富田茂之 公明党衆議院議員・元財務副大臣を訪ねて
新華僑・新華人の子弟のために学校をつくる

政権交代が絶えず、変化の多い日本の政界で、富田茂之氏は日中友好を推進している国会議員である。中国を11回も訪問し、狭西省の農村教育を支援している。6月19日、衆議院議員会館で富田氏をインタビューした。

いま重要なのは中国の人脈をつくること

―― 今年は日中国交正常化40周年ですが、現在、日中両国は経済面では交流が進んでいますが、政治面での摩擦が絶えません。この問題をどのように見ていますか。今後、どのようなことを改善すればよいですか。

富田 2010年に「尖閣問題」が起こりました。民主党の対応がうまくいかずに、どんどん問題が大きくなりました。

これまでの自民党政権下であれば、中国漁船をだ捕するようなことはないはずで、あれほど大きな問題にはならなかったでしょう。自民党は中国の各方面と築いた人脈を大事にしていますし、両国政府間でそれなりの交流があります。しかし、民主党にはこういうことがないのは残念です。

日本にとっては、長年培ってきた中国との人脈は重要です。長老の政治家たちが政界を引退していくと、有力な中国との人脈がなくなっていきます。ちょうど中国の政治家もどんどん若返っていくときです。こういうときに、人脈をつくっておくべきで、一緒に食事したり酒を飲んだり、お互いによく理解している人脈をつくることが大切なのです。

この関係がないと、両国の政治家たちはお互いの利益を主張し関係がぎくしゃくします。それをほぐすのが人脈で、それまでに培った人間関係だと思います。

 

石原氏が中国を挑発するのは知恵がない

―― 最近、「釣魚島問題」がエスカレートしていますが、どのように見ていますか。

富田 かつて公明党の訪中団が行った時に、周総理は「そういう問題は後世に譲るべきです」と話されました。その後の中国の要人のみなさんも同じ立場です。しかし、日本の一部の政治家が問題をこういうふうにしてしまったのは、知恵がないなと感じます。

石原さんは故意に中国を挑発するような発言していますが、彼なりのアピールでしょう。ことさら問題をあおって、両国の「棘(とげ)」みたいにするのは良くないと思います。

―― この問題はどのように解決すべきでしょうか。

富田 東京都が購入するというのもおかしな話です。石原氏は、税金を使わず、寄付金だけでも購入できると話しています。もし購入するのなら国が購入すべきです。東京都という一地方自治体が中国に挑戦しようというのは、賢いやり方ではないと思います。

日本政府は、日本固有の領土で、領土問題は存在しないと明言しています。しかし、事件が起きた現場ではまた別のことです。2010年の「漁船衝突事件」では、中国漁船は魚の群を追って日本の領海に入ってきたようですから、漁民の皆さんにとっては必死だったと思います。

今後、どう対応していくかについて、現場の智恵を出せるのではないかと思います。「尖閣諸島」は日本の海上保安庁の所管範囲なので、日本政府は海上保安庁の職員が危険な目に遭わないように注意する必要があります。その海域でまた問題が起きたら、現場でも対応に注意して、事態が悪化しないようにすべきです。

国会でも上述の問題を議論して、環境整備(ルールづくり)をしておくべきです。何もルールがないまま、現場の人に解決を委ねるようではだめです。

 

新華僑新華人の子弟のために学校を

―― 日中両国は今年を「日中国民交流友好年」としましたが、こうした活動は日中国交正常化後、初めてのことです。公明党はどういう活動を計画していますか。

富田 現在、日本には新華僑の方が68万人、新華人の方も多く、100万人程の中国人が住んでいます。そのお子さんたちが中国語を学べる学校が余りにも少ない。中国の友人の話しでは、お子さんを日本人学校に通わせているということです。そうすると、子どもは日本語でお父さん、お母さんとは話しが通じて問題がないのですが、中国のおじいちゃん、おばあちゃんとは中国語で言葉が通じないそうです。これは家庭としては良くないことで、多文化共存からも良いことではありません。そこで、インターナショナル形式で中国人学校をつくれないかと考えて、準備しています。

