上田 勇 衆議院議員に聞く
日中韓FTAの早期締結を

公明党は戦後日本で唯一、一貫して中国に対して友好的態度をとってきた政党として知られている。終戦以来、中日間に起こった記憶に残る出来事の背後には、常に公明党の舞台裏での英雄的働きがあった。公明党は今日、連立政権の一翼を担う政党として、かつてないほど発言権を強めている。8月9日、かつて、胡錦涛元総書記や唐家?元国務委員とも接見し、公明党中央幹事を務める上田勇氏にインタビューを行った。

 

 

中国は早期に

TPPに加入すべき

―― これまで財務副大臣、衆議院経済産業委員長を歴任されていますが、アジア太平洋地域での新しい貿易ルールの確立をはかる上で、中国とはどのような経済連携が必要だと考えますか。

上田 中国はアジア最大の経済大国ですから、第二位の日本との貿易・投資の関係強化は、両国にとってだけでなくアジア、ひいては世界全体にとって有益だと思っています。両国間ではすでに貿易は盛んになっていますし、投資もかなり増えてきています。こういった関係を引き続き築いていくことが重要です。中国はまだTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に加入していませんが、アジア地域の主な国々との間でできるだけ障壁をなくそうという議論が始まっています。日中韓の間ではFTA(自由貿易協定)協議も始まっており、近い将来には中国にもTPPへの参加を検討してもらうことを期待しています。

 

日中韓はFTA締結を

急ぐべき

―― アメリカと日本は中国を経済圏から排斥しようとしているとの報道もあります。

上田 中国の経済システムがWTO(世界貿易機関)の体制に入ってまだ期間が浅いですから、中国国内の様々な制度や法律がまだ準備段階という面は否めません。中国は大国であるがゆえに時間も必要でしょう。比較的早い時期にWTOに加盟し、自由貿易、自由経済の環境に適合してきた国々で、まず協定を結び、拡大していけばよいと考えています。

中国を排斥しようとしているという見方は当たらないと思います。中国はASEAN(東南アジア諸国連合)との間ではACFTA(中国ASEAN自由貿易協定)が結ばれており、中日韓ではFTA交渉が進められています。FTAの早期締結を希望しています。

 

エネルギー政策は

日中共通の課題

―― 上田議員は東大卒業後、農水省に入省され、アメリカでMBAも取得された“経済通”でいらっしゃいます。今後、日本は安価な天然ガスやレアメタルなど、資源の安定供給を確保しなければなりません。アメリカの「シェールガス革命」が日本経済に与える影響をどう考えますか。

上田 これは日中両国が直面する問題です。日本は基本的にエネルギーを海外からの輸入に依存しています。現在、原油や天然ガスの値段が高騰していますから、日本経済に与えるマイナスの影響はかなり大きいです。ですから、出来る限りエネルギーの輸入を分散化、多様化していく必要があります。

アメリカのシェールガスの技術が進んできたことは、世界全体の需給バランスの緩和にも役立つと思いますし、日本にとっても、ずっと中東に依存しているエネルギーのリスクを分散できるという意味でメリットがあるのではないかと感じています。

今、安倍内閣は日本経済再生に向けて、「3本の矢」のうち3本目の矢である成長戦略――「日本再興戦略」を打ち出し、最優先課題として取り組んでいます。

日本経済は世界経済とともに成長していかなければなりません。中国やアジアの新興国家とともに成長していかなければ、日本経済は縮小していってしまいます。そのカギは、日本の経済・社会が世界に開かれたシステムになれるかどうかです。安倍内閣の成長戦略でも、海外からの日本への直接投資を倍増させようとしています。また、海外からの優秀な人材がもっと日本で活躍できるチャンスを与えるべきとも提案しています。

 

両国の民間交流が一層重要に

―― 現在の芳しくない日中関係をいかに再構築していくべきでしょうか。青少年交流や文化交流によって関係改善をはかることは可能だと考えますか。

上田 言論NPO主催の北京―東京フォーラムには、北京と東京でそれぞれ1回づつ参加したことがあります。政治家と民間の有識者が意見を交換する重要な場でしたので、今年のフォーラムが延期されたことは大変残念です。

最近の世論調査では、日中両国民のお互いに対する感情はよくないという結果になっていますが、お互いに両国関係は大事で、改善させなければならないと考えています。ところが、政府間交渉になると政治・外交問題が表に出てきて、なかなか話が進まないということもあります。だからこそ民間交流がますます重要になってくるということです。

党としても今秋、若手議員による訪中団を計画しています。青少年レベルでの交流を後押ししなければなりません。本日午前に北京理工大学からの留学生たちが国会見学に来たのですが、日本に関心を持ち、日本のことを勉強している若い人たちにはこうした機会を増やすことが重要ですし、中国側も中国に関心を持つ日本の学生たちに交流の機会を拡大していくべきと思います。

かつて南開大学の日本研究センターを訪問したことがあります。非常にレベルの高い日本研究をやられています。日本に関心を持って研究されている方々を、政府だけでなく民間レベルでも支援できる体制がつくれれば、もっと日中間の相互理解が深まるのではないかと考えています。

 

より一層の

都市インフラ整備を

―― これまで中国には何回行かれましたか。印象深いことは何ですか。

上田 5、6回行っていますが、毎回行くたびに風景が変わっており発展ぶりに驚きます。これから中国が直面する問題は、都市インフラ整備ではないでしょうか。上下水道の敷設やゴミ処理問題など、経済発展に比べて遅れている感があります。交通網はだいぶ整備されてきましたが、産業の集中化に伴い人口も集中し、見直しが迫られています。日本がかつてそうであったように都市問題は非常に深刻です。

編集後記:インタビューを終えて、上田勇氏が色紙に記した「源遠長流」の四文字を見て、公明党が1971年6月と72年6月に訪中し、日中国交正常化への道筋をつけたことを思い起こした。国交正常化が成ってからも、公明党は常に両国政府間の橋渡し役を担ってきた。「源遠長流」の四文字は正に公明党と中国共産党との40年以上にわたる友誼を象徴しているかのようである。