張 嘉樹 四国華僑華人連合会会長
祖国、従業員と共に成長する在日華商

「四国に、日本の造船業界に名を馳せる華人企業家がいる!」この情報を耳にした瞬間、日本で40年近くメディアの仕事に携わってきた記者は、取材したいという衝動に駆られた。歴史を振り返れば、日本の近代文明への歩みは、造船業の勃興と切り離すことはできない。150年以上にわたって、日本の造船業は世界市場で重要な位置を占めてきた。その人物にはどのような物語があったのだろうか。

造船業を足掛かりに

1998年、香川大学大学院を修了した張嘉樹は、カセイ物産有限会社を創業した。中国の改革開放政策の実施から20年目の年であった。張嘉樹は言う。「華僑は常に、中国国内の大きな変化を感じ取ることができます。変化はチャンスです。中国から海外へ、海外から中国へと、改革開放の継続的な深化は、華商にとっての架け橋となりました!」

張嘉樹は、華人企業家としての鋭い洞察力をもつ。彼は2000年以降、日本最大の造船会社である今治造船株式会社との提携を徐々に強めていった。中国・大連に加工拠点を設け、日本の大手鉄鋼会社から出荷された鋼板を切断・組み立て後、船体の形で日本に輸出した。彼は、経済改革とは利益の結合であり、中国の労働力および一次加工におけるメリットと、日本企業と市場のニーズが結合した時、奇跡が起きると考えている。

記者が感嘆したのは、張嘉樹の利益を最優先としない姿勢であった。2013年、彼は新たな挑戦を開始し、中欧商学院で学んだ。中欧商学院は、中国による学びのプラットフォームであると同時に、華商人材が集う場でもある。そこに集う華商たちとの交流を通して、張嘉樹は経済発展のトレンドを鋭敏にキャッチし、AIロボットとクリーンエネルギーの分野に目を向けた。2011年の3·11東日本大震災以降、日本はクリーンエネルギーの推進に大きく舵を切った。彼はクリーンエネルギー市場に参入し、これまでに、中四国に多数の太陽光発電所を建設している。

張嘉樹は興奮気味に語った。「当時、中国の造船産業が世界の造船市場に占める割合は、わずか5%でしたが、20年が経過し、35%を占めるに至りました。祖国の造船業発展に、わずかながらも貢献することができ、誇りと達成感で一杯です」。2人で創業したカセイグループは、今や4000名の従業員を擁する大企業へと発展した。創業からの20年は、正に、華商が、中国のパワーとスピードによって成長を続けてきたことの確かな証明である。祖国の発展が華商の発展をもたらすというのは、決して絵空事ではない。

従業員の未来を保障し企業の礎を築く

張嘉樹が最も大事にしているのは、商品ではなく、人である。外国人技能実習生制度を利用して、数多くの中国人従業員が技能実習生として日本で働いている。毎年、研修を終え、技術を身に着けて母国へ帰った研修生から、管理職に就く者がいる。中でも優秀な人材は主任や副工場長に就き、毎年、新鮮な血液が補充されている。張嘉樹とカセイグループは、従業員に対して、報酬だけでなく、確かな未来も約束している。

日本で、外国人技能実習生制度の改革が行われた際には、「華僑企業モデル」として、カセイグループが取り上げられた。中国駐日本大使館の商務参事官や中国駐大阪総領事らが、何度も雇用状況の視察に訪れ、その成功体験は多くの企業で採用された。

2020年3月末、研修を終えた技能実習生たちは帰国することになったが、感染症拡大の影響で多くのフライトが相次ぎ欠航となった。この重大な局面で、中国駐大阪総領事館が航空便を手配し、彼らは無事に帰国の途に就いた。

上海―高松便の就航を後押し義援活動で社会貢献

四国華僑華人連合会は、2006年に設立され、香川県に本部を置く。外務大臣として、1972年の中日国交正常化に携わった大平正芳氏は、香川県出身である。大平正芳氏は首相に就任すると、その後40年続く対中政府開発援助(ODA)を開始した。今日に至るまで、この地には純朴な「親中」感情が息づいている。

