野田 毅 衆議院議員・日中協会会長に聞く
日中の国民感情改善はメディアから

今年72歳になる野田議員は、日中友好七団体の一つである日中協会の会長を務めているだけでなく、自民党税制調査会長でもある。彼は自身を「どんな困難にも負けない」と評し、いかなる政治的環境でも日中友好事業の推進を続け、両国の政治上の相互信頼を強化している。小泉純一郎首相時代には、首相の靖国参拝と対中姿勢に反対を表明した与党の中でも数少ない「変わり者」であり、そのことによって孤立したこともある。10月19日、この「大物」政治家を訪ね、今後の中日関係のあり方などについて聞いた。

 

 

日中関係の改善は

できることから始める

―― 2012年は中日国交正常化40周年、13年は「中日平和友好条約」締結35周年の年に当り、本来ならばさらに友好を強化すべき時ですが、12年9月の島の「国有化」により両国関係は冷え込みました。この局面をどのように改善すべきと考えますか。

野田 現在のような情況については大変遺憾に思います。日中双方が努力して、迅速に両国関係を正常な軌道に戻してほしいと強く願っています。

現在の両国政府の関係は、国交正常化以来最悪の状態に陥っていると言ってもいいでしょう。両国の国民感情も大きな影響を受けています。この局面を打開するには、戦略的にやる必要があると思います。

“日中は和すれば利があり、戦えば双方が傷つく”ということ、また永遠に引っ越すことのできない隣人であり、仲良くしなければならないとわかるはずです。日中両国は共に具体的な行動を起こさなければなりません。

私個人としては、日中両国民は民間のそれぞれの分野で交流、協力し、両国関係を徐々に改善させていくべきだと考えています。もちろん、両国政府もそのためにさらに努力すべきです。

 

早く日中両国の首脳会談を

―― 先日、日本の文部科学大臣と中国文化部長の会談が行われました。これは安倍総理就任以来、初めての大臣級会談で、両国政府関係の改善の兆しと報道されました。

野田 日中両国はまさに相互に歩み寄り、チャンスを作っているところだと感じます。率直に言えば、日中両国の指導者は誠意を持って、日常的に顔を合わせるべきで、故意に避けていてはいけないと思います。まず会って、事態の悪化を食い止めてから、両国関係の改善について具体的な対話をすればいいのです。

日中両国は届かない距離ではなく、双方ともに事態のさらなる悪化を阻止したいと願っています。しかし、両国の指導者が会った後、日中関係が逆に悪化するという結果もあり得るでしょう。したがって、日本はもちろん中国も明確な保証があるという前提のもとで、両国の指導者会談を手配することを希望しています。

人と人とは、会えば会うほど、自然にお互いに信頼するようになります。ですから、日中両国の指導者はまず懸念を捨て、一度会ってから考えればいいと提言したいです。

 

政府の方針に配慮すると

共に民間友好を推進

―― 現在のように両国関係が悪化した情況で、日中協会はどのような役割を果たせるとお考えですか。

野田 長年にわたり日中協会は日本の立場を理解すると同時に、また全力で中国側の立場と心情を理解し、その理解の上で中国側の立場を日本国民に伝え、日中友好の重要性をPRし、民間の友好の環の拡大に努力してきました。

現在、日本には7つの日中友好団体がありますが、そのうち2つの団体の会長は自民党の現職の政治家が務めています。一つは私が会長を務める日中協会、もう一つは自民党の高村正彦副総裁が会長を務める日中友好議員連盟です。

私たちはその他の日中友好団体のように完全に自己の立場だけで発信するというよりも、政府の方針をよい方向に向けるよう配慮する必要があります。だからと言って、私たちの日中友好を促進するという願いは変わりません。

 

両国の国民感情の

改善はメディアから

―― 最近の世論調査でも、両国民の9割以上が相手に好感を持っていないという結果があります。両国の国民感情を改善する最も有効な方法は何でしょうか。

野田 直言を許していただければ、日中両国のメディアの報道、特にテレビが大きく両国の国民感情に影響を与えていると思います。もし、日本のテレビ番組が中国はでたらめだと報道していることを中国の庶民が知ったら、日本のメディアはやり過ぎだと感じるでしょう。逆もまた同じです。両国民はともに非常に善良ですが、いつも自分の悪口ばかり言っている人や国を好きにはなれないでしょう。

日中両国のメディアは十分にこの点を考慮して、もっと心温まるような報道をしていただきたいと思います。できれば、中国のメディアにもっと日本で多くの人びとが日中友好のために努力していることを報道していただきたい。同様に、日本のメディアも中国に対して好意的な報道をすべきです。

