海江田 万里 民主党代表に聞く
自民党の「復古型憲法」制定に反対

「敗軍の将は以って勇を言うべからず」。8月7日に衆議院議員、民主党代表である海江田万里氏のオフィスに足を踏み入れながら、事前にファクスしたインタビューの質問にどう答えていただけるのだろうかと考えていた。7月の参議院選挙が終わったばかりの海江田代表は、選挙期間中に各地を回り真っ黒に日焼けした痕跡をとどめた顔に、やや疲れが見えた。とはいえ、やはり弁舌はさわやかであった。

 

―― 代表は中国では「親中派」の政治家としてよく知られていますが、それについてはどう思われますか。

海江田 今、日中関係はまさに微妙な時期にあります。重要なのは、皆で今後の日中関係の再構築についてその方法を考えることです。

世論調査では、日中両国の9割の国民が相手に好感を持っていないという結果が出ています。これが日中両国の現状です。こうした現状に満足している人はごく少数で、ほとんどの人は、現在は好感を持っていないにしろ、できるなら仲良く付き合っていくべきだと考えていると思います。ですから、私も努力しなければなりません。政治家に「親中派」や「反中派」のレッテルを貼るやり方は、意味がないだけでなく、弊害をもたらします。

―― 代表に就任されて8カ月になりますが、訪中の予定はありますか。

海江田 条件が整った後に訪中するつもりです。条件とは、民主党内の人心の一致です。昨日、党内の参議院幹部が決まりました。この1カ月間で参議院選挙の総括をしました。私はこれにより民主党内の人心が一つになるよう願っています。この仕事をやり終えたら中国を訪問します。

―― 民主党が与党だった3年間、いろいろなことが起きました。特に民主党三人目の首相である野田佳彦前首相は、釣魚島を国有化して日中関係の悪化を招きましたが、この問題はどのように解決すべきだとお考えですか。

海江田 野田前首相の政権当時、確かに尖閣諸島(中国では釣魚島、以下同じ)の国有化問題が発生しました。しかし、民主党政権時代に日中関係が悪化し始めたのは、菅直人元首相の政権当時に発生した中国漁船衝突事件からです。当時、中国の漁船が尖閣諸島の領海域に進入し、海上保安庁は日本の法律に則って逮捕したのです。私は日中関係の悪化はこの事件から始まったと思います。

民主党政権からすると、この事件の発生後に両国の首脳会談が行われなかったこと、会談によって解決方法を探れなかったことが、その後の日中関係の悪化を招いたといえます。

歴史認識問題について民主党政権の態度は一貫して明確でしたが、当時はうまく処理できませんでした。それはなぜなのか、この問題について民主党では今後もさらに検討を重ねたいと思います。

―― 民主党の三人の創立者のうち、小沢一郎氏と鳩山由紀夫氏は離党し、菅直人氏も近々党内処分を受けますが、処分が厳しすぎるのではないか、党の再生をはかれるのか、という世論の声もあります。

海江田 中国共産党の初期の歴史を見れば、お分かりになると思いますが、当時も似たようなことが起きていたのではないでしょうか。政治の世界には、「失脚」することもあれば、「復活」することもあるのです。

しかし、私はどんな情況でも民主党の原点を忘れてはならないと思います。民主党は自民党政権とは違います。自民党は日本の財界や大きな各団体に依存していますが、われわれは労働者、消費者など一人一人の自立した市民をよりどころとしています。

また、日本国憲法を一字一句変えることを許さないというのではなく、平和主義、主権在民、基本的人権の尊重という三点は、守り抜く必要があります。この点でわれわれ民主党と自民党とは基本的な考え方が違います。自民党が制定しようとしているのは「復古型」の憲法なのです。

このことから見ても、民主党は日本の国に必要なのです。ですから、私は今、民主党を再生させようと頑張っているのです。

―― 日本のメディアは、自民党政権は長期政権になるのではないかと予測しています。しかし、周辺諸国はもちろん日本国内でも、自民党の改憲問題、歴史認識問題、靖国参拝などには憂慮を示しています。

海江田 日本とアジア諸国との関係は非常に重要です。しかし、隣国間では論争が生じやすいものです。民主党は、尖閣諸島は日本固有の領土であると考えています。そして、日本の領海、領土を堅守する立場にあります。同時に、日本と中国とがそれが原因で武力衝突を起こすようなことは絶対にあってはならないと考えています。

現在、中国軍と日本の防衛省との間には直通のホットラインがありません。双方ともにホットライン設置の必要性を認識してはいても、現状ではまだ難しいでしょう。私はホットラインを迅速に、一日も早く設置する必要があると考えます。