香川県は観光業で地域経済の促進を図る「観光立県」を標榜している。中国駐大阪総領事館の強力な支援と四国華僑華人連合会の協力の下、香川県は、中国春秋航空の上海―高松便を就航させた。京阪地域から遠く離れた香川県は、中国経済の中心地・上海と空路で結ばれたことで、観光地としての魅力、世界への影響力、都市のイメージを大きく高めた。

2011年3月11日午後、東日本大震災が発生し、地震発生のわずか二時間後、張嘉樹は四国華僑華人連合会と共に、50万円の義援金を高松赤十字会に送った。この50万円については、永らく日本人の間でも話題にされてきたが、日本政府の統計によると、地震発生後、最初に被災地に寄せられた義援金であった。

2020年、祖国がコロナ禍に見舞われた際には、四国華僑華人連合会は再び迅速に行動を起こし、感染症との闘いの真っ只中にあった、湖北省の咸寧市第一人民病院をはじめとする医療機関に医療物資を届けた。これは、感染地域内の医療機関に届けられた支援物資の第一号であった。その後、日本の各地で防疫物資が不足するようになると、四国華僑華人連合会は、神戸中華同文学校と横浜山手中華学校の生徒に防疫物資を送った。

感謝の心で恩返しを

未来への期待に胸を膨らませていた16歳の年、張嘉樹は、岡山の吉備国際大学へ単身留学することを決断した。中国と深い縁をもつ吉備国際大学は、当時、発展途上にあった中国を支援するために、授業料を免除するとともに特別奨学金を支給し、中国の学生に安心して学べる環境を提供した。

吉備国際大学が、張嘉樹の海外留学の夢を叶えてくれたのである。後に、社会的成功を手にすると、彼自身もまた、多くの子どもたちに、学ぶ機会を提供した。「四国華僑華人連合会中国私費留学生奨学金」を設立し、吉林省と陝西省の学校空白地域に、それぞれ「義慈希望小学校」と「四国華僑希望小学校」を建設した。

 

子ども達に民族の魂を伝える

張嘉樹一家は「子どもが母国語を忘れないように」との思いで、ハード・ソフト両面と地理的条件から総合的に判断し、子どもを神戸中華同文学校に学ばせた。その過程で、彼は中華文明を伝承することの重要性を深く感じた。

四国華僑華人連合会では毎年、予算の一部を確保し、華僑の子女への中国語および中国文化教育に充てている。四国華僑華人連合会が主導して、「四国四県中日大学生交流運動会」、「中国文化青少年大講堂」等の活動を行い、神戸中華同文学校等と協力し、「中華杯」中国語スピーチコンテストを開催している。最も歴史あるイベントは十数年続いている。コロナ禍であっても、子どもたちへの教育を停滞させてはならないとの思いで、「中国文化青少年大講堂」は、オンラインで開催している。

四国華僑華人連合会は、この十数年、現地の華僑同胞と共に、中国の伝統的祝日を祝ってきた。2019年には、中国駐大阪総領事館および中国駐大阪観光処の協力の下、春節を祝賀するイベントを「歓楽春節IN四国」として開催し、中日民間交流のプラットフォームを文化交流から経済交流へ、一地域から広域へと推し広めた。

ステージ上では、小さな子ども達が中国の古詩を心を込めて暗唱し、ステージの下では、招待された小学生たちが自発的に立ち上がり、それに唱和した。その瞬間、文明の共鳴と文化の力が会場を包み、誰もが感動の涙を流した。

取材後記

現在、カセイグループは、造船、船舶設計、国際貿易、海運、AIロボット、太陽光発電、コンサルティングと多領域に及ぶ国際コンサルタントシステムを構築している。

張嘉樹はインタビューの最後にこう語った。「世界の変化と祖国の発展を目にすると、いつも胸が高鳴ります。何よりも、私は祖国の科学技術の発展に期待しています。科学技術の発展が祖国の持続的発展を可能にするからです。その後ろ盾によって、われわれ華商は力を得て、新しい形で祖国に貢献することができるでしょう」。