谷垣 禎一 衆議院議員(自民党総裁)
日中双方は両国関係の改善に努力を

自民党本部に入ると、1階ロビーに歴代首相の大きなカラー写真が掛けてある。政権を担った自民党総裁の面々である。2009年6月に在野13年の民主党が政権を取った。そして、自民党は野党になった。これらの写真は、かつての輝かしい歴史を物語っているだけでなく、臥薪嘗胆して地位を奪回するよう鼓舞しているかのように見えなくもない。そんな思いに駆られながら、谷垣禎一自民党総裁に単独インタビューを行った。

 

自民党は反省し政権奪回の努力を

 ―― 自民党が野党になってから自民党総裁を務めていらっしゃいますが、自民党の現状に対する認識についてお聞かせ下さい。また、自民党は野党になって以降、「無気力感」が漂っているとの見方がありますが、この点についてはいかがですか。そして、自民党はどうすれば政権を奪回できると考えていますか。

 谷垣 自由民主党は1955年の結党以来2年前に下野するまで、10ヵ月間だけ野党の時期がありましたが、半世紀以上にわたって政権を担ってきました。第2次世界大戦以後、日本の復興が最大の課題であり、国の再建が当時の自民党の最大の任務でした。そして、自民党は経済の高度成長をやり遂げ、日本を世界の経済大国にしたのです。

今、自民党は野党になりましたが、それにはいくつか理由があります。一つの政党が政権に長く就くと、多くのことが順調にいかなくなるものです。また、高齢化が進み人口減少過程も始まり、高成長した経済も停滞してきました。自民党がこうした状況にうまく対応できなかったのも理由の一つです。

2年前に野党になってから我々は反省を続けていますが、自民党はまだその使命を終えていないと思っています。今後の日本の発展にとって、またすべての日本国民にとっても、自民党は力を発揮できる政党です。多くの国民にこのことを理解してもらい、自民党にもう一度政権をとらせていただきたいと考えています。

先日、アメリカから若い政治家がやって来た時に、自民党と民主党はどう違うのかと聞かれました。私はこう答えました。「民主党という政党は、自民党に取って代わって政権を握ること自体を存在意義としているが、その政策を明確に示していないことに問題がある」と。

前回の選挙で党内の優秀な若い議員がたくさん落選してしまいました。彼らは選挙の地盤が弱い。今後は若い人の選挙活動対策にもっと取り組まなければならないと考えています。

しかし、現状を我々は悲観していません。自民党は必ず政権を取り返します。

 

首相の短期交替は国際的イメージの損失

―― 2009年に民主党が政権を担って以降、首相が3人も代わりました。民主党は首相の任期が短い長期政権になるといわれていますが、どのように思われますか。

谷垣 これは日本の政治の欠点ですね。2006年に小泉さんが首相を退いてから、自民党と民主党を会わせて5人も首相が代わっています。野田佳彦さんは6人目です。民主党政権では首相が何回も替わることが指摘されていますが、自民党も同じです。こうなると日本の国際的なイメージが良くありません。国際会議の出席とか国際交渉を進めていく際に、その都度人が変わったのでは、互いに情況が理解できず、物事を円満に解決することができません。

また、こうしたことは政府の政策としても継続性を欠きます。企業が今後の事業目標を立てるのにも影響を与えます。特に外国企業が日本に投資を考えていても、こうした状態を見て日本は安定していないと思えば、投資を取りやめてしまうでしょう。

民主党も長期政権を望んでいると思いますが、これまでの3人の首相の政策、方向はバラバラで、自民党には及びません。長期政権を保つのは容易なことではありません。我々の目標は民主党に長期政権をとらせないように努力することです。   

 

日中関係の変化国民意識の変化

―― 民主党政権後の中日関係は自民党政権の時より悪化しているような気がします。来年は中日国交正常化40周年ですが、こうした中日関係の後退をどう見ていますか。自民党の対中政策と民主党とはどう違いますか。

谷垣 民主党が最終的にどのような中国政策をとるのか、私はいまだに分かりません。日中関係が以前より悪くなったのは、中国にも日本にも責任があると私は思っています。日本経済が飛躍的に発展し、特に国民生活が絶えず改善されていた頃、日本人の心にはゆとりがあり、寛容というものがありました。

しかし、この20年来、日本経済が停滞してきたのに、中国の発展は非常に速く、日本人の寛容の心もだんだん薄れていきました。

中国を見ますと、経済が高成長し、多くの中国人が国の発展を誇りとし、国際社会で自国を主張する機会も増えてきました。これが日中関係が変化してきた要因の一つです。日中関係を調整するにあたって、こうしたことを考慮すべきだと思います。

自民党の対中政策ははっきりしています。日本とアメリカは同盟国で、日本外交の基軸は日米関係にありますが、日中関係は非常に重要な二カ国間関係で、戦略的互恵関係をつくらなければなりません。民主党政権の鳩山由紀夫元首相は日米中の正三角形関係を提案したことがあります。その後、東アジア共同体構想を提案しました。管直人首相、野田佳彦首相の対中国政策はぼやけていて、はっきりしません。

 

中国人による日本で不動産購入

―― 統計をみますと、今年上半期の中日貿易総額は1631億5000万ドルに達し、史上最高を記録しました。両国の経済関係は益々緊密になっている中、中国企業の日本への投資や、中国人が日本の不動産を購入することについて、日本の一部メディアは否定的に報道していますが、この点についてどう思われますか。

谷垣 中国の経済発展は速いスピードを進んでいます。日中両国の経済関係が緊密になる中で、良好な関係を築かなければなりません。では、経済交流は良好なのに、なぜ政治面ではトラブルが起きるのか。その原因の一つは、現在の民主党には中国政府との人脈や対話のルートが未だ形成されていないことです。

中国の投資家が日本で不動産を購入することに関して、資本主義の経済市場では、不動産に関わらず売買は原則自由です。今日の中国のように、経済が飛躍的に発展し、海外で不動産を購入することは、日本でもありました。

 

 

日本の政治家は中国古典文学の修養が必要

―― 日本の政治家の中でも、谷垣総裁は中国の古典文学への造詣が深いようですね。中国の古典文学が政治生活に与えた影響について教えてください。

谷垣 中国の方にこのことを話題にされると、恥ずかしい限りです。私は大学で法律学を学びました。100年ほど前の裁判所の判決文を読まなければならないことがありましたが、当時の判決文は漢字が多く使われていて、今の若い人には読みづらいものです。

日本には源氏物語などのかな文字の文芸や伝統がありますが、一方で中国の四書五経を読み、詩を作るのがたしなみとされてきました。100年前の判決文などもその流れの中で書かれています。

数百年あるいは千年の単位で日本の歴史や文化について語るなら、中国の古典文学が分からなければ語れない。日本の政治家として、中国の古典文学は修養になると考えています。