれからの経済成長を支える重要な枠組みですから、日本は自由貿易、私有財産の路線を歩み続けます。

 

米国は自由貿易から離脱しない

—— トランプ氏はTPPからの離脱を繰り返し強調しています。これは日本の経済に打撃を与えるのではないでしょうか。

小田原 まず、わが国はTPPを大変な苦労をしてまとめました。もともとはニュージーランド,シンガポール,ブルネイ,チリの4か国でつくろうとしていたのが、米国が参加することを踏まえ様々な議論を経て我が国も参加のプロセスを進めました。甘利前TPP担当大臣をはじめとする大勢の努力によって、日本はTPPの原署名国として世界でも最先端の自由貿易の枠組みの構築に関わることができました。

米国は自由貿易の恩恵を最も享受している国だといえますから、その国がTPPを離脱するとはとても思えません。もし米国がすべてのものを自給自足するのであれば、国にとって大変なコスト増になります。米国が中国からの輸入品に45%の関税をかければ、480万人の雇用が失われるというシンクタンクの試算もあります。ですから、トランプ氏がTPPを離脱を宣言したとしても、やはり自由貿易の枠組みに戻ってくると思います。

日本はTPPを国会で承認しており、TPPをリードする国でもあります。私はトランプ氏もこの重要性を理解し、真剣にTPP問題に向き合うと確信しています。

 

日中関係改善の切り口は人的交流

—— 今年10月までで中国人の訪日観光客は560万人となり、おそらく今年一年では700万人に達すると予測されています、今後、外務省、法務省は中国人観光客に対して門戸を広げる政策をとるのでしょうか。中国人観光客の増加は日本の地方経済に影響があると思われますか。

小田原 私もさらに多くの中国人観光客が日本に来てくれるよう望んでいます。一度日本に来てくれた観光客は日本のことを嫌いにならないと思います。日本にはユニークな文化が都市だけでなく地方にもありますので、リピーターも増えています。皆さんが日本に遊びに来て、日本をより深く体験してくれることを大変うれしく思っています。外務省も積極的な姿勢だと思います。日本の地方経済が活性化するためのチャンスですから。

私は8歳の時に政治家になりたいと思いました。なぜかというと、その年の9月に、田中角栄首相が訪中し,周恩来総理との間で日中国交正常化を実現しました。そして,その翌日,これを記念してパンダのランランとカンカンもやってきました。私と同世代の人たちは日中友好を喜びましたし、いつになっても両国民の友好の熱気が忘れられません。私の父は中国の奉天(瀋陽)の日本人居住地に住んでいましたので、中国にはずっと親近感を持っています。

中国は非常に大事な隣国ですから、現在は問題もありますが、それよりももっと大きなお互いへの期待と信頼があると思います。ですから、日中関係が引き続き悪化していくとは思えません。

 

—— では、日中関係改善への切り口はどこにあると思われますか。

小田原 やはり人と人の交流だと思います。私は子どもの頃米国に住んでいましたので、おそらく一生米国を嫌いにはならないでしょう。その体験により、私も今後もっと日中両国の人的交流がさらに拡大されることを願っています。

間もなく年が明け,中国におかれても1月末の春節を迎えて,新年となります。日中首脳間では,既に日中国交正常化45周年である2017年において,様々な協力・交流を深め,関係のさらなる改善に向けて努力していくことで一致しています。こうした中で,日中両国のより多くの国民の皆様が,観光や文化交流事業などを通じて,互いの理解を深め,私が8歳の頃に感じたような,日中の友好の熱気がより多くの人々に感じていただけるよう,私自身としても努力していきたいと考えます。

 

取材後記

取材終了後、慣例により揮毫をお願いしたところ、小田原氏は自身の座右の銘を中国語で、「我未得為木鶏」(われ、未だ木鶏たり得ず)と書いてくれた。出展は『荘子・達生篇』と『列子・黄帝篇』で、木彫りの鶏のように徳を得て超然と勝利するという境地にはまだ達していないという意味である。日本の政治家が中国古典を愛し、また勉強していることを垣間見ることができた。