日中両国の国民感情の改善は、まずメディアから始めるべきだというのが 私の結論です。

 

消費増税は安倍政権に

マイナスではない

―― 竹下政権時に消費税3%が導入され、橋本政権時に5%に上がり、日本経済を減速させました。安倍総理は来年4月から消費税を8%に増税すると決めました。

野田 竹下政権時、日本で初めて消費税が導入され、国民は敏感に反応しましたが、竹下首相の辞任の直接の原因はリクルート事件でした。橋本首相の辞任も直接の原因は消費税ではありません。消費税に反対する人たちが故意に消費税のマイナスの影響について誇張したのです。

率直に申し上げて、ヨーロッパ諸国の消費税は最低でも15%で、最高25%、平均すると20%前後であり、日本は目下のところ5%です。以前、EUの駐日大使に、「なぜ日本の消費税を5%から8%、10%に上げることがそんなに難しいのですか」と聞かれたことがあります。彼らにとって、それは非常に不思議なことなのです。

消費増税は、自民党が責任を負わなければなりません。長年、自民党は政権の責任者として多くの政策を実行してきました。理屈の上では、国民の負担と受益は一体であるべきです。一定の社会保障を受けるためには相応の税金を納付して支えなければならず、国の借金に依るべきではありません。長年増税が順調に行えず、日本政府は国債の発行によって必要な歳出や社会保障を支えてきました。結果として、国民は「ただ飯」的な福利厚生に慣れてしまったのです。

―― 消費増税による安倍政権へのマイナス影響はないのでしょうか。

野田 マイナスの影響はないでしょう。国民も徐々に、社会保障には相応の負担が必要だということが分かってきました。政府が消費税の用途を制限することさえできれば、節約して有効に利用すれば、国民には受け入れられるでしょう。政府が増税分をどう使うかはっきりしないため、みんな反対しているのです。事実、増税分は社会保障という用途しかありません。増税と福祉は一体なのです。この考え方を国民の間によく浸透させなければ、増税に対する国民の理解と支持を促進することはできません。

1999年には政府の予算決議の中で、消費税はすべて高齢者のための経費、つまり年金、医療、介護に使うと規定しました。私自身がこの規定の提案者です。財源の支えがない中で社会保障を拡大すれば、必ず破綻します。ですから、増税が必要なのです。ただし、その増税分は社会保障にしか使えません。

実際には小泉純一郎首相の在任中に、消費税増税をしなければならなかった。靖国神社参拝問題よりも、優先して実行しなければならなかったのです。

もし実行していたなら、日本の負債情況と財政情況は現在のようにはならなかった。日本政府は政策決定において、さらに経済上の自由度を持てたのです。これは私がずっと主張してきたことです。

結局、民主党政権下で消費増税法案が提出されました。民主党は野党の時には消費増税に反対していましたが、与党としての責任を持って批判をおそれず、党益よりも国益を考慮しました。ですから、野田前首相は日本の内政問題においては、大したものだと思います。

できれば昨年8月の「消費税増税法案」の成立後、総選挙を行うべきだった。そうすれば、島の「国有化」問題も起きなかったし、自民党総裁は谷垣禎一氏のままでした。でも、今言ってももう遅い、覆水盆に返らず、です。

 

中国の税制に対する提案

―― 日本は世界一の少子高齢化大国となり、政府は持続可能な社会保障制度を確立するために、社会保障と税の一体化改革を行おうとしています。今後、中国も高齢化の危機に直面しますが、日本の税制に学ぶべき点はありますか。

野田 単刀直入に言わせていただければ、私の見たところ、中国は日本の税制だけでなく、さらに日本の執行方法も学ぶべきです。

日本の国税機構の人事については、国税庁長官が一手にその権力を行使しており、地方自治体はまったく関わることはできません。これは最も基本的なことで、最も重要なことです。このようにすることで、執行時の公正性が保てるのです。

中国は地方政府の権力が強いので、上納性の税制を採っています。これはよくないと思います。税金問題は、制度上の公正を保つだけでなく、執行上の公正も保つ必要があります。税制と執行がともに公平、公正であれば、所得税、相続税などの直接税の徴収業務は順調に行えます。これが、現在中国政府が直面している税収問題について提言したいことです。

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取材後記:インタビューを終え、野田議員は「背私向公」と揮毫してくれた。この四文字を見ると、与党の幹部でありながら、民主党前政権を一定程度肯定する発言もあったことが一層理解できた。野田議員の執務室には10月3日の誕生日に程永華駐日大使から送られた花かごが置かれていた。これも中日友好事業に従事していることを肯定するものに違いない。