歴史認識問題について、安倍首相は戦後の国際秩序を戦前に戻そうとしています。これはアジア諸国に限らず、国際社会全体が認めないでしよう。戦後体制を変えるより、むしろ歴史に学び、未来を見つめ、新しい未来を創造することが大切です。歴史は変えられませんが、未来は創造できます。われわれがすべきことはこの分野での努力です。

日中両国間のあの戦争が侵略戦争ではないなんて、中国の東北地方に行きさえすれば、一日でわかることです。

―― 民主党は靖国神社参拝について、どのような態度をとっていますか。

海江田 私も閣僚をつとめた菅直人政権時代に「8月15日」を迎えましたが、当時の閣僚のなかには一人も靖国神社に参拝した者はいませんでした。これは誰もが認める事実です。当時、党内では参拝を禁じる規定はありませんでしたが、閣僚たちは自身の判断で行かないことを決めたのです。

―― 最近、アニメの宮崎駿監督が「日本は経済問題ばかり重視し、歴史問題を軽視している」、「慰安婦問題を解決し、中国と韓国に謝罪すべき」、「東アジア地域の国々は仲良くすべき」などと発言しました。

海江田 「東アジア地域の国々は仲良くすべき」というのはその通りで、私も同じ意見です。しかし、「日本は経済問題ばかり重視し、歴史問題を軽視している」という意見には賛成できかねます。

歴史問題の処理について、日中両国が取ってきた態度には大きな違いがあります。日本人は「過去のことは水に流す」という傾向にあります。日本人同士がケンカをした後にもこの言葉がよく使われ、握手をして仲直りします。しかし、中国人は歴史を重視します。司馬遷にしても、たとえ宮刑を受けても歴史を記録することにこだわりました。ここから、日本人と中国人の歴史問題に対する態度がまったく違うことが分かります。

日本人と中国人は、外見はよく似ていて、同じ漢字を使い、すぐに友達になれますが、両国の歴史や文化は異なります。私たちは欧米人と接する時にはお互いの違いを意識して、共通点を探し、「小異は残して大同を求める」のです。

しかし、中国では小異を残したうえで大同を求めますが、日本では小異を捨てて大同を求めるのです。ここからも、日本と中国の違いが分かります。

日中両国が付き合うときには、お互いに違う国だということをはっきり認識し、そのうえで共通の利益を追求すべきです。ですから、私は歴史問題と経済問題を同列に扱うことには“不同意”(中国語で発音、「反対」の意味)です。

たとえ日中両国の歴史認識が一致したとしても、両国の各分野での関係が順調に発展するわけではないと思います。日本と中国とはもともと歴史に対する態度が違うからです。

―― 今、日本は「アベノミクス」を、中国は「経済の軟着陸」を掲げており、国際社会も中日両国の経済発展に注目しています。以前、経済産業大臣を担当された民主党内の「経済政策通」として、日中両国のこれからの経済発展をどのように予測されますか。

海江田 中国経済は大変な時期にあると思いますが、中国は自らのやり方で解決するでしょう。

私個人としては、中国は依然として外資の誘致が必要であり、日本はそれを提供できると考えています。ですから、日中両国はできるだけ早く関係を安定させ、安定した政権下で投資と経済交流を進め、国民の生活レベルが向上することを願っています。これは日中両国にとって有益なことで、そのために両国が努力する必要があります。

中国で反日デモが発生したため、多くの日本企業が中国から撤退しつつあり、そういった日系企業の中国人従業員は失業に直面しています。これは日中両国に損失を与えています。こうした事態を避けるために、日中両国には安定した関係が必要です。

政治の影響を受けて、日本企業の中国市場への進出の歩みは止まっています。今後、中国に進出する企業は減るかもしれません。このような情況は日中両国にとって不利です。私は中国もできるだけ努力して、外資企業が安心できる環境を作っていただきたいと思います。中国もこの点を分かっていると信じています。

                       

海江田氏が一人の政治家、経済学者であるだけでなく、書家でもあり、漢詩の愛好者でもあるので、インタビューが終わってから揮毫をお願いした。その時、氏は「書いたものがあります。私が大変好きな魯迅先生の言葉ですよ」と、“多数の人々の指弾に敢然と対抗し、一方子供のためには首を下げて喜んで牛のまねをする”(大勢の敵の攻撃には敢然と立ち向かい、人民大衆のためなら喜んでその役に立ちたい)と書かれた色紙を持ってきてくれた。「この言葉は今の私の心境そのものです」。