具体的には、都内の小・中学校の空いている教室を貸していただき、2014年の春に開校できるよう準備をしているところです。

日中国交正常化30周年の年に、自民党の野中広務先生らがこれと同様の計画をされましたが、校長の人選で問題があって中断してしまいました。その後、日中国交正常化40周年の際に、ふたたび提起されて、なんとか実現しようということになったのです。発起人は自民党の加藤紘一先生、民主党の江田五月先生、公明党の太田昭宏元代表で、私の事務所もお手伝いしています。程永華駐日中国大使にこの計画をご報告したところ、全面的に応援するといってくださいました。

現在、千葉にすべて英語で授業を行っているインターナショナルスクールがあります。それと同じような形で、中国語で授業を行う学校をつくります。小中学校の卒業証書を取得できます。また、中国人の先生を募集し、先生には特別の教員免許がもらえるようにします。東京都では10年の教員免許がもらえます。

日中正常化40年で始めた事業として、実現できれば良いと願っています。今後の50周年、60周年に向けて、新華僑、新華人の子弟のために学校をつくり教育に寄与することになると考えています。

 

過激な日本人を気にせずに

―― かつて日中両国は互いの国民性に好感を抱いていましたが、日中正常化40周年の現在、互いの国民感情が悪くなっているように感じますが、この問題についてどのように見ていますか。

富田 現在はネット社会です。一つの小さな意見でも故意に変な形で流布していきす。昔は中国に行く日本人は良質の人が多かったので、中国の日本人に対する印象が良かったのですが、今では誰でも中国へ行けるようになり、誰でもネットで意見が言えます。ここが新しい社会構造の中で怖い部分です。正しいことをきちんと伝えていかないと、間違った形のメッセージが流れてしまうので、日本としても注意しなければなりません。

もちろん、偏った意見を持った人はどこの国にもいます。そうした偏った意見が日本人の主流でないことを、中国の人には理解してもらいたいです。

 

民主党のやり方は幼稚園児のサッカー

―― 安倍内閣時代に財務副大臣を務めていますが、安倍内閣の対中政策と民主党の政策とはどこが違いますか。

富田 安倍元総理は「台湾派」と見られていますが、総理になった時は、中国との関係をきちんと処理したと思います。

民主党にはどうしたいという「定見」がありません。何か起こると、議員全体が一つの方向に向かっていきます。まるで幼稚園のサッカーのような感じで、ボールを見ると、ぼくが、わたしがシュートするんだと直進して、誰も守らず、敵の戦略も考えていないのです。民主党の中にはいい議員もたくさんいますが、経験不足なのに前に出たがりの議員が多いという印象を持っています。

 

橋下氏と石原氏は日本の政局に影響

―― 民主党は自民党、公明党と3党合意を経て、国会での消費税増税案の通過に際し、協力することになりましたが、政局はどこに向かうと思いますか。

富田 前回の選挙では、民主党に一度任せてみようという選挙でした。ですから、公明党が何を言っても、国民の理解が得られませんでした。民主党の政策は絵に描いた餅です。国民が自民党も公明党もダメだったので、1回は民主党にやらせてみようという選挙でした。

では、民主党政権後はどうだったのか。ダメでした。しかし、国民はまた自民党政権に戻したいとは思っていないようです。自民党もダメ、民主党もダメ、ということで、橋下大阪市長の人気につながっているのです。

石原都知事は少し「右寄り」ですが、固定したファンがいます。今後、橋下さんや石原さんたちがどういう政党の「枠組み」で次の選挙に出てくるかで、政局は変化していくと思います。

橋下さんは国家観というものを語らず、国民受けするようなことしか言ってません。いろいろなテーマごとのブレーンを持っていて、その人の言うところに乗っていく。タレントとしての素養も多いです。

政界再編まで突き進むかどうかは分かりませんが、今の枠組みでは政治は動きません。次の衆議院選挙、参議院選挙を経ても今の国会の「ねじれ」は変えられません。「枠組み」を変えて「ねじれ」を解消するしかないと